「ジャンプらしくない」?オトナなサスペンス感が魅力!と大反響の『約束のネバーランド』(定価各400円+税)。単行本第2巻が2月3日発売!

昨年8月から『週刊少年ジャンプ』誌上で連載が開始された異色のサスペンス作『約束のネバーランド』(原作:白井カイウ/作画:出水ぽすか)が今、話題だ。

物語の舞台は、とある町はずれの森の中に存在する孤児院“グレイス=フィールドハウス”。ここは優しい“ママ”こと淑女イザベラの保護のもと、12歳以下の孤児たち38人が慎(つつ)ましくも仲良く暮らす平和な施設…のはずだったが、そこで暮らす最年長12歳の少女・エマはある日、この施設の真の姿を知ってしまう…。

エマは仲間たちの命を守るべく、頼れる同い年の天才孤児・ノーマンと一緒に皆を引き連れ、密(ひそ)かに“脱獄”計画を実行しようとするが…。 

読者の反響は「ジャンプ作品なのに全然ジャンプっぽくない!」「漫画なのに上質の海外ドラマを見ているようで、毎回続きが気になりすぎる!」等々、『少年ジャンプ』というブランドの中にあって、そのカラーに縛られない自由な作風で独自の路線が支持されている。

その単行本第2巻が2月3日(金)に発売。そこで今回、作者である白井カイウ、出水ぽすかの両先生に独占で初のロングインタビューを敢行。その立ち上げから担当する編集・杉田卓氏を交えた3人に、この異色作の誕生秘話からその作風の裏側にある創作への想いまで存分に語ってもらった! (前編・『約束のネバーランド』著者が語る「300ページの持込みからデビューまで」』参照

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―連載が始まったのが2016年8月。セオリーから外れているというお話の通り、ジャンプで異色の作品が始まったということで早速、話題になりました。欧米を思わせるこの舞台設定も独特で、日本の風景など読者が共感しやすい場所をあえて外すというのも珍しいのではと。

白井 でも、こんな不思議な話を日本の風景の中でやっても、それはまた違和感が出ると思ったんですよね。知ってる風景の中だと、返って物語がフィクションであることが際立ってしまって、陰鬱(いんうつ)な感じだけが強調されてしまうということもあるかなと。

―その雰囲気も手伝って海外ドラマっぽいという表現をされることも多いようですが、創作活動の上で影響を受けた作品などはありますか? 

白井 それはたくさん。漫画家ということだけに絞っても、かなり多くの先生に影響を受けています。コマ割りに関していえば、ジャンプの先生ではないんですが浦沢直樹先生ですね。私の作るネームはかなり細かく割っててコマ数が多いんですけど、その中で相対的に大事なコマを大きく見せる手法はまさに浦沢先生のそれですし。

イマジナリーラインや視線誘導の合理性などは小畑健先生の技術を参考に。あとは『魔人探偵脳噛(のうがみ)ネウロ』が大好きだったので松井優征先生からの影響も大きいですし、サスペンスの描き方は『ジョジョ』の荒木飛呂彦先生と、いろんな先生方から少しずつ勉強させていただいている感じです。

連載第1話の記念すべき初一枚絵

―漫画以外からの影響も大きいように感じるのですが、映像作品なども? 

白井 はい、映画もよく観ますね。好きなのはいろいろあるんですけど、ひとつ挙げるならイライジャ・ウッドとマコーレー・カルキンが共演した『危険な遊び』というサスペンスがあって、これがものすごく好きです。

―やはりサスペンスなんですね。 

白井 ええ、マコーレー・カルキンがみんなの前では天使のようないい子なんですが、これが裏ではものすごく真っ黒で、その正体をイライジャ・ウッドだけが知ってるという。『約束のネバーランド』でいえば、まさにママもそうなんですが、そういう二面性のあるキャラやドキドキハラハラするシチュエーションが好きなんですよね。

クローネの顔芸の妙!

―まさにルーツが垣間見えるお話です(笑)。それと、誰が本当のことを言っていて誰が裏切り者なのかが目まぐるしく入れ替わっていく様は、まさに先ほどの海外ドラマというところでいうと金字塔ともいえる『24』シリーズに近いものを感じるのですが? 

