大ベストセラー『家族という病』に続き、下重暁子氏が刺激的な『若者よ、猛省しなさい』で伝えるものとは…

 「家族や血縁は共に愛し合い助け合うもの」――そんな美化された家族像に鋭くメスを入れ、「家族とは何か」という根本的な問いを突きつけた超ベストセラー『家族という病』。

2015年3月の発売以来、多くの反響を呼んだこの話題作に続き、著者の下重暁子(しもじゅう・あきこ)氏が挑んだ新刊のテーマは“若者”だ。

そのタイトルは『若者よ、猛省しなさい』――『家族という病』同様、思わずドキッとさせられるが、自身のNHKアナウンサー時代の経験を交えながら、「お金」「恋愛」「組織」「感性」「言葉」などの様々な観点から「若者とは何か?」を考察するとともに叱咤激励し、“若者のあるべき姿”を論じている本作。そこに込められた真意を前編記事に続き、伺った。(聞き手/週プレNEWS編集長・貝山弘一)

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―その「媚(こ)びずに生きる」ということが一番大変なんでしょうけど。

下重 そりゃあ大変ですよ。だから、みんな一番ラクなことをしているわけですよね。

―舞台などを観に行っても、最後に必ず拍手をするじゃないですか。「なんで?」と思うことがあって。海外だったら、ダメなものにはブーイングが起こるわけで、観客が態度で評価を伝えるというものもあると思うんですが。

下重 批判精神があるかどうかも、若者か若者でないかの境目なんですよ。それがない人は若者じゃない。批判できる勇気を持てる人が若者なんです。

―勇気もそうですし、その根拠となる知識や、何か芯になるものをちゃんと自分の中に持っておかないと、意見を戦わせることはできないですよね。

下重 そうですね。それでたぶんね、強い奴に合わせて笑っている人は、そうすることで自分の立場がよくなると思ってる。でもそうじゃない、逆なんですよ。実は批判精神を持って、みんなが同調しているような場からサッと逃げたり、冷ややかに見ていたりする人のほうが上の人間は気になるんです。「あいつはなんなんだ」って。それが大事なんです。

―確かに、そういう人間のほうが目立ちますよね。どうも最近は「和を尊ぶ」とか「みんな一緒に」という精神が行き過ぎてしまっている気がするので。

下重 誰とでも仲良くなんかできるわけないじゃん。でも、だからといって喧嘩をするのにもエネルギーがいるし、疲れるから喧嘩すること自体が怖くなってるんじゃない? 今の若者は疲弊しちゃってるから、ラクなほうを選んでしまう。若者だったら喧嘩しなきゃ。殴り合いでもなんでもいいから(笑)。

―若いんだから、もっとやんちゃしていいと(笑)。ちなみに、今は反抗期がない子供も増えていると聞きます。

下重 大人になっても母親と仲良く買い物に出かけるような“ママっ子男子”が増えているみたいですね。私からすると、反抗期がなくて「尊敬しているのは親」だなんて、冗談じゃない。親は反抗すべきものなんだから。

「楽」を「楽しい」と読ませちゃダメ

―もちろん、尊敬すべきものも必要でしょうが。「我々は“親殺し”しなきゃいけない」というのが私の考えで。それを乗り越えないと、大人になれないというか。

下重 そうそう。私も実際に殺しはしなかったけど、心の中では何遍も殺してた(笑)。今の子にそれが本当にないとしたら、気持ち悪いね。

―動物の子育てを見ても、ある程度育てたら親が子供を突き放して独り立ちさせますよね。でも、人間はちょっと違ってきてしまっている。

下重 「家族は寄り添うのがいい」という向きがあるから。でも、それでは若者は育ちませんよ。そういう意味でも人類はどんどん衰えてきているよね。完全に消滅に向かってる。日本人は特にそうだと思います。

