UAE戦に続き、タイにも勝利した日本代表だが…

実に奇妙な試合だった――。3月28日に埼玉スタジアムで行なわれた2018年ワールドカップ・アジア最終予選、日本代表対タイ代表の一戦である。

スコアは4-0で日本が勝利。試合を見ずにこの結果だけを見れば、おそらくほとんどの人が日本の圧勝を想像するに違いない。しかしながら、現実はそうではなかった。「事実は小説よりも奇なり」とは、今話題のアノ人が発したことわざだが、この試合は「事実は“結果”よりも奇なり」であった。

試合開始8分に香川真司の先制ゴールが決まり、さらに19分にも岡崎慎司がヘッドで追加点。ここまでは、日本の戦いぶりに大きな問題点は見当たらなかった。

ところが、である。その後は一転、タイがゲームを支配。ポゼッションで日本を上回り、ほとんど日本陣内でゲームを進めたのだ。とりわけ30分以降は、タイが何度もシュートチャンスを作り、明らかに日本は劣勢を強いられていた。

後半も、その展開に大きな変化はなかった。少ないチャンスをものにして2点を追加したことは称賛すべきだが、しかし前半から続いたイージーなパスミスは最後まで止むことがなく、1対1の勝負においてもタイが上回っていた点を見過ごすわけにはいかない。

特に目立っていたのが、最終ラインから前線までが終始間延びしていたことだ。その結果、ディフェンス陣のクリアボールはことごとくタイに拾われ、そこから2次攻撃、3次攻撃を受ける羽目になってしまったといえる。いわゆるチームとしての連動性の部分でも、攻守に渡り、日本は問題を抱えていた。もしタイの選手に精度の高いシューターがいたとすれば、大量失点という惨事を招いたかもしれない。

忘れてはいけないのは、相手は「アジア最強の日本から学ぶものはたくさんある(タイのキャティサック・セーナムアン監督)」と、試合前日に自分たちが格下であることを公言していたグループ最下位のタイだった、ということである。

FIFAランキング127位(2017年3月)は、アジアの中で18位。代表メンバーもすべて国内組と、日本としてはタイとの実力差をもっと示して然るべき試合だった。

結果とは裏腹に、試合が奇妙に見えた

勝つには勝ったが――。試合を見た多くの人たちがその意外な展開に驚き、同じような感想を抱いたのではないだろうか。

「すばらしい勝利だったが、不満もある。相手は意欲的で質の高いプレーをしていたが、我々はすばらしいプレーをして2-0としたが、そのあとプレーを止めてしまった」

試合後にそう語ったハリルホジッチ監督が低調の原因を「気を抜いてしまい、ハードワークも少し低下してしまった」と分析すれば、左サイドバックの長友佑都は「なぜこうなったのか、その原因はまだよくわからない」と、試合後に振り返っている。

指揮官が言うように、選手たちは本当に気を抜いてしまったのだろうか? いや、記者席で見る限り、これまでのように選手たちは必死に戦っていたように見えた。90分間を通して、日本の選手たちは余裕の「よ」の字も感じさせないプレーぶりだった。だからこそ、結果とは裏腹に試合が奇妙に見えたと思うのだ。

しかし冷静に振り返れば、今回の予選における日本は、格下相手にこのような試合を演じることは多々あった。2次予選の初戦、2015年6月16日にホームでシンガポールにゴールレスドローを演じた時は、結果は最悪だったがチームにはまだ余裕はあった。しかし、最終予選になってからの日本はどの試合もフルパワーで戦い、いつもギリギリの戦いを繰り返している。そこに余力などは存在しない。

唯一の敗戦となった初戦のホームでのUAE戦、同じく山口 蛍が終了間際に決勝点を決めたホームでのイラク戦。また、今回のタイ戦の5日前のアウェーでのUAE戦もそうだったが、試合内容は常に五分五分で、勝敗は紙一重。そもそも0-2で勝利を収めたアウェーでのタイ戦も、実際は薄氷を踏むようなギリギリの戦いだった。

それを考えれば、この日の試合内容だけが意外なのではなく、むしろ4-0のスコアになったことが意外だったと言っていい。つまり、ここから短期で劇的に日本が強くなるとは考えにくく、残り3試合も苦戦を強いられることは想像に難くない。

今回のタイ戦は、予選突破が決定するまで何が起きてもおかしくないことを再認識させられた試合だった。

影が薄くなった本田圭佑

その一方で、光明もあった。3月23日のUAE戦に続き、この試合でも1ゴール2アシストと、目覚ましい活躍を見せた23歳の久保裕也の存在だ。チームの低調ぶりを忘れさせるようなパフォーマンスは、圧巻のひと言。ひとりだけ好調を持続している印象で、UAE戦のパフォーマンスが偶然ではなかったことを証明して見せた。

「この2試合で質の高さ、決定力の高さを見せてくれた。素晴らしい2ゴールと、アシストも見せた。私が彼を起用しようと思って使ったが、彼自身がそれを裏付けしてくれた」

終盤の失速はスタミナ不足との課題を与えられたにせよ、指揮官の評価はうなぎ上りだ。逆に、久保の活躍ですっかり影が薄くなったのが本田圭佑である。

過去の功績は申し分のない本田だが、現在は所属のミランで戦力外となっていることが大きく影響し、調子が急激にダウン。ハリルホジッチ監督は「彼のことをしっかりサポートしているが、クラブの中での彼の状況を改善してほしい」と試合後に伝えたそうだが、昨年から同じような台詞が繰り返されるばかりだ。この状況は、おそらくヨーロッパのシーズンが終わる5月下旬まで変わることはないだろう。

本田の起用のみならず、今回はケガの長谷部の代役を務めた今野泰幸や2試合連続スタメンを飾ったGK川島永嗣、あるいは長友など、ややもするとベテラン回帰の傾向にあるのが現在のハリルホジッチの采配だ。久保の活躍に刺激を受けた若手たちが大きくモチベーションを高める中で、この采配は今後にどのような影響を与えるのか?

残り3試合で、もし何かが起こるとすれば、そこに火種を残したような気もする。

(取材・文/中山 淳 撮影/松岡健三郎)