白井 やはりそこは杉田さんとも最初に示し合わせて、狙っていたところではあります。だってジャンプ内でも他の漫画は激しいバトルでどんどん派手な見せ場を作っている中、自分たちはそれを上回るほどの心理戦で、強い引きを作っていくしかないですから。

―バトルじゃなくて心理戦なんですよね。それを象徴するのが“鬼”という存在の立ち位置だと思います。第一話で異形の恐ろしい存在だったのに、その後はしばらく出てこない。でもじゃあ、平穏なのかというとそんなことは全くなくて、鬼より人間のほうが何を考えてるのかわからなくて怖いという…。 

白井 だからこそ出水先生のお力がとても大事なところで、地味にならないよう常に注意しないといけません。自分でネームを作っておいてこういうのもなんですが、しっかり読者の共感を得るために、どこでどんな絵で見せればいいかという、そのバランスやタイミングがとても微妙で難しい作品だと思います。穏やかな流れの中で、にこやかだったキャラが急に恐ろしい様子に豹変(ひょうへん)するようなメリハリも大事ですし。

―シスター・クローネの顔芸なんてすごいですよね? 

白井 私も彼女は出すのが毎度楽しみですね。頭いいんだけど、悪いところが愛おしくて大好きです!(笑)

出水 クローネは私も描いてて楽しいから好きですね~。

―イザベラママのコマごとに清楚さと邪悪さが見え隠れする感じもたまりません。 

出水 私としてはクローネに負けないくらい、ママも描いててすごく楽しいです。

―それはどういうところが? 

出水 ママだけは決して崩れないんですよね。今出てるキャラクターたちの中では唯一、美しく描くべきキャラだと思うんです。だから描いてる時は気を抜けない。ピンと引き締まる思いがします!

白井 もっともクローネにしろママにしろ、それだけに描き方も難しいはずなんですよ。だけど出水先生はそこの微妙な演出も、ひとつ言うだけで10伝わるほどにバッチリ受け止めてくださるので…私も毎回ワクワクしながら頼めます。

出水 でもやっぱり、毎回緊張するんですよ。本当にこの表現で大丈夫かな、白井先生の意図とずれてないかなって。

白井 全く問題ありません! 本当に毎週「ありがとうございます」しか言葉がないくらいです(笑)!

出水 いえいえ、そこはネームの段階で白井先生がかなりキッチリ作っていただけるので、私もあまり読み間違えずにやれてるのかなと。

出水先生が描いていて楽しいというシスター・クローネ(左、コミックス1巻の2巻予告ページより)と清純なイメージのイザベラママの恐ろしさが垣間見えるコマ

最初に騙されているのは出水先生?

杉田 編集の立場からすると、原作と作画の先生が異なる場合、まさにそこが一般的に最も気を遣うところです。例えば、キャラの表情ひとつとっても、とあるセリフで原作者の思い描く表情と、作画の方がそのセリフから思い描く表情の齟齬(そご)というのは必ず出てくる。

その微妙な差異を一番いい形でアジャストしていくのが、原作と作画が分かれての作業の場合、一番の課題になってくるんですよね。そうしないと、作家の意図と読者の印象がズレていって、物語やドラマを効果的に進められなくなることがあるんです。そうした懸念から読切『ポピィの願い』で連載の前に一度その相性を見定める必要がありました。

長年コンビを組んで一緒にやってこられた先生方なら、以心伝心で通じるようにもなってくるんですが、おふたりは最初の仕事からそこに齟齬がほとんど生じなかった。それは奇跡的な出会いだったと僕も驚いています。言い方を変えると、編集者としてかなり楽できました(笑)。それがなかなかかみ合わなくて調整するのも、僕らの大事な仕事のひとつですから。

白井 出水先生はとにかく私のネームを読みこんで、そこからあらゆる可能性に想像を巡らせてくださっているのがよくわかるんです。その中から選び取ってくださった表現は、場合によっては私の想像通りどころか、超えてきてくださることすら、ままあって。だから私はネームをお渡しして、それがどんな原稿に仕上がったのかを見る瞬間が本当にいつも楽しみなんです。「ああ、ここはこうきたか!」みたいなやり取りが本当に幸せで。

―具体的にシーンを挙げるとすれば? 

