50歳になった今もJリーグでプレーしているというのは、驚くべきことだと語るセルジオ越後氏

50歳になったけど、ある意味今が旬だね。本人もサッカーをするのが楽しくて仕方ないんじゃないかな。

50歳の誕生日と重なったJ2開幕戦で、横浜FCのカズ(三浦知良)がスタメン出場を果たし、話題となった。

僕がカズと初めて会ったのは、彼がまだ中学生だった頃。静岡県で行なわれた大会に、日本でプレーしているブラジル人選手を中心に構成されたチームで出場したんだけど、その際、地元の中高生にも何人か加わってもらった。そこにカズがいた。高校生のお兄さん(泰年。現J3鹿児島監督)と一緒にね。

チームに左サイドバックがいないので、「やる?」と聞いたら、お兄さんが「俺がやります」と前に出てきて、カズは意外にも遠慮していたね。

再会したのはその数年後。高校を中退してブラジルに渡り、サントスとプロ契約を結んだカズが、お正月の高校サッカー選手権のテレビ中継にゲスト出演したんだ。そのときに「日本にもプロリーグ(Jリーグ)ができるらしい。帰ってくれば」と言ったら、「本当ですか?」と興奮していたことをよく覚えている。カズが戻ってくれば、プロリーグの目玉になると思ったけど、本当にそのとおりになった。

その彼が、50歳になった今もJリーグでプレーしているというのは、驚くべきこと。感慨深いものがある。

忘れがちだけど、カズは決して順風満帆なサッカー人生を歩んできたわけじゃない。彼の原点であるブラジル留学も、当初は挫折の連続だったと聞く。自分のプレーが通用せず、まったく試合に出られない。そんなときは街のあちこちで行なわれている草サッカーに飛び込み、毎日朝から晩まで技術を磨き、ブラジルのサッカーを体で覚えたと本人が言っていた。

普通の選手なら、どこかで引退していた

また、日本代表でも1998年フランスW杯アジア予選で精彩を欠き、多くの批判を受け、本大会直前にはメンバー落ち。その後はJリーグでも影が薄くなった。年俸0円提示や戦力外通告も味わっている。また、3年前には故障が続いて、ほとんど試合に出られなかった。普通の選手なら、どこかで引退していただろう。

それでも今日まで現役を続けられているのは、すでに多くの人が指摘しているように、やはり本人の努力の賜物(たまもの)。それしかない。単純な身体能力や技術ならカズを上回る選手はたくさんいる。でも、常に向上心を持って、サッカーのことだけを考えた生活を続けている。練習している時間よりも、その前後のケアにかける時間のほうがよほど長い。そのために専属のトレーナーも雇っている。どこまでもサッカーに対して純粋かつプロフェッショナル。それがカズなんだ。

正直に言えば、いまだに彼がサッカーのニュースのトップを飾る現状に対しては、ほかの選手たちにもっと頑張ってほしいという気持ちはある。実際、Jリーグ開幕節の話題も、全部カズに持っていかれているわけだから。でも、今回は50歳という節目だったし、どうしようもなかったね。

本人は還暦まで現役を続けるつもりみたいだけど、同じ10年間でも、40歳から50歳までの10年と、50歳から60歳までの10年はまったく違う。疲れやケガの回復はますます遅くなる。普通に考えれば不可能なことだし、個人的にも現役引退は近いんじゃないかなと思っている。でも、カズならば、何が起きても不思議はない。

(構成/渡辺達也)