世界中で絶大な支持を得た『トレインスポッティング』の続編が、ほぼ20年の歳月を経て公開

90年代半ば、イギリスのカルチャー・シーンを席巻し、世界的にも大きな影響を与えたダニー・ボイル監督の出世作『トレインスポッティング』。その続編となる『T2 トレインスポッティング』が、ほぼ20年の歳月を経て公開される。

アーヴィン・ウェルシュのベストセラーを元にした前作は、スコットランドのエディンバラを舞台にドラッグ、酒、喧嘩に明け暮れる無頓着な若者たちを斬新な映像と強烈な音楽で描き、不況の煽りをくらっていた同世代の観客から圧倒的な支持を受けた。

今作は、その彼らの20年後――40代を迎えて人生に失望しながらも、なお変わらず…否、変われずにそれでもなんとか生きのびている男たちの話。やはり今を映す時代背景とともに、国境を越えて共感を呼ぶこと請け合いで、切ない。

そんな彼らの哀しくも可笑しく、しぶとい人生を愛情たっぷりに描き上げたボイル監督に話を聞いた!

―圧倒的な人気を博した前作の続編ができるまで、なぜこれほど時間が空いてしまったのでしょうか。

ボイル 長い間、作ろうと試みてはいたんだ。同じ役者が数年後にまたカムバックしたらとても面白いだろうと思ってね。でもどうせ作るならただの続編にはしたくなかったし、どこからも制約を受けることなく徹底的に自由にやりたかった。

ウェルシュの原作には10年後の話がある。前作の脚本を書いたジョン・ホッジが一度、そこから素晴らしい脚本も書いてくれた。でも僕はなぜかその時は乗れなかった。前作のファンを失望させたくないという思いが強かったのかもしれない。

その後のきっかけは2年前、みんなでエディンバラを訪れた時だった。ジョンが、中年になったキャラクターたちのもっとパーソナルな感情――例えば、男が歳をとることへの焦りや不安、人生に対する後悔や失望を描いたらどうかと提案して、それはいいんじゃないかとなった。そして書き始めた脚本を見せてもらってイケると確信したんだ

―題名にT2と付いていますが、『ターミネーター2』のジェームズ・キャメロンに怒られませんでしたか(笑)。

ボイル ははは、大丈夫だったよ。『トレインスポッティング2』とはしたくなかったんだ。最初は全く他のタイトルを考えていたんだが、“トレインスポッティング”と入れないのはやっぱりあり得ないという話になり、それなら映画史上もっとも優れた続編は何かと考えた時に『ターミネーター2』が浮かんだ。だから彼にとっては名誉であると同時に迷惑かもしれないね(笑)。

ほぼ20年歳月を経て、彼らは再び思い出の地へ…。前作で見た景色とシンクロして、心に染みる。左から、シック・ボーイ、レントン、スパッド

彼らは歳だけとってしまったが、何も変わっていない

前作のキャストはもちろん、新キャストも魅力的。特にアンジェラ・ネディヤコバ(中央)が演じるベロニカは作中の重要な役割を担う。

―前作には若さゆえのエネルギーやハチャメチャなパワーがありましたよね。しかし今回、歳をとったキャラクターたちは同じようなわけにはいきません。でももちろん、どこかに魅力がないと観客を引っ張れない。その点において今作はどのような要素に観客が魅力を感じると思いましたか?

ボイル 確かにその危険性に関しては十分にわきまえていたよ。要するに彼らは歳だけとってしまったが、何も変わっていない。どうしていいかわからないが、なんとか毎日生きている。久しぶりに故郷に戻ったレントン(ユアン・マクレガー)は実感する。あれから何も起こっちゃいないのだと。

前作で「人生を選べ、愛する者を選べ」と言っていたわりには、自分のことを愛してくれた母親は亡くなり、葬式にも立ち会えなかった。だから彼は自分に失望している。でもそんな彼が中盤から少しずつ復活してくる。昔の仲間の彼女と寝たりして、男としても再び気力を取り戻す(笑)。

相変わらず仲間うちで騙しあったり喧嘩したりとしょうもないことをしながらも、再び生きる力を取り戻していくんだ。そういうパーソナルなジャーニーが観客の共感を得られると思った。

―本作の素晴らしいところは、過去を振り返りながらもそこに後ろ向きなセンチメンタリズムがないことですね。

ボイル そう、ノスタルジックであっても、センチメンタルにはなりたくなかった。でも彼らには過去があり、それが会話にも出てくる。フラッシュバックのシーンは、ストーリーの中でキーポイントとなるようなものばかりだ。編集の段階で何が必要かというのは明瞭になっていったから迷いはなかった。

例えば、前作でシックボーイ(ジョニー・リー・ミラー)の赤ん坊が死ぬシーンはキーポイントだったから、今回のフラッシュバックにもあの赤ん坊を出そうと思った。彼らは過去をリクリエイトしようとしているのではない。かつてのエネルギーや向こう見ずなパワーを今も持っているかのように振舞っている。

けれど実際は、彼ら自身がもう父親の世代であり、ある者はもう実際に父親だ。まともな親父ではないけれど、それでも義務を果たそうとしているし、自分もそれによって精神的に救われている。それはエモーショナルであり、語る意味のあることだと思った。

☆後編⇒俺たちの青春は終わっちゃいない! 『トレインスポッティング』続編でダニー・ボイル監督が改めて向き合った「音楽と映像」

(取材・文/佐藤久理子)

■ダニー・ボイルイギリスの映画監督。1956年生まれ。1995年公開の『シャロウ・グレイヴ』で長編映画監督デビュー。1996年に2作目となる『トレインスポッティング』を発表。ユースカルチャーをスタイリッシュに描いた映像表現は世界的に大きな反響を呼んだ。その後、2008年に公開した『スラムドッグ$ミリオネア』ではアカデミー作品賞とともに監督賞も受賞。その他、代表作に『ザ・ビーチ 』『28日後…』など。また2012年ロンドン五輪では開会式の総合演出を務めた。

●『T2 トレインスポッティング』は4月8日(土)から丸の内ピカデリーほかにてロードショー。詳しくはオフィシャルサイトにてhttp://www.t2trainspotting.jp/