白井 たとえば9話のラストでノーマンが笑ってるんですが、そこがまさにそうでした。

出水 ああ、はいはい。ほんのりとね(笑)。

白井先生が印象的だったという9話ラスト

白井 ここ原作では特に笑ってなくて、出水先生の下書きの段階でも笑ってなかった。でも最後に上げていただいた原稿をみたら、なんとも言えない笑顔をしていて。最初は伏線上の理由から「え?」と思ったんですけど、見てるとやっぱりこの表情がいいんですよね。やっぱこうだなってなる。そうなると採用せざるを得ない(笑)。

―そこは原作と作画の先生が分かれていらっしゃる作品の醍醐味かもしれませんね。

白井 ええ、自分では予想し得ない素晴らしい仕上がりになることがよくあって。本当に出水先生はそう描いてくださることが多いのでありがたいですね。

出水 白井先生が私の原稿の仕上がりを楽しみにしてくださるのと同じで、私の立場からいえば、そこは白井先生のネームが毎週送られてくる瞬間が楽しみなんですよ。単純に一ファンとして話の続きが真っ先に読めるというのもあるんですが、それだけじゃなくて(笑)。

まずはそのネームをざっと読んで、今回の見せ場を探す。この作業が毎回楽しみなのと、あと白井先生がすごいのは、あえて私に何も先の展開を知らせないまま、このシーンを描いてほしい…という要望が時々あるんです。そのたびにちょっと楽しいんですよね。「きましたか!」って(笑)。

白井 だって、知ってたら無意識に出ちゃうことってあるじゃないですか。「ああ、ここでこの人、こんな優しいこと言ってるけど、どうせ後で裏切るんだよな~」とか。だからあえて伝えないことで、どんな絵にしてくださるか、私も楽しみなんですよ。

 

―読者を騙(だま)すにはまず作者から? 

出水 まさにそれですね(笑)。そういう場合はいつも相当考えるし迷いますけど、同時にすごく挑戦し甲斐があって楽しいんですよね。白井先生があえてそうされた意図や物語の先を想像しながら描くという、読者と作者の中間のような立場がとても面白いです。

白井 そうして私のネームひとつでとことん考え抜いてくださるので、そこは本当にありがたいですし、作家として心から尊敬しているところでもあります。そう、それで一度、本当にすごいと思ったのは出水先生、私のネームからモブキャラ全員に名前を付けて、設定まで全部考えてくださったんですよね。

やりたいのは“友情、努力、勝利”

―もしかして…あの施設の子供たち全員ですか? 

出水 モブキャラって楽しいんですよ(笑)。特にあの施設の子供たちは、主人公のエマやノーマンからするとみんな大事な仲間のはずですから。ひとりひとり描きながらあれこれ想像してると、だんだん止まらなくなってきて…それで私がどこまで勝手に設定作っちゃっていいものかわからなかったんですけど、作っちゃったしせっかくだから白井先生に送っとけみたいな。そしたらそれがそのまま全部、採用になって(笑)。

白井 そもそもメインキャラ以外の子供に関しては、私が作ってた設定は全員で何人、その中に何歳の子がそれぞれ何人…というところまでだったんですよ。でも「この子は多分、こういう子ですよね?」って、私が作りこめてなかった部分まで全部想像して考えてくださって。

ただでさえ、すごく作業量が多い中なのに、その合間を縫ってそこまで考えてくださったのかって。そこまで私のネームを読みこんでいただけているというのは、感動しちゃいますよね。とにかくこの作品の設定づくりは、出水先生だからこそ…というレベルのことをたくさんお願いしていて。 たとえばハウスの間取り設定にしても何パターンか作っていただいて、その中から先々の話の展開まで一緒に考えて決めてたり。

出水 設定作るの好きなんですよ。さっきのモブキャラたちと一緒で、考え始めると止まらなくなってきて、じゃあもう全部出しちゃえみたいに必ずなってしまうので(笑)。

抱きかかえる赤ちゃんにも緻密な設定が!

白井 だから出水先生の存在がますますこの作品の設定を緻密にしてくださっているんですよね。私も先に作り込む方だと自分で思ってましたけど、それ以上にすごいので。そうなると原作者として手抜きができない(笑)。

出水 でもそれは、私の出したものに白井先生もしっかり考えて答えてくれますから嬉しいんです。だって、作って送った山ほどある設定の候補案全部に感想を書いて送り返してくれるんですよ。それを見ると、本当に真剣に吟味してくれたのがわかりますし。そのキャッチボールが心地よいんですよね。

―ほんと、まだ組まれて1年弱とは思えないほどに理想的な関係ですね。 

白井 はい、本当にいい先生に巡り会えたと私も心から思ってます!

