トランプが巻き起こすテロと戦争の時代とは? 鈴木宗男氏(左)と佐藤優氏が解説する!

鈴木宗男・新党大地代表と元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」

今回のテーマは、新大統領トランプ。メキシコ国境での壁建設や核戦力の増強の宣言など、就任早々、強大な権力を行使しているが、彼がそもそも過激な行動・発言を繰り返す理由を前回までは分析した(前回参照⇒『 信仰する宗教から読み解く“選ばれし者”の意識』)。

では、その先にある危機的シナリオとは…?

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鈴木 そんな親イスラエルで、宗教的にタフな思想を持ったトランプ大統領はこれから何をするんでしょうか?

佐藤 トランプは就任後、最優先でテルアビブの在イスラエルアメリカ大使館をエルサレムに移すと言っていますね。これが世界大混乱を巻き起こしかねない。

もともとエルサレムの東半分はイスラエルが1967年の六日戦争(第3次中東戦争)で占領した後、一方的に併合して首都だと主張している地域です。一方でパレスチナ側も将来の国家の首都になるとしている。どちらかの立場につく姿勢を明確に示せば、中東情勢の悪化は避けられないので、各国はエルサレムには大使館を置いていません。

ただアメリカでは、大使館はエルサレムに置くという条項を含む法律が22年前に議会によってすでに作られていたんです。しかし歴代のアメリカ大統領は「今の中東情勢を考えると無理だから、もう半年待ってください」を繰り返して、22年間大使館の移転を先延ばしにしてきた。

だから、ここにきてトランプは「議会で決めたことだから、俺は邪魔しないよ。もしいやなんだったら、法律を撤廃したら?」というスタンスを取っている。トランプがやることは簡単なんですよ。

鈴木 彼はこの件に関して実によく勉強していると。では、大使館が移転されると何が起こるんでしょう?

佐藤 まずパレスチナ過激派は、イスラエルに武装攻撃を開始するでしょう。そして、アラブ諸国と対米、対イスラエル関係は急激に悪化して、第5次中東戦争が勃発しかねません。

さらに、国内に全パレスチナ難民の半分ぐらいを抱えているヨルダン王国体制も転覆する可能性がある。すると、そこに生じた権力の空白を「イスラム国」が埋める可能性が高い。アメリカ国内でも、9・11をはるかに上回る規模の同時多発テロが起きます。もちろん、NATO諸国や米国との同盟国の日本もテロの対象となります。

中東外交の初歩的な知識を持った人であれば、エルサレムへの大使館移転がどれだけ否定的な影響をもたらすかわかるはずなんですが、トランプの周りにはそうした人が残念ながらいないみたいです。

トランプは歴史上まれに見る大量殺戮者に?

また、ここで厄介なのがトランプの相手がアルカイダや「イスラム国」だということ。彼らは思想的に死を恐れずに戦いを挑んでくるんです。

対する、神に選ばれし者のトランプの世界では、勝つことは決まっているわけだから相手が抵抗してきたら、諦めるまで徹底的に戦い続ける。死者が5万人で済むか、200万人になるか、数千万人になるかは相手次第。

週プレ たとえ数百万人が亡くなったとしても、それは神の与えた試練だからクリアしていくのみと?

佐藤 そうです。困難があればあるほど、より激しいやり方で過激派を根っこから絶とうとするでしょう。最後まで戦い抜くイスラム過激派が相手であれば、トランプは歴史上まれに見る大量殺戮者になるかもしれない。

そして私は、このトランプの考え方はロシアのプーチン大統領に近いと感じています。プーチンは今、シリアのアレッポでアサド政権と一緒になってイスラム過激派を皆殺しにしている。アサド政権に大量の強力な最新兵器を供与しているのも、敵を皆殺しにする姿勢の表れです。シリア人が扱えないからわざわざロシア人軍事顧問が行って操縦しているくらいですからね。

プーチンはチェチェンで30万人は殺していますから、シリアが加わると殺した数は50万人を超えます。まあ、トランプの場合は、アメリカはロシアの国力の10倍あるから「500万人殺す力があるところを300万人程度に抑えたら人道的だろ?」くらいに考えるでしょうけどね。

とにかく重要なのは、こうした人がアメリカの大統領になっていること。そして彼は理屈で説得できないんですよ。信仰で動いている。だからこそ、厄介なんです。

★『週刊プレイボーイ』8号(2月6日発売)「東京大地塾レポート(26)」より

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。衆議院議員時代から長年北方領土問題の解決を目指し奔走している。現在は今年4月の公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、東京都出身。外交官時代は、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活動中

■「東京大地塾」とは?毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は2月23日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)