続編となる『T2 トレインスポッティング』を愛情たっぷりに描いたダニー・ボイル監督

90年代半ば、イギリスのカルチャー・シーンを席巻し、世界的にも大きな影響を与えたダニー・ボイル監督の出世作『トレインスポッティング』。その続編となる『T2 トレインスポッティング』が、ほぼ20年の歳月を経て公開される。

アーヴィン・ウェルシュのベストセラーを元にした前作は、スコットランドのエディンバラを舞台にドラッグ、酒、喧嘩に明け暮れる無頓着な若者たちを斬新な映像と強烈な音楽で描き、不況の煽(あお)りをくらっていた同世代の観客から圧倒的な支持を受けた。

今作は、その彼らの20年後――40代を迎えて人生に失望しながらも、なお変わらず…否、変われずにそれでもなんとか生きのびている男たちの話。やはり今を映す時代背景とともに、国境を越えて共感を呼ぶこと請け合いで、切ない。

そんな続編を愛情たっぷりに描き上げたボイル監督のインタビュー後編(前編・監督が語る「20年の歳月を経て2を描く意味」参照)。トレインスポッティングを語る上で外すことはできない『音楽』や『映像表現』について聞いた!

―久しぶりに前作のキャストが集まった現場の雰囲気はどんなものでしたか。

ボイル 初日は最高だった、と言いたいところだけど(笑)、実際はスケジュールの都合で4人が一挙に集まれたわけじゃないんだ。でもそれぞれの再会のシーンはやはりじんときたね。

特に最初に撮影したジョニー(・リー・ミラー)とボビー(ロバート・カーライル)がパブで再会して、バトルを繰り広げるところは素晴らしかったよ。最後にはボビーがゴリラのような雄叫びをあげる。そのエネルギーが観ていたスタッフにも感染し、びりびりするようなバイブが伝わってきて、これはうまくいくという感触が持てた。

ダニー・ボイル監督(左)とロバート・カーライル(右)の笑顔が、撮影時の雰囲気を物語る

―前作のサントラはとても印象的で話題になりましたが、新旧取り混ぜた今回の楽曲も絶妙ですね。特に前回で使ったイギー・ポップの『ラスト・フォー・ライフ』、アンダーワールドの『ボーン・スリッピー』のような印象的な曲の重々しいリミックスが、中年を迎え体力の衰えたようなキャラクターたちの状況とマッチし、最高の使い方だと思いました。

ボイル そう言ってもらえると嬉しいよ。そのあたりは本当に考え抜いたチョイスだったから。

前作のサントラが大ヒットしたということも大きなプレッシャーだった。“トレスポ”のフィーリングを維持するために象徴的な何曲かを今回も引き続き使いたかったけれど、全くそのままは使えない。同じカードでプレイはできないからね。幸いプロディジーやアンダーワールドのような素晴らしいミュージシャンたちが協力してくれて、変化を付けてくれた。

それに前作の時代は英国ロックの全盛期で僕自身すごくロック・ファンだったから、まるで息をするかのように何も考えず、自然に曲を決めることができた。だけど今回は違う。僕も年をとって、今や知らないバンドや曲ばかりだ(笑)。でも、ヤング・ファーザーズのような才能あるバンドを発見できたのはラッキーだった。特に彼らはエディンバラ出身で、彼ら自身もレントンたちのような境遇から育ってきた、同じスピリットを持つバンドなんだ。

EU離脱が決まったのには、すごくショックを受けたよ

―20年前と今では撮影の技術も大きく異なります。監督作でアカデミー賞作品賞に輝いた『スラムドッグ$ミリオネア』で撮影賞を受賞したアンソニー・ドットマントルが本作もカメラを担当していますが、映像の技術面に関しては以前と比べていかがでしたか。

ボイル 確かに今日、カメラはより小さくハンディになり、クオリティも良くなっている。それはとても好都合だった。アンソニーはハンディ・カメラを得意としているし、素晴らしいスキルを持っている。

特にクラブのような狭いところに大勢の人間が集まっているシーンなどは、その状況に応じて臨機応変に動くことが必要とされるし、絶対に予定通りにはいかないものだ。だからそういうシーンは今回とてもうまくできたと思うよ。様々なバリエーションでそれぞれクオリティの高い映像を作り出せたんじゃないかな。

斬新かつスタイリッシュな映像表現は今作も健在!

―前作はマフィアからお金を巻き上げましたが、今回、主人公たちがお金を巻き上げるのはEU関連の団体ですね。英国は昨年EUを離脱しましたが、本作において社会的なメッセージはどの程度意識しましたか。

ボイル EU離脱が決まったのは、まさに撮影が始まった時だった。僕らはすごくショックを受けたよ。でも、例えばケン・ローチ監督(※)の映画は政治的なテーマを持った作品として作られているけれど、僕はそれを目指したわけじゃない。もちろん観た人にそう感じてもらうのは構わないよ。映画は時代を反映するものだと思うから。(※)今年、デビュー50周年を迎えたイギリスの映画監督。代表作に『大地と自由』や2006年にカンヌ国際映画祭最高賞を受賞した『麦の穂をゆらす風』など。公開中の『わたしは、ダニエル・ブレイク』で昨年、カンヌ2度目の最高賞を受賞。常にリアリティに満ちた社会派の作品を手掛けるイギリスを代表する監督のひとり。

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ボイルが語るように、本作には前作のエネルギーとはまた異なる醍醐味があり、年齢を経て人生に対する様々な思いが募った分、ドラマとしての重さも増している。と同時に、キャラクターたちの一層凄みを増したかのような迫力が加わり、唸(うな)らされずにはいられない。20年経って、アカデミー賞受賞監督のボイルもまた、ただものではないことを証明した。

(取材・文/佐藤久理子)

■ダニー・ボイルイギリスの映画監督。1956年生まれ。95年公開の『シャロウ・グレイヴ』で長編映画監督デビュー。96年に2作目となる『トレインスポッティング』を発表。ユースカルチャーをスタイリッシュに描いた映像表現は世界的に大きな反響を呼んだ。その後、08年に公開した『スラムドッグ$ミリオネア』ではアカデミー作品賞、監督賞を受賞。その他、代表作に『ザ・ビーチ 』『28日後…』など。また、2012年ロンドン五輪では開会式の総合演出も務めた。

映画『T2 トレインスポッティング』は4月8日(土)から丸の内ピカデリーほかにてロードショー。詳しくはオフィシャルサイトにてhttp://www.t2trainspotting.jp/