NISSAN NOTE ○価格177万2280円~【Sグレード】 195万9120円~【Xグレード】 224万4240円~【MEDALISTグレード】 ○エンジン(発電用)/DOHC水冷直列3気筒 ○総排気量/1198cc ○燃費/37.2km/リットル【S】、34.0km/リットル【X、MEDALIST】 ○全長×全幅×全高/4100mm×1695mm×1520mm ※写真はXグレード

これは事件だ。昨年11月2日に発売された日産自動車「ノート」が国内販売で1万5千台超を記録(同月)。軽自動車も含めた全銘柄ランキングで1位となり、完全勝利を収めた!

日産車がトップの座を射止めるのは、実に30年ぶりのこと。今回、その立役者となった「ノートe-POWER(イーパワー)」とは、一体どんなクルマなのか? このクルマに込められた日産電動化戦略の未来図について、開発陣のふたりにたっぷり話を聞いた!!

■ハイブリッドに差し向けられた刺客

今回の快挙の直接的な理由は、ノートに「電気自動車のまったく新しいカタチ」とうたう「e-POWER」が追加されたことにある。その開発を主導した、小宮哲(こみや・さとし)氏は次のように話す。

小宮 哲氏

「ノート購入の約8割のお客様がe-POWERを選んでいます。デザインや室内の広さなど、従来から評価いただいていたノートの魅力に、e-POWERならではの走りの良さや静粛性、そして新しい運転操作感覚といった、今までのコンパクトカーの常識を『ちょっと超えた』性能を授けることができました。発売前から自信と手応えはありましたが、ここまでの反響をいただくのは、私たちにとってもうれしいサプライズです」

e-POWERはタイヤをモーターで100%電動駆動するクルマで、運転感覚は電気自動車(以下、EV)そのまま。ただし、外部コンセントからの充電は必要ない(というかできない)のだ。

エンジンがモーターを回す発電役に徹する「シリーズハイブリッド」と呼ばれるハイブリッド車の一種で、使い勝手は普通のエンジン車やハイブリッド車と変わらず、ガソリンを入れて走るだけ。カタログ燃費は(JC08モード)、34.0から37.2km/リットルとなっている。国内市場で長らく一番人気だったハイブリッド車のトヨタ・アクア同様、世界トップクラスの低燃費車なのだ。

もっとも、2012年に発売された現行型ノートは、以前から「日本で最も売れている日産車」の一台だった。e-POWER誕生前の一昨年(15年)でも年間約10万台を販売。国内コンパクトカーでのシェアは約15%で、首位のアクア(同31%)に次いで、ホンダ・フィット(同18%)とともに2番手グループの一角的な存在だった。

e-POWERの運転感覚はまんまEV!

今の日本でハイブリッドを持たずに、このシェアを維持していたのは素直にスゴイ。そう考えると、e-POWER(=ハイブリッド)の追加で、ノートが国内販売トップになるのは必然という見方もできる。さながらe-POWERは、現代ニッポンを席巻するハイブリッドに差し向けられたEVトップメーカー、日産からの「刺客」だ。

繰り返すが、e-POWERの運転感覚はまんまEVだ。アクセルを踏めば断続感もなくスルスルと走りだし、途中で変速もしない。発電用エンジンはバッテリーの状況などに応じて動いたり止まったりする。

また、右足を戻すだけで強力な回生ブレーキが発生するのもe-POWERの特徴だ。街中などの低速で条件が整えば、ブレーキを踏まずに停止することもできる。この「e-POWER DRIVE」も、このクルマ特有の超新鮮な運転感覚なのだ。

そして、この新時代のパワーユニットを支えるモーターと、それを制御するインバーターは、日産のEV「リーフ」と基本的に共通で、発電用の1.2リットルエンジンはノートのガソリン車とほぼ同じだ。つまりe-POWERは、日産がすでに持っている部品を巧妙に組み合わせて作り上げた、まったく新しいクルマなのだ。

「e-POWERの技術自体は、リーフの開発と並行して、先行開発として取り組んでいました。EVはどうしても航続距離に対する懸念を持たれますから、その『バックアップソリューション』を並行で開発していたんです。e-POWERも、そのなかのひとつです」(小宮氏)

日産が国内販売1位になるのはバブル時代にまでさかのぼる1986年以来。30年前の1位は6代目サニー(通称“トラッドサニー”) サニー以来、30年ぶりの快挙!!

