昨シーズンは15勝(防御率2.15)とリーグ優勝に貢献し、沢村賞を獲得したジョンソン。今年は投手陣のリーダーとして日本一を狙う

昨年11月のある日、広島東洋カープのクリス・ジョンソンは興奮を抑えることができなかった。なぜなら、「ナンバーワン投手」であることを証明するトロフィーが、地元ミズーリ州ブルー・スプリングズの郵便局に届いたからだ。

昨シーズンのジョンソンは、広島のリーグ優勝に貢献した数々の好投が認められ、投手にとって最高の栄誉である沢村賞を獲得した。しかも外国人投手の受賞は、1964年のジーン・バッキー(阪神)以来、史上2人目となる快挙だった。

沢村賞までの道のりは、決して平坦ではなかった。

2006年にボストン・レッドソックスからドラフト1巡目で指名されたものの、6シーズンがたってもメジャーデビューすることなく、11年に解雇された。その後、メジャー傘下のマイナー球団などを渡り歩き、13年にメジャー初登板を果たすも敗戦投手に。14年もわずか3登板で未勝利に終わり、広島と契約を交わすことを決意した。

苦難の道を歩んできたジョンソンが、心を躍らせながら郵便物の箱を開けると…。なんと、沢村賞のトロフィーはバラバラになっていたのだ。ジョンソンは愕然(がくぜん)とし、壊れたトロフィーは段ボール箱に入れたままだという。

「箱を開けてみたら、グチャグチャになっていたんだ。ガラスの部分が割れていて、木の部分は剥がれていて…」

トロフィーは元の形で再び手渡される予定で、現在、何が原因なのか関係者たちの間で協議されているそうだ。しかしジョンソンは、「誰かを責めるつもりはない。早く直してもらって、ちゃんと立派な形で見てみたいんだ」と、冷静に現実を受け止めた。

この、何事にも動じない心は日本で身につけたものだ。

「昔から知っている人が今の僕を見れば、精神的に成長したところをすぐにわかってくれると思うよ」

ジョンソンの成長を支えてくれた選手とは?

そんな自身の成長を支えてくれた選手として、ほぼすべての試合でバッテリーを組んだ石原慶幸、そして投手陣のリーダーだった黒田博樹の名前を挙げた。ジョンソンが来日した年、黒田もメジャーから8年ぶりに広島に復帰。共にプレーするなかで、黒田のどんな状況でも動じないメンタルの強さに注目したという。

「彼がマウンドに立っている姿を見るだけで、たくさんのことを吸収できた。得点を許したときも、ピンチを抑えたときもダッグアウトに戻ってくる姿はまったく同じなんだ。ピッチャーがマウンドに立つには、こうしたメンタルの強さが必要なんだと思ったよ」

その黒田は昨年の日本シリーズ終了後に引退し、32歳のジョンソンが広島先発陣の中で最年長に。「まさに今、あなたがリーダーを担うべきじゃないか」と伝えると、こう答えてくれた。

「キャリアの中で、いつかはそういう役割ができたらいいなと思っていた。これまではアドバイスをもらう側だったけど、これからはアドバイスを求められたらしっかり答えられるようにしたいね」

昨年のシーズンの途中、新たに今季からの3年契約を結んだジョンソン。開幕投手を務めた阪神戦では白星を挙げられず、その後、体調不良で登録抹消となったが、リーダーとして真価が問われるのはこれからだ。

(取材・文/ブラッド・レフトン 撮影/西田泰輔)