「夏過ぎまで『カジノ隠し』をしておいて、秋の臨時国会で一気呵成に『IR法案』を仕上げてしまおうというのが、政官界の思惑」と語る古賀茂明氏

昨年末に成立した「IR推進法」。4月上旬にもカジノ導入のための整備推進本部が設置されるという。

『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、利権の塊であるカジノをめぐる官僚と政治家の思惑を暴く!

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カジノ導入のため、安倍首相を本部長とする整備推進本部が4月上旬にも設置されることになった。昨年末に成立した「IR推進法」は、1年以内にカジノの運営方法などを定めた「IR実施法」の制定を求めている。この実施法が成立しなければ、カジノ導入はできない。

表面化はしていないが、実は、各省庁はすでに必要な法案の骨格を固め、いつでも国会提出の準備に入れる状況だ。それだけ気合いが入るのには訳がある。

毎日、億単位の賭け金が飛び交うカジノは利権の塊だ。その利権をめぐり、各省庁は一歩でも先んじて自らの省益を拡大しようと躍起なのである。

各省庁は、内閣府に設置されるカジノ管理委員会を新たな「植民地」にしたいと考えている。カジノにはギャンブル依存症やマネーロンダリングの横行、青少年への悪影響など、多くのリスクがつきまとう。その対策のための予算や既成権限を取るために出向者をカジノ管理委員会の事務局に送り込むのだ。

例えば、事実上の上納金である「納付金」の配分を自分の役所に持ってくることはとりわけ大きな関心事だ。経産省、厚労省、財務省、警察庁、国交省、文科省、金融庁といった霞が関の面々が競り合っている。

のめり込み対策のために入場規制を厳格にしたり、不正防止のために登録制にしたりと、「IR実施法」はさまざまな規制が設けられる予定だが、それは厳しければ厳しいほど、役人にとっては“おいしい”。

監督権限を持つ省庁は規制緩和の手綱を握っており、緩和を求めるカジノ業界の声が大きくなれば、業界への影響力が増し、関連企業や新たに設立されるであろう第三者団体などに天下り先を確保できる。

今年に入り、海外の巨大カジノ運営企業の幹部が次々と来日している。1700兆円の個人金融資産を持つ日本はカジノ企業にとって「地球最後の黄金の国」に映るらしく、カジノ誘致に熱心な自治体や関係省庁を訪れているのだ。

東京都議選、横浜市長選の争点に

その狙いはカジノのライセンス取得、そして、規制をなるべく緩やかなものにしてもらうことだ。その際、自治体や役所、あるいは、有力な政治家への口利きをするブローカー役も暗躍しているとのウワサが絶えない。政治家にとっても近年にない「稼ぎどき」である。

そんな政官界や海外のカジノ企業が警戒していることがある。それはこの夏に予定されているふたつの地方選―東京都議選、横浜市長選でカジノの賛否が争点として浮上することだ。

カジノには6割近い国民が反対している。万が一、カジノが選挙の争点になると、候補者や政党が落選を恐れてカジノ反対の論陣を張ってしまうかもしれない。

横浜市は山下ふ頭をカジノ用地として整備する動きを見せるなどカジノ誘致に熱心だ。地元議員の菅義偉官房長官は推進議員連盟の幹部でもある。

しかし、今年に入り、林文子横浜市長は一転、「(誘致に向けて)具体的な動きをやっていくのはかなり難しい」とトーンダウンした。「8月の市長選でカジノの賛否を争点にするのは危険だから潜航する」作戦だ。

そうして夏過ぎまで「カジノ隠し」をしておいて、秋の臨時国会で一気呵成(かせい)に「IR法案」を仕上げてしまおうというのが、政官界の思惑なのだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年に退官。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)。インターネットサイト『Synapse』にて「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中