4月20日からの国別対抗戦(東京)にも出場する羽生結弦

フィンランドのヘルシンキで開催された、世界フィギュアスケート選手権で羽生結弦が見事な大逆転優勝! 来年の平昌(ピョンチャン)五輪へ向けて、男子フィギュアスケートの勢力図はどうなっていくのか?

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羽生結弦の今回の世界選手権フリーは、2015年、2016年と連続で2位だった無念さを心に秘めながら、自然の雄大さや自分の思いを体中で表現するすばらしい演技だった。

結果は今季初のノーミスの演技。ショートプログラム(SP)では1位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)に10.66点差をつけられる5位発進だったが、悔しさをバネにするというより、その気持ちを無心の演技に昇華していた。それが彼の本当の持ち味といえる。

フリーの得点は自身が15年12月のGPファイナルで出した歴代世界最高得点を更新する223.20点。SPでミスをした4回転サルコウからの連続ジャンプでのミスを、仮に昨年12月のGPファイナルと同じように跳んでいれば、10点ほど多く獲得できていた。その場合、SP自己最高とほぼ同じ110点近くになり、合計332点台と歴代最高得点を更新していたことになる。現時点での羽生の力は、そのレベルといっていい。

彼の武器は、難度の高い技術構成をこなすだけではなく、完璧に滑ればすべての要素で出来栄えのGOE加点を満点近くもらえ、スケーティングスキルやパフォーマンスなどの演技構成点でも世界トップクラスの得点を獲得できること。現在、世界の頂点に立っていると言っても間違いではなく、来年の平昌五輪へ向けて優勝候補筆頭の位置にいる。

その羽生を追う日本人選手が、世界選手権で2位となり、メダリスト記者会見で「ユヅくんに勝てるような実力をつけたいと思っている」と話していた宇野昌磨だ。今シーズンは4回転フリップをものにしただけではなく、2月の四大陸選手権からフリーに4回転ループを取り入れるなど、飛躍的に成長。世界選手権のフリーでは少しミスがあったものの214.45点。合計で自己最高を更新する319.31点を獲得した。

そんな日本勢のふたりは、より顕著になった男子の4回転時代に対応しているといえる。だが、構成の難度が高まれば高まるほど、ノーミスは難しくなり、これまで以上に試合へ向けての調整力や集中力が求められるようになるだろう。

海外のライバルは強敵多数

海外勢では、ライバルのひとりが17歳のネイサン・チェン(アメリカ)だ。1月中旬の全米選手権では、フリーで4種類5回の4回転ジャンプを成功させて合計318.47点を獲得。2月の四大陸選手権ではSP103.12点でトップに立つと、フリーでは2回のトリプルアクセルでミスをしながらも、5回の4回転を成功させて204.34点を獲得。合計307.46点で優勝した。

しかし、世界選手権では調子を落とし、SPではルッツやフリップの4回転で加点を稼げなかったうえにトリプルアクセルで転倒して6位。フリーでは2度の転倒があり4位の193.39点。合計6位に止まったが、4回転ジャンプ6回がすべて成功していたら、もっと上位になっていたはずだ。

そのほかのライバルには、世界選手権を3連覇した実績のあるパトリック・チャン(カナダ)、昨年まで世界選手権を連覇していたハビエル・フェルナンデス(スペイン)もいる。

チャンは、世界選手権SPでは4回転トーループ1回だけの構成ながら、完璧な滑りで演技構成点のすべての項目で高得点を獲得して102.13点で3位。フェルナンデスは今回の世界選手権はSPで1位。フリーではミスが出て合計4位だった。ともにフリーでは2種類の4回転を3回跳ぶ構成だが、完璧な演技をすれば220点台に届く実力を持っている。

また、今回4回転ルッツを含む3種類4回の4回転ジャンプを成功させて3位になったボーヤン・ジン(中国)が、ジャンプの精度と演技構成点を上げてくるようなら、これまで以上に手強くなるだろう。

羽生は世界選手権の試合後、すべての結果を見て「四大陸からは4回転を多く跳び、それをきれいに決めた選手が勝つという風潮になっていましたが、この世界選手権はそこを新たに考えなければいけない大会になった。その意味では、もう一度考え直して、次の武器は何なのかを考えて来シーズンのプログラムを作りたい」と話した。

羽生は、フリー後半の3連続ジャンプの最初のジャンプをトリプルアクセルから4回転トーループに変更することも考えていたという。だが、そこまで4回転ジャンプを増やすより、今の構成での精度を高めることでライバルたちに対抗できるのではないかと考え始めているようだ。

来年2月の平昌五輪では、今回の世界選手権で6位までの選手全員がそれぞれメダル獲得の可能性を持っている状況。SP、フリーを含めて大きなミスをしたものから脱落していくシビアな戦いが繰り広げられそうだ。

(取材・文/折山淑美 写真/YUTAKA/アフロスポーツ)