数百万円の格安“雑草馬”が1億円超えエリート馬をゴボウ抜き!? (写真はイメージです)

ディープインパクトをはじめとする良血馬、高額馬が幅を利かせている昨今の競馬界。

だが、時に決して良血とはいえない格安馬から思わぬ名馬が誕生するのも競馬の醍醐味だ。

走るのは「値段」じゃない! 安くても勝てる馬はこんなにいる!

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春のG1シーズンも本格化。桜花賞を皮切りに、いよいよ3歳クラシックレースもスタートした。

注目馬はなんといっても・ソウルスターリング(牝3歳)。両親が共に欧州のG1馬という目の眩(くら)むような良血馬で、お値段はクラブ会員による共有で総額6000万円。

一方、スワーヴリチャード(牡3歳)も、2014年のセレクトセールで1億6740万円で落札された超高額馬。また、春の天皇賞の最有力候補、サトノダイヤモンド(牡4歳・池江)も前年の同セールで2億4150万円で落札と、この春も“エリート馬”たちがG1戦線の中心となりそうだ。

そんななか、ひときわ異彩を放つ“お買い得馬”も。昨年、2歳重賞を連勝したブレスジャーニー(牡3歳)の取引価格はなんと270万円(15年サマーセール)。昨年のセレクトセールの平均落札額が約3800万円というから、その安さはケタ違い。ちょっとした新車と同じぐらいの値段なのだ。それでいて2歳戦だけですでに7350万円も稼いでいるのだからなんとも馬主孝行な馬である。

この超掘り出し馬をセリで落札したのは、「トーセン」の冠名でおなじみの島川隆哉氏。セレクトセールでは億超えの高額馬もバンバン落札する大馬主のひとりだけに、ちょっと意外な印象もあるが、ブレスジャーニーはなぜこんなにも“お買い得”だったのか? そもそも競走馬の値段はどのように決まるのか?

セリ事情に明るい、馬産地ライターの村本浩平氏が言う。

「一般的に子馬の値段はお父さん、つまり種牡馬の種付け料とその産駒の近況の活躍、そしてお母さんの血統背景や兄姉の成績がベースとなって決まります。ブレスジャーニーの場合は、お父さんが日本にあまりなじみのないバトルプランで、セリの時期はまだ、最初の産駒が3歳の夏で成績も目立つものがありませんでした。直近の兄弟も中央競馬ではあまり活躍していなかったので値段もつかなかったのでしょう」

“お買い得馬”はまだまだいる

馬体の良しあしなどで多少の増減はあるものの、サラブレッドの値段のベースとなるのはやはり血統だ。現在、日本の種牡馬で種付け料が最も高額なのはディープインパクトで3000万円。その産駒の値段が高騰するのも当然といえる。

ちなみに、これまで日本のセリでの最高額は、06年のセレクトセールで落札されたディナシー(父キングカメハメハ、母トゥザヴィクトリー)の6億円。実にブレスジャーニー約222頭分の値段だが、同馬は一度も出走できないまま引退。これが競馬の難しいところだ。

さて、このブレスジャーニー、残念ながら脚元の故障でこの春は戦線離脱となってしまったが、春のクラシックで下克上を狙う“お買い得馬”はまだまだいる。

フェアリーステークス、アネモネステークスを連勝し、桜花賞8着のライジングリーズン(牝3歳)は15年のサマーセールでついた値が551万円とこちらも超格安。

また、京成杯を勝ったコマノインパルス(牡3歳)や、シンザン記念を勝ったキョウヘイ(牡3歳)はセリを通さないで取引された馬ではあるが、共に安価だったとみられる。

「ライジングリーズンは、同じ父(ブラックタイド)のキタサンブラックがあれだけ成功したので、今ならば2倍の値段でも買えないかもしれません。

コマノインパルスは、お母さんも同じオーナーの持ち馬なので、コストは月々の預託料と父バゴの種付け料しかかかっていません。セリに出しても500万~700万円ぐらいだったのでは。

キョウヘイ(牡3歳)は、兄がそこそこ走っていますが、父リーチザクラウンの当時の種付け料が20万円ですから、前2頭と大差ない金額とみられます」(村本氏)

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(取材・文/土屋真光)