―親と子がべったりで若者が育たないというのはもちろん、日本人男性は“草食化”もいわれるように、メスの奪い合いでは傷つきたくない。それこそエネルギーがいるし、そんなしんどいことをしなくなっている傾向が…。

下重 そう、しんどいことを避けて通ってる。生活全てにラクなほうを求めているんじゃないですか。もちろん何も考えないで、何もしないのがラクだけど、それだとちっとも楽しくないのよ。私もNHKのアナウンサー時代、人と同じことをやってる時は、鏡を見ると魚が腐ったみたいな目になっててね。元々、なりたいと思って始めたわけじゃない、嫌いな職業だったというのもあるんだけど。

でも、NHKの番組紹介のアナウンスを任された時からちょっと変わってきたんです。その仕事は、毎日10秒間で「今日はこんな番組があります」と紹介するものだったんですけど、どのアナウンサーも毎日同じような笑顔を浮かべて、同じような挨拶をしていてね。見ていて「毎日こんな同じことをやってて、バカか」って(笑)。

だから私は「毎日出るなら、毎日違う挨拶にしてやろう」と思って、ネタを探すようになったんです。「今日、日比谷公園を歩いてきましたら、サルビアの紅がすっかり濃くなってました」とか「遠くで雷が鳴ってます」とか毎日変えて。たった10秒間だけど、道を歩いてる時も「何かないかな」ってキョロキョロしてね。

―毎日違うネタって、もちろん大変でしょうけど。そうやって前向きに…。

下重 結構しんどいことだったのよ。でも、そうしているうちに目が輝いてきて「あの人の挨拶は面白い」って反響がくるようになって、社内でも他の番組を任せられるようになりました。自分で楽しむ努力をしたら、どんどん道が拓けていった。そうして、ずっとやりたいと思っていた文章を書く仕事もできるようになって、出版社から本を頼まれるようになった。

だから、最初にも言ったけど「楽(ラク)」を「楽しい」と読ませちゃダメですね。しんどいことをやらない人は、本当の楽しさがわかりませんから。

弱らせて、国の言うことを聞かせたい?

―同じ仕事を続けていても、自分自身で面白くしていくとか、常にやり方を工夫するとか考え方の転換が大切ですね。

下重 そう。だから「環境が変われば、自分も変われる」と思っている人はダメね。今いる環境で、どう楽しみを見つけるか。そこからしか道は拓けてこない。同じ場所でも、自分を変えると環境が拓けるんですよ。

―どの分野でもすごい人は、そうですもんね。

下重 職業でいうとね、講演で気仙沼に行った時に、朝市か何かで毎日朝から晩まで牡蠣(かき)の殻剥きをやっている人を見たことがあって、すごいなぁと思ったんです。ものすごく尊敬しましたし、「あ、負けた」って感じがしましたね。同じ作業のように見えるけど、あの人たちは毎日その作業に違いを見出して「どうやったら牡蠣の身を取れるようになるか」ってやってるんですよね。

―それこそ、本当に日々の内省ですよね! それで言うと、若者がただ漠然とラクなほうに行ってしまったら、そこで終わりだよと…。

下重 やっぱり今、若者が疲弊していると思う。このままだと、社会が衰えますよ。

―逆に、国自体が疲弊させるような世の中を作ってしまっている気さえしますが…。

下重 弱らせて、国の言うことを聞かせたいのかもしれないね。国民が反発しなくなれば管理しやすいし、ラクだもん。国への反発というと、昔の学生運動っていうのは面白かったですね。私もアナウンサーとして取材しましたけど、あの時みたいな若い人のエネルギーってやっぱり大事だと思うんです。今はみんな、国に対しても何に対しても怒りを忘れてね。怒りを忘れた人間は、一番最悪の状態だと思う。