出水 いえいえ、そこはお互いさまですから…(笑)。

―さて、それではそろそろ最後の質問です。異色の作品と言われることも多いかと思いますが、ズバリ、この作品を通して読者に伝えたいこととは? 

白井 そこは非常にシンプルで、ジャンプのスローガンでよく“友情・努力・勝利”という言葉が掲げられますけど、やりたいのはそれです。ジャンプのセオリーをさんざん無視して作ってるので、アンチみたいに思われるかもしれませんけど、女のコが主人公でも、バトルがなくても、結局は希望を胸に“友情、努力、勝利”に繋がっていくような話を、ちょっと違う角度からやっていきたいだけなんですよね(笑)。

"約束”という言葉に秘められた思い

―今後の展開としては、あまり詳しくは言えないと思うんですが…たとえば、エマたちが脱獄した先の世界の設定やストーリーなどはもうある程度決まっているんですか? 

白井 はい、そこはもう決めてますね。その意味が『約束のネバーランド』というタイトルになってます。

―おお、そこまで言っちゃって大丈夫なんですか? 

白井 ええ、大丈夫です。だから、そこに関わりのない箇所では明らかになるまでは「約束」って言葉はこれまでずっと、使いたくてもセリフなどでは意図的に避けて使わないようにしてきたんです。

―意味深ですね。 

白井 実は最初、漫画のタイトル自体も『ネバーランド』だけのつもりだったんです。でもそこに何かもうちょっと足そうということになって、そこは『約束のネバーランド』にしたんですが、そこでつけた「約束」という言葉がしっかり物語の核心にリンクしていくような展開を考えていますので…どうぞこれからも楽しみにしていてください!

―それはとても楽しみですね。 

白井 エマたちが無事に脱獄できたら「約束のネバーランド」の意味がわかる予定なので、それまでに打ち切りになってしまわないように頑張りたいと思います(笑)!

―じゃあ、出水先生はちょうど今、その後の脱獄後の展開に向けて、デザイン設定なども…? 

出水 はい。大量に作らなきゃいけないので恐ろしい半面、自分でもどうしようか、かなり楽しみにあれこれ考えている最中です!

―ちなみに、コミックスの発売予定も3巻まではすでに決定されて…。

白井 はい。1巻、2巻と発売されて、その後は4月に3巻が出る予定です。その3巻から4巻くらいまでで脱獄編は決着して、次の展開に進めたらいいなぁと、予定は未定ですけどなんとなく今は考えています。

―そしてその先…のお話まで聞けましたね。本当にますます楽しみです。 

白井 私としては、作画をお願いした本領もまさにその先の展開から本当の意味で活かしていただけると思ってます。きっと出水ワールド全開の世界が楽しめるかと思うと、一ファンとしても楽しみです(笑)!

出水 はい、頑張ります(笑)。私が聞いている限りの範囲だけでもかなり面白い話になると思うので、その面白さをしっかり伝えられるよう、ますます気合い入れていきます!

白井 もちろん私も頑張りますし、皆さんに読んでいただいて楽しんで話題にしていただけるのが一番嬉しいことなので。ご期待いただければありがたいです。よろしくお願い致します!

―今日はお忙しい中、おふたりそろってお話いただき、本当にありがとうございました。

 白井カイウ 

原作担当。2015年、「少年ジャンプ+」読切『アシュリー=ゲートの行方』で原作者としてデビュー。2016年、「少年ジャンプ+」読切作『ポピィの願い』にて作画・出水先生と初のコンビ作品を発表。2作とも大きな反響を得て、同年8月から『約束のネバーランド』を週刊少年ジャンプにて連載中。

 

出水ぽすか

作画担当。イラストコミュニケーションSNS「pixiv」にて人気イラストレーターとして活躍。コロコロコミック『魔王だゼッ!!オレカバトル』連載など漫画家としても活動。2016年「少年ジャンプ+」に読切作『ポピィの願い』でジャンプデビュー、同年8月から『約束のネバーランド』を週刊少年ジャンプにて連載中。

 

(取材・文/山下貴弘 (c)白井カイウ・出水ぽすか/集英社 (c)秋本治・アトリエびーだま/集英社【2巻表紙のみ】)