「日本の電機産業を壊滅状態に導いた貧乏神である経産省主導の『日の丸連合』は、同省の植民地づくりの手段」と批判する古賀茂明氏

窮地に陥った東芝が打ち出した「東芝メモリ」の売却。海外への技術流出への懸念から、“日の丸連合”をつくって買収しようという動きが出てきた。

しかし、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、そこに東芝の未来は期待できないと危惧する。

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これまで2度も発表延期となっていた東芝の決算が4月11日、ようやく公表された。同社は昨年末の時点で、約2300億円の債務超過。いつ上場廃止になってもおかしくない。

この窮地をしのぐため、東芝が打ち出したのが、「東芝メモリ」の売却だ。フラッシュメモリーで世界2位のシェアを持ち、その資産価値は約2兆円。売却すれば、東芝は債務超過を解消し、上場廃止の危機を脱することができる。だが、その1次入札に参加したのは3兆円を提示した台湾・ホンハイなど、海外の企業やファンドばかりで、日本勢の入札はゼロだった。

この事態を受けて、「日本の国富が失われる」「半導体技術が軍事転用される」「中国に工場があるホンハイへの売却だけは阻止せよ」という声がマスコミにあふれ始めた。

すると、驚いたことに5月に予定されている2次入札までに、“日の丸連合”をつくって参加しようという動きが出てきた。主導は経産省。東芝と取引のある企業数十社に一社当たり100億円ほど出資してもらい、不足分を産業革新機構などが拠出するスキームで、事実上の出資者は政府だ。

東芝経営陣も日の丸連合の出資提案を受け入れる考えを表明している。しかし、この買収が成立しても東芝メモリの未来に期待はできない。

半導体ビジネスは浮き沈みが激しい。年間で数千億円規模の投資を続けても、高い利益を上げるのはトップランナーのみ。勝者総取りの産業だ。そのトップでさえ油断すれば、すぐに技術が陳腐化し、競争力を失う。

この世界で生き残る条件は3つ。第1に豊富な資金、第2にスピーディな経営判断、第3に大きなリスクを取る企業風土だ。

経産省主導の「日の丸連合」は、同省の植民地づくりの手段

しかし、経団連の大企業数十社の寄せ集めに最大の出資者としては政府系のファンドや金融機関が名を連ねる企業がどんなものか。誰もが前述の3条件すべてで落第点をつけるだろう。

2013年に産業革新機構は不振に喘(あえ)いでいた半導体大手の「ルネサス」に、約1400億円を投じて実質、国有化した。もちろん、これも経産省主導だ。しかしその後、同社は芳しい業績を残せなかった。15年3月に黒字化したが、従業員の2万人削減など、リストラにいそしんだ結果にすぎず、成長企業とは決して言えない。そんな成果を出せない政府ファンドに買収されても、東芝メモリが国際競争に勝てるとは思えない。

東芝救済の理由に、「人材の流出」を挙げる国の姿勢も疑問だ。守るべきは企業ではなく、先端技術を開発するエンジニア、つまり人そのものだからだ。「日の丸連合」では、優秀な人材を引き留める魅力はゼロだ。

また、軍事用半導体技術の流出も騒がれているが、実は軍事用半導体部門は東芝本体に残される。さらに、軍事転用されかねない部品や技術を政府の許可ナシでは海外輸出できないようにする「外為法(がいためほう)」という法律もある。

日本の電機産業を壊滅状態に導いた貧乏神である経産省主導の「日の丸連合」は、同省の植民地づくりの手段。そんなことのために貴重な資金を投じるのではなく、優秀な人材を日本に集め、革新技術を生む企業や研究に、よりいっそうの投資をする。そのほうが、よほど日本の経済成長のためになるのは明らかだ。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年に退官。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)。インターネットサイト『Synapse』にて「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中