昨シーズン、投手として10勝(4敗)、打者として22本のホームランを放った大谷。今シーズン終了後のメジャー移籍も噂されるが、二刀流は継続されるのか

去年の今頃、大谷翔平の二刀流に否定的だった御仁は今やすっかり手のひらを返し、「WBC(ワールドベースボールクラシック)では大谷を二刀流で使うべきだ」としたり顔で話している。

しかし、大谷のメジャー挑戦に話が及べば、今なお「メジャーで二刀流なんて無理に決まってる」と声がデカくなる。その根拠は、中4日のローテーションだ。

日本の中6日なら登板前後に休んでも最大4試合にDHで出られるが、メジャーでは同じだけ休んだら2試合しか出られない。連戦も多く、移動距離も長いメジャーでそんな起用法を続けたら体力的にもつはずがない、というのが常識に囚(とら)われた大方の野球人の発想である。

花巻東高校(岩手)1年の春に大谷の才能を見初めて以来、花巻へ通いつめ、いったんは高校生の大谷にメジャー挑戦を明言させたドジャースの元スカウト、小島圭市氏もメジャーでの二刀流については否定的だ。

「いや、僕はできないとは言ってませんよ(笑)。大谷君の突破力をもってすれば、メジャーでの二刀流もできると思います。ただ、“できる”というのは何を意味するのか…。10勝してホームランを20本打つなら、何年かは可能でしょう。でも、それで彼の持っている能力を最大限引き出したことになりますか? 彼は世界一の投手になれる器なんです。投手に絞らなければ、超一流の天井は突き抜けられないんですよ」

とはいえ、これまで「二刀流なんて」と歯牙(しが)にもかけなかったメジャーの空気が変わってきたことだけは間違いない。各球団は、“打者大谷”のポテンシャルについても、本格的な調査を始めている。小島氏はこう続けた。

「まずはふたつやらせてみて、ということだと思います。メジャーの球団にしてみれば、チャンスは与えるけど、入ってしまえばこっちのもの、ですからね(笑)。投手としての結果のほうが打者よりも先に出るでしょうし、初めて対戦するメジャーの投手を相手にDHを務めるのはかなり難しいと思います。

となるとDH制を採用するア・リーグでは早い段階で『打者はもういいだろう』ということになってしまいますから、ナ・リーグで投手として打席に立ったほうがいいのかもしれませんね。メジャーで『5番、ピッチャー大谷』なんて、カッコいいじゃないですか」

“15勝・30本”を実現させたら?

しかし、それでは“バッティングのいい投手”の域を出ない。二刀流というからにはDHのあるア・リーグで、中5日のローテーションを採用するチームが出てくるのが理想だろう。左打者が有利のヤンキースタジアムなら、ホームラン30本だって不可能ではない。メジャーで“15勝・30本”を実現させたら、アメリカでの野球の常識がひっくり返る。小島氏は言った。

「でも、そこに至るまではいばらの道ですよ。大谷君ひとりのために何人もの主力を動かすことになるわけですから、チーム内から反発が出るかもしれませんし、そこを変えるには10年はかかるでしょう。ローテーションを中5日にするとか、メジャーの選手枠を25人から26人にしようとか、ナ・リーグでもDHを採用しようとか…。

ただ、どんなことでも投げかけない限りは変わりません。たとえ10年かかっても大谷翔平がメジャーの歴史を変えたら、とんでもないことですけどね」

(取材・文/石田雄太)