―内的衝動がない、エネルギーが外に出て行かないっていうことは、生き物として末期症状ですよね。

下重 本当に終末の一歩手前ですよ。社会もそうだし、自然現象もそうだし、いろいろなことが重層的に重なって、思いがけない時にバッときて終わりよ。

―恐ろしい話ですけど、人間自体が弱くなってしまえば、脅威には立ち向かえないですし。本当にSFのような世界が目前に迫っている…。

下重 そう思います。私が好きな作家の村田沙耶香さんが書いた『消滅世界』という小説がありますけど。そこで描かれる未来では、夫婦間のセックスは“近親相姦”とされていて、人工授精で子供を作るのが普通になってる。男だって人工の子宮で子供を産めるような世界なんです。もう、男だって女だっていいわけです。

―「日本の未来を予言している」と話題になった作品ですね。「子供をつくる」行為と恋愛が完全に分離されていて、恋や快楽の対象は「キャラ」と呼ばれる二次元の存在という…。今の若い男性の中にも、性欲処理はネット動画やエロ画像を使って自分でやるほうがお金もかからなくて、傷つかなくていいと考えている人が増えていますが。

下重 『消滅世界』とまさに同じ。これは、虚しい話ですね。

むしろ、不倫こそ純愛ですから

―自分は昭和世代で、上の世代の格好よさや生き様を見てきて、恋愛においても傷つくことの美学というか、ダンディズムに憧れを持ってきたので、そういうものを下の世代にも伝えられたらと思うのですが…。

下重 伝えようとして伝わらないと虚しいですけど、虚しくても伝えるべきですよね。現実に、自分もやっぱりそういうことを失っちゃダメだと思うから。私は失ってませんよ。今だって恋をしていますし、トキメキもあります。「枯れた」なんて言ってられませんから。

―逆に年を取るほど経験が蓄積されて、泉のように内側から溢れ出るものがあって。全然、枯渇してないわけですからね。

下重 結婚なんかしなくたっていいけど、恋愛はしなきゃね。

―結婚は明治以降に植え付けられた戸籍制度に振り回されているだけなので、もっと自由に恋愛していいんですよね。まぁ今はゲスだなんだと非難も多いですが(苦笑)。

下重 私は、植え付けられてないと思っていたけど、つれあいと籍を入れちゃったから。それは大失敗だと思ってますよ(笑)。戸籍なんてものに囚われるから不倫した人が悪者扱いされてしまうけど、そんな倫理観もくだらないと思います。

むしろ、不倫こそ純愛ですから。私は近松門左衛門が好きなんですけど、心中とか不倫とかそんな話ばっかりよ。あの時代は、死をかけないと不倫なんてできなかったからね。死をかける恋愛なんて、純愛以外の何ものでもない。

近松門左衛門の言葉に「恋というもの男も女も身をかばうてなるものか」というのがあるんですけど、とても好きな言葉ですね。

―本来、恋愛はなりふりかまっていられないものでしょうしね。

下重 面倒くさい過程があって悩むものですから。それが嫌なんだったら、結婚だけすればいい。安定と社会的な信頼は得られるでしょうけど、それの何が面白いんだろうね。

―本当にそうですね。若者論に絡んで、恋愛論もたっぷり伺わせていただきましたが、次回作は不倫も含めた男女の恋愛をテーマに是非…(笑)。

下重 もう今、書き始めてますよ。

―そうでしたか! それはまた、タイトルも楽しみです。

下重 タイトルももっと刺激的にしないとね(笑)。

―今回はいろいろな意味で「猛省」しなければと思わせられました。本日はお忙しい中、ありがとうございました!

(構成/岡本温子[short cut]、撮影/藤谷勝志)

下重暁子(しもじゅう・あきこ)早稲田大学教育学部卒業後、NHKに入局。女性トップアナウンサーとして活躍後、民放キャスターを経て、文筆活動に。2015年に大ベストセラーとなった『家族という病』(幻冬舎新書)ほか著書多数。現在、日本ペンクラブ副会長、日本旅行作家協会会長。

集英社新書。本体720円+税