いい声を出すために日頃からできる簡単トレーニング法を、魚住りえさんにうかがいました!

春は出会いの季節。職場や学校で、初対面の人と話す機会は多い。

特に気になる異性と話す時、どんな風に話せばいいか。あわよくは女のコからモテる声はないものか。そんなことを考えてしまう人は少なくないはず。

そこで、アナウンサーとして長年活躍し、最近はボイス・スピーチデザイナーとして、話す時の声や話し方の指導を行なっている魚住りさんにモテ声やモテる話し方について伺った。

前編では、話すときの声の高さとスピード、また女のコの心をつかむ相槌の打ち方などをアドバイスいただいたが、今回はさらに、いい声を出すために日頃からできる簡単なトレーニング法を教えてもらった。

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―そもそもいい声を出す上で大切なことはなんでしょう?

魚住 腹式呼吸で、お腹から声を出すことですね。たくさんの空気を吸い込んで声を出すことでエネルギッシュな声を出せる。それに喉から声を出すと、喉が痛んでしゃがれ声になりますから。

―腹式呼吸をできるようになる、何かいいやり方はありますか?

魚住 背中を壁につけて立ったまま、手をお腹において、まずは腹筋に意識を集中させます。口から息を吐きながらお腹をへこませ、腹筋をギリギリまで縮めます。息を吐き切ったら、今度は鼻から息を吸い込み、お腹を膨らませていきます。これを繰り返しているとできるようになりますよ。

―なるほど。

魚住 あと、聞き取りやすい声を出すことです。そのためには自分の声に合った高さを覚えるといいですよね。人差し指と中指を自分の鼻においてください。そして「ン~~」とハミングしながら、声の高さを徐々に上げていくんです。そうすると指が細かく振動する音があるはずです。そこが聞き取りやすい高さの声なんですね。 この方法は、鴻上尚史さんの『発声と身体のレッスン』を参考にしています。

人差し指と中指を鼻において、「ン~~」とハミングしながら、声の高さを徐々に上げていく

―ンンンン~(実際にやってみる)、あ、確かに震えてる感じが!

魚住 イメージとしては、ドレミファソ~と上げていって、だいたい「ソ」辺りの音のところが、皆さん多いですね。少し高いかなって思うくらいの音。その高さで「初めまして~」って言うと相手の印象もいいですね。

―やってみます! ただ、こうしたいい声を出せるようになっても、実際にうまく話せるかが不安なところで…。

魚住 それにはうってつけの方法がありますよ。

―えっ、それは?

魚住 朗読です。書いてあるものを読んで声を出すんです。それを続けていると、だんだんと普通の喋りも良くなってきます。

―読むものはなんでもいいんですか?

魚住 エッセイでも小説でも好きなものを選んでください。ただ現代の口語が使われているものがいいですね。『源氏物語』とか読んでも仕方ないんで(笑)。

声のアンチエイジングで心がけることは?

―朗読をすることで、喋りも上達すると。

魚住 例えば、いきなり42キロ走りましょうと言われても走れないでしょう? 普段からジョギングやウォーキングしていくことが必要。それと同じことです。以前、私は『ソロモン流』という番組で3時間続けてナレーターをやっていましたが、あれは作家さんが書いてくれた文章を読むんです。その3時間、言葉の海に溺れて喋っていくとその後の数日間は思いついたことが自然と言葉になって、いい声で話ができるんです。さらに朗読したものを録音して聞くと、もっと効果的ですよ。

声に出して朗読、それを録音して聞いてみよう

―録音して聞く?

魚住 そう。それをやると自分の声の早さや高さ、あとエネルギー量などがよりわかるようになる。上手に話せたなと思えば、それが成功体験となって、脳に回路ができるというか。ますます普段の話し方が上手になっていきます。滑舌が悪いような人もだんだん治っていきます。

―それは何か理由があるんですか?

魚住 よくわかりません。私の父が脳神経外科の医師なんですが、聞いてもそのメカニズムは一生かけてもわからないと言われましたね(笑)。でも私の経験で言えば、朗読に効果があることは絶対の自信がありますね。

―是非やってみます。あと歳をとると声もどんどん弱まっていくと思うんですが、それを解消する方法はあるんですか?

魚住 普段よりも少し高い声を出して音域を広げると、声のアンチエイジングになりますね。声に振れ幅があれば感情の起伏が感じられて、若々しく映ります。特にいつも低い声だと声帯も縮んで衰えてしまう。声帯は筋肉なんで、一定の声しか出さないと固まってしまうんですね。走ったり歩いたりしないと、足の筋肉がダメになるのと同じです。

―音域を広げるためのトレーニングは何かありますか?

魚住 普段、喋る時に楽をしないというのを心がけるといいですね。普段から高い声を出すことを意識するんです。できたらその時にお腹を引っ込めて声量も出していくと、なお良いです。

―仕事をしていると、1日中パソコンに向かって人とろくに話さないこともありますからね。全部メールで済ませて電話もしないなんてこともあるし。話すことを意識して、声帯を使わないと。最後に、いい声で話し方が上手になることで最も得られることってなんでしょう?

魚住 人と会う楽しさですよね。私は話す相手を自分の先生だと思って接しているんです。自分は無知だから、いろんなことを学べたらなって。自分自身を豊かにするためにも是非、上手な会話のコミュニケーションを楽しんでほしいですよね。

(取材・文/大野智己)

●魚住りえフリーアナウンサー。元日本テレビアナウンサー。ボイス・スピーチデザイナー。大阪府生まれ、広島県育ち。慶応義塾大学卒業後、日本テレビにアナウンサーとして入社。2004年にフリーに転身し、テレビ東京系列「ソロモン流」のナレーターなどで活躍。また、約25年にわたるアナウンスメント技術を活かした「魚住式スピーチメソッド」をスタート。著書『たった1日で声まで良くなる話し方の教科書』(東洋経済新報社)は15万部を突破し、ベストセラーに。新刊『たった1分で会話が弾み、印象まで良くなる聞く力の教科書』(同)が4月21日発売