テロ行為からどうやって身を守るかは本当に難しい問題だと語るセルジオ越後氏

起きてはいけない悲しい事件が起きてしまった。

4月11日、香川の所属するドルトムント(ドイツ)のチームバスが爆発事件に巻き込まれた。欧州チャンピオンズリーグの準々決勝第1戦、ホームでのモナコ(フランス)戦に向かおうとホテルを出発したところで3度の爆発が起き、DFバルトラが右手首を骨折するなどの重傷を負った。

報道によれば、イスラム過激派によるテロ行為の可能性が高いという。サッカーがテロの標的にされたケースといえば、一昨年11月にフランスのパリで起きた同時多発テロが記憶に新しい。フランスvsドイツの試合中にスタジアム付近でも自爆テロが起き、死者が出て、観客はパニックになった。

今回はそれほど大規模ではないし、何より死者が出なかったことは不幸中の幸いだ。ただし、サッカー選手が直接の標的にされた点で、これまでのケースとは少し意味合いが異なる。とても恐ろしく、ショックなこと。欧州の不安定な社会情勢があらためて浮き彫りになった感がある。

こうしたテロ行為からどうやって身を守るか。例えばW杯のような大きな大会であれば、選手には厳重な安全対策が施される。観客にしてもスタジアムの座席にたどり着くまで、何度もセキュリティチェックを受ける。来年のロシアW杯は、お国柄を考えると警備に軍隊も出動するだろうし、過剰な心配は必要ないと思う。

でも、各国のリーグ戦など普段の試合で同じことはできない。チーム数は多いし、各チームにたくさんサポーターがいる。練習場、ホテル、移動など、どこまで警備すればいいのか。人手と予算がいくらあっても足りない。気をつけて行動するにも限界がある。本当に難しい問題だよ。

「サッカーはテロに屈しない」

今回、試合は1日遅れですぐに開催されたけど、そのことについては賛否の意見が分かれている。特に被害者であるドルトムントの選手、監督からは「とてもサッカーをできる状態じゃなかった」とUEFA(欧州サッカー連盟)に対する怒りの声が上がった。当然だよね。不安や恐怖でまともな精神状態ではいられなかったはずだ。そして、試合にも2-3で敗れてしまった。試合後に涙を浮かべる選手もいたけど、彼らには同情するしかない。

ただ、それでも僕は事件翌日に試合を行なったのは、正しい判断だったと思う。それは日程やお金の問題などではない。社会、そして卑劣な行為をした人間に対しての「サッカーはテロに屈しない」という強いメッセージになるからだ。そして、そのために大事なのは一日も早く“日常”に戻ること。ドルトムントのファンもそれを理解していたからこそ、いつもどおりにスタジアムを埋め尽くし、いつも以上の声援で選手を後押ししたんじゃないかな。もし日本で同じような事件が起きたら、どんな対応になっていただろう。

最後に、この試合での香川のプレーについても触れておきたい。チーム全体が低調ななか、また、自身も精神的にキツかったと思うけど、気迫あふれるプレーを見せ、1得点1アシストと結果も出した。特に自ら決めたゴールは、チームに勇気をもたらしたのはもちろんのこと、ここ数シーズンの彼のモヤモヤを吹き飛ばすような見事なものだった。「サッカーはテロに屈しない」。単なる一試合以上の意味を持つこの試合で、本当に素晴らしいプレーを見せてくれた。拍手を送りたい。

(構成/渡辺達也)