ホンダのPUのパワー不足を嘆くアロンソ。開幕戦を「自身のキャリアでベストレースのひとつ」と、皮肉とも取れるような発言をした

「今年こそ表彰台争い…」の願いもむなしく、F1復帰3年目のシーズンも厳しい船出となったマクラーレン・ホンダ。開幕前のテストからトラブルを連発し、初戦のオーストラリアGPでは最速ラップが上位勢の2、3秒落ち、最高速は10キロ~30キロも遅かった。

この深刻な戦闘力不足に対しては早くも、「アロンソがシーズン途中でチームを離脱か?」とか、「マクラーレンが再びメルセデスにパワーユニット(以下、PU)供給を打診?」といったニュースが飛び交い、さらには「ホンダがマクラーレンに違約金を支払って、今シーズンいっぱいでF1から撤退か?」といった穏やかではないウワサまで流れ始めている…。

そこで前編記事に続き、急遽、「ホンダF1救済」緊急国際会議を開催! 週プレF1解説者としておなじみ“伝説の元F1ドライバー”タキ・イノウエ氏と、イギリス人モータースポーツジャーナリストのサム・コリンズ氏のふたりを迎えて、窮地に立つホンダF1を救う策をマジメに考えてみた!!

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―マクラーレンとアロンソを道連れに破滅させるのは罪深い気もします…。

タキ だったら、今年破産してF1を撤退したマノー・レーシングをホンダが買えばいいんですよ。2017年用に作っていたマシンだってあるでしょうし、それが今や産業廃棄物です(汗)。管財人からチーム丸ごと買っても「ヒトケタの億」で間に合うと思いますよ。

コリンズ そうそう、使い道がなくなったマノーのマシンにホンダのPUを載せて、走る実験台として鈴鹿やもてぎでテストしまくればいいんだよ。今のF1は規則で自由にテストができなくなってるけど、参戦してないチームなら関係なさそうだし、文句が出そうならPUの名前を「これはホンダじゃない。無限だ」って言い切ればいいんじゃない? フェラーリだって、F1のPUをこっそり「ラ フェラーリ」みたいなGTカーに載せてテストしているんだから、ホンダもやらなきゃ。

タキ もちろん、それに対してマクラーレンはウダウダ文句を言うでしょうが、無視すればいいんです(キッパリ)。やつらも今、陰では「PUについてメルセデスと交渉中」みたいなウワサをわざとイギリスのメディアに流して、それを報じさせることでホンダにプレッシャーをかけているんですからね。

つまり、さんざん陰口を叩いてホンダのほうから別れ話を切り出させて、高額な慰謝料をふんだくろうというのがマクラーレンの本当の狙い。その挑発に乗ってしまい、ホンダから「離婚」を切り出すなんてもってのほかです。

今年1月に破産し、今シーズンのF1参戦がなくなったマノー。タキさんいわく、今ならヒトケタの億で買えて、今年のマシンも手に入る?

ホンダは「マクラーレンのブランドを金で買った」

コリンズ それに今のマクラーレンは事実上、「メインスポンサー」であるホンダのお金がなければ絶対に立ち行かなくなる。マクラーレンがどれほどホンダの悪口を言おうとも、自ら「離婚」を切り出すことはありえない。

タキ F1ドライバーの座を金で買ったタキ・イノウエだから言いますが、結局、ホンダは「マクラーレンのブランドを金で買った」んだから、やつらがどんなに文句を言おうと、開き直ってホンダの好きなように使い倒せばいいんですよ。破産したマノーという貧乏な娘をひそかに「愛人」として育てつつ、いずれは離婚する腹積もりのマクラーレンとは「仮面夫婦」でいいからベッドも共にしないし、当然ハンドバッグや指輪をねだられても買わない…。

もう今季もいっそ、「マクラーレンの車体はPU実験用」と割り切って、攻めた開発でどんどんブローさせて、「なんかスイマセンねぇ、ウチのPUよく壊れて(汗)」とか、トボケながら若い愛人との新生活を着々と準備すればいいんです!

―はあ(汗)。ちなみに、ホンダが2チーム目として来季からザウバーにPU供給するという話も出ていますね。

タキ うーん、ザウバーは正直オススメしないですね。あそこはBMWも音を上げて、出ていったぐらいの曲者(くせもの)ですからね。「NOと言えない日本人」ばかりのホンダは、簡単に食われちゃうでしょう。コリンズ ただ、ホンダの今のリーダー、長谷川さんは前任の新井さんと違ってキッパリ「NO」と言えるみたいだけどね。だからこそ、マクラーレンは長谷川さんに対して警戒もしている。

ホンダF1のトップ、長谷川祐介氏。開幕戦で結果は残せなかったが、自由にPU開発を進めることができる今シーズン、PUをどこまで改良できるか

ホンダがF1復帰のパートナーにマクラーレンを選んだことが間違いだった

2013年5月、ホンダのF1復帰を発表した伊東孝紳社長(右)とマクラーレンのマーティン・ウィットマーシュCEO(肩書は共に当時)

■栄光の第2期も最初はトラブル続き

コリンズ そもそもの話になってしまうけど、ホンダがF1復帰のパートナーにマクラーレンを選んだこと自体が間違いだったと思う。自分たちにはF1で戦える十分な実力がまだないのに、いきなりトップチーム、一流ドライバーと組むと、期待ばかりが膨らんでしまうからね。まあ、あの時点で本当にマクラーレンがトップチームのレベルにあったかというと、それも怪しいけど…。

タキ まさにそう。復帰の時点で「二流の実力」しかなかったホンダが、これまた実質二流のマクラーレンと組んだのが、今の新生マクラーレン・ホンダです。それを25年以上前の「マクラーレン・ホンダの栄光」と重ねるから、おかしなことになるんです。それに栄光の第2期ホンダF1にしても、二流チームと組んで「スピリット・ホンダ」として参戦した当初はトラブル続きだったことを忘れてはいけません。もはや品質低下したマクラーレンのブランドにいつまでもしがみつかず、今すぐマノーを買って、なんならチーム名もスピリット・ホンダにして、イチからやり直せばいいんじゃないですか?

