先制ゴールを決めた久保裕也。所属するヘント(ベルギー)でも現在絶好調

「美しい勝利だった。しっかりゲームをコントロールし、戦術のアドバイスをしっかりとリスペクトしてくれた。2、3回、危険な場面もあったが、日本のほうが高いレベルを見せることができた」

2018年ワールドカップ・アジア最終予選。後半戦のスタートとなったアウェーでのUAE戦を0-2のスコアで勝利を収めた日本代表のハリルホジッチ監督は、試合後の記者会見で開口一番、満足げにそう語った。

まさしく、指揮官が思い描いていた通りの会心の勝利。ハリルホジッチ監督がご機嫌なのもうなずける。しかも、「経験のある選手を信頼したゲームだった」と監督が語ったように、この試合ではゴールキーパーに川島永嗣、左サイドバックに長友佑都、ボランチには負傷離脱の長谷部誠に代わって、ハリルホジッチ体制初招集の今野泰幸をスタメンに抜てきした。

すると、川島が前半にビッグセーブで失点を防ぎ、今野は2点目をマーク。スタメンの選考もバッチリはまった格好だ。今回のメンバー招集にあたっては、所属クラブで出場機会が少ないベテラン勢を敢えて選び、メディアからは「日頃のコメントと矛盾している」との指摘もあったが、蓋を開けてみれば、そのベテランたちが予想以上の活躍を見せてくれた。監督にとって、これほど嬉しいことはないだろう。

その一方で、この試合でベテラン以上に目を引いたのが、この試合のスタメンの中で最年少、23歳の久保裕也だった。4-3-3の右ウイングでプレーした久保は躍動感に満ちあふれ、キックオフ直後から前線でボールを追いかける姿を見ただけでも調子の良さがうかがえた。それは、若い選手が飛躍的な成長を遂げている時期に見られる“キレ”そのものだった。

所属のヘント(ベルギー)でも、招集前のリーグ戦(対メヘレン)で4人抜きドリブルシュートを決めるなど、目下絶好調。すでに今季5ゴールを記録しており、その勢いはとどまるところを知らない。そのいい流れを持続したまま、自身3キャップ目となったこの試合では前半13分に勝利への突破口となった先制ゴールをゲット。記念すべき代表初ゴールとなった。

もちろん、このゴールのアシストとなった右サイドバックの酒井宏樹のパスもよかったが、相手DFの裏をとり、角度のないところから一瞬の迷いもなくニアサイドを射抜いたシュートは、実力プラス調子の良さがなければ決まらないゴールといえた。

「(ゴールシーンは)意外とフリーだったので、冷静に打てました。僕はこの中ではだいぶ若手なので、アグレッシブな部分を見せていきたいと思っていましたし、攻撃的な選手なのでそういう部分を見せられれば試合にも出られると思います」

試合後にそう語った久保は、後半には今野のゴールをアシストしている。「今野さんが見えたので、感覚で出せた」とは、その場面を振り返った本人のコメントだが、その感覚もまた、好調の証といえる。

W杯最終予選の山場は?

「ベテラン回帰」の流れにある今回の日本代表の中にあって、未来へつながる伸び盛りの新戦力。久保の台頭はベテランの活躍以上に日本代表にとって明るい材料となったことは間違いない。

こうして、ベテランの活躍あり、若手の台頭ありと、申し分のない結果を手にした日本代表は、これで勝ち点を13ポイントに伸ばしてグループ2位をキープした。同じ日に行なわれた試合でライバルの3位オーストラリアがイラクに引き分けたため、その差が3ポイントに広がるというオマケもついてきた。

ただし、この勝利でワールドカップ出場に大きく前進したかといえば、そうとも言えない。UAEに勝ったことで、W杯出場権争いのグループからUAEを脱落させるきっかけを作ることができた。しかし最高の結果を手にした一方で、試合内容を冷静に振り返ると、勝敗が紙一重だったのも事実。実力的には五分五分だったと見るのが妥当だろう。

実際、前半の日本は久保の先制ゴール以外に目立ったチャンスを作れていなかったし、仮にUAEが後半立ち上がり早々に得た2度の決定機のどちらかを決めていたら、ゲームの行方は全く違ったものになっていた。UAE側から見れば、その2度の決定機を立て続けに逃した代償が、その直後に生まれた日本の2点目となったのだ。

それを考えると、今後、日本が相手を圧倒して勝利を収めるイメージを描くことは難しい。さすがに3月28日に予定されているホームでの最下位タイ戦を落とすことはないだろうが、6月13日のイラク戦、8月31日のオーストラリア戦、そして9月5日の最終節サウジアラビア戦と、最後まで気の抜けない試合が続くことに変わりはない。

とりわけライバルと目される3位オーストラリア、首位サウジアラビアとの直接対決が山場となるはずだ。

あらためておさらいしておくと、予選突破の条件はグループ2位以上。もし3位になった場合は、グループAの3位チームとのアジア予選プレーオフに勝ち、その上で北中米カリブ地区予選4位チームと戦う大陸間プレーオフに勝利する必要がある。

ハリルホジッチ監督が「毎回勝つための準備をしている。これを続けていけば、ワールドカップの門が開かれるだろうが、今はまだ(勝ち点の)計算はしていない」と話すように、現段階で予選突破濃厚と見るのは早計だ。

(取材・文/中山淳 撮影/松岡健三郎)