「クルマの電動化と知能化」が自分たちの進むべき道

■e-POWERはEVからの派生商品

日産とルノーの電動化技術を率いる矢島和男(やじま・かずお)氏も、その品質について、こう胸を張る。

矢島和男氏

「e-POWERに使っている主要部分は、世界で20万台以上販売しているリーフでも使っている実績のあるものばかりです。技術的な心配は何もありませんでした」

日産は今、「クルマの電動化と知能化」が自分たちの進むべき道と大々的に公言し、そこに向かって大マジで突き進んでいる。その両輪のうち、「電動化」のカギを握っているのが矢島氏だ。

「1990年代後半、ハイブリッド車が出てきた当時、日産は『選択と集中』を迫られていました。ただし、目先のことだけを考えていたわけではありません。以前から日産にあったモーターや制御、バッテリーの技術などは残されました。これらはピュアEVだけに使われたわけではなく、ハイブリッドやe-POWERにも共通する技術なのです」(矢島氏)

クルマの未来像は、エンジン車からハイブリッド、そしてプラグインハイブリッド(PHV)を経て、ピュアEVか燃料電池車になるとちまたではいわれている。

そしてハイブリッドは一般的に、「エンジン車ありき」で誕生して、進化してきたともいえる。エンジンの弱点を補うためにモーターを追加したのが原始的なハイブリッドで、そのモーターをうまく働かせるために電池を積んだのが現在のハイブリッドの主流だ。そこから、電池をエンジンで充電するだけではもったいないと考え、外部充電機能を追加したのがPHV。さらに、「だいたい石油を燃やすのがまかりならん」と言われはじめたので、エンジンを取り外して、EVや燃料電池車にシフトしようとしているわけだ。

モーターとエンジンの駆動が混合するハイブリッドに対して、e-POWERは電気自動車と同じくモーターだけで駆動。エンジンはバッテリーへの電力供給に専念 電気自動車、ハイブリッドとはどこが違う? e-POWERの仕組み

日産の傘下に入った三菱自動車との関係

エンジンやモーターなど駆動系はエンジンルームにピタリと収まる。リチウムイオンバッテリーは前席下で重量配分も優秀だ これがe-POWERの心臓部だ!!

ところが矢島氏によれば、日産の場合はそれが、「そもそも逆なんです」と話す。

「日産がEVに踏み出した理由はいくつもあります。そこに、『後発でハイブリッドをやっても…』という思いがあったのも事実です。

しかし、EVで100%の電動駆動をやってみると、絶対的な効率で優れているし、性能面の利点も大きい。回転ゼロの状態から最大のトルクが出せるモーターの特性は何物にも代え難いのです。例えば、エンジン車ではアクセル8分の1程度の踏み加減ではほとんど差は感じませんが、モーターの場合は、その微妙なアクセルにも明確に追随して応答もいい。これは電動じゃないと出せない味です。

そうして駆動をモーターにしてしまえば、そこで使う電気の作り方や持ち運び方は、用途や技術、社会状況に応じて選択すればいい。今回、日産が選んだのが、電気をエンジンで発電するe-POWERだったのです」(矢島氏)

エンジンが黒子に徹するe-POWERゆえメーターもシンプル。ハイブリッドでよく見るリアルな作動図に、タイヤとエンジンをつなげる矢印は存在しない

なぜ最初にノートに搭載されたのか?

「リーフによって、少しずつ電動駆動の魅力が広がりつつあります。その良さをより多くのお客様に味わっていただきたいからです」(小宮氏)

日産とて、今のEVがそのままエンジン車の代わりになるとは考えていない。いろいろな野心や戦略から、リーフというEVを世界に先駆けて造り、売ったのだ。

それによって日産のエコカー未来像は、ほかの自動車メーカーとは正反対の「モーターありき」になったということだ。e-POWERは他社のハイブリッドとは違い、EVの側から派生した一形態なのである。

「現在の日産にはフーガ/スカイラインやエクストレイルなど、複数のハイブリッドがあります。しかし、今後は一貫した電動化システムの下、電気の作り方と持ち運び方について、時代の要請や技術の進化に応じたバリエーションを用意していく形にしたいと考えています」(矢島氏)

そこで気になるのは昨年、日産の傘下に入った三菱自動車との関係だ。

「三菱のアウトランダーPHEVには、正直『やられた』と思いました(笑)。三菱さんとはすでに話し合いが始まっていますが、私たちと本当に話が合うんですね。三菱のPHVも、やはりEVからの発想です。PHVを実際に世に出して得た彼らのノウハウは日産にはないもので、本当に役に立つとすごく期待しています」(矢島氏)

昨年5月に資本提携を電撃発表したルノー日産と三菱。最初から電動化でのパートナーシップが期待されているが、現場では外野の想像以上に親和性が高そうな雰囲気 三菱との提携でどんな商品が?

リーフは今後どう進化していくのか!?

歴史的な量産電気自動車となった日産リーフはすでに累計20万台を生産。日産の電動化戦略はリーフがすべての源流!?

■リーフの進化は? GT-Rに新形態!?

では、e-POWERの“源流”であるリーフは、今後どう進化していくのか。矢島氏は次のように明かす。

「現行リーフの航続距離(JC08モードで280km)を伸ばしたEVを開発中です。例えば、航続距離を500kmから600kmにすることは技術的にそんなに難しくはないと思っていますが、問題は充電時間です。エンジン車の給油と同等の3分や5分にするのは、今のバッテリー技術では、そう簡単ではありません。

EVは常日頃、エンジン車と比較して悪い面だけをピックアップされがちで、それらをすべて『エンジン車相当にしてほしい』と言われてしまうのですが(笑)、そもそもエンジン車とEVは違うものです。目的に応じて両方を使い分けることもできますし、静粛性や走りなど、EVの利点もたくさんあります」

さらに矢島氏が続ける。

「実際、航続距離を伸ばしたEVを日常的にテストしていますが、充電時間は長いままでも、航続距離が増えるだけで行動範囲がグンと広がり、充電のストレスは飛躍的に軽くなります。私たちとしてはEVの悪いところばかりを気にするのではなく、EVの良いところをもっと伸ばしていこうと考えています」

小型ボディにリーフのパワーを合わせたノートe-POWERはマジ速。右足ひとつで加減速自在の運転スタイルは新形態! これまでにない運転感覚!!

ところで日産といえば、リーフとは対極的に、エンジン車の権化にして親玉のようなGT-Rも持っている。電動化時代には、やはりGTRのようなスーパーカーは消えていく運命なのだろうか?

「GT-Rが好きか嫌いかといえば、私は大好きです(笑)。ただ、今のままもっと出力を上げればいいのかというと、そうではないとも考えています」(小宮氏)

「アクセルを踏んだときのレスポンスに、人間は非常に敏感です。もちろんGT-Rは、ターボがかかってからの加速やレスポンスはスゴイですが、電動駆動のレスポンスの良さをGT-Rのようなクルマにも将来は生かせるのではないかと考えています」(矢島氏)

そう不敵に笑う矢島氏には、すでにGT-Rの新形態が見えている!?

「昨今のCO2排出規制は電動化への追い風でもありますし、規制は当然クリアするわけですが、そのためにクルマの楽しさを犠牲にしたくはありません。少し欲をかいて、その両方でいろんなことを実現したいと思っています。電動化はそのために最適な技術なんですよ」(矢島氏)

日産から次々に飛び出す、新たな“チャレンジ”から目が離せそうにない!

●小宮 哲(こみや・さとし)第一製品開発部・チーフビークルエンジニアとして、e-POWERを含むノートの技術開発をまとめた。ノートだけではなく、日産最小のVプラットフォームを土台とするコンパクトカーの面倒も見ている

●矢島和男(やじま・かずお)リーフのバッテリー開発も担当した電動化のスペシャリスト。現在はEV・HEV技術開発本部のアライアンス・グローバル・ダイレクターとして、ルノーを含むグループ全体の電動化技術を取り仕切る

(取材・文/宇田健一郎 撮影/岡倉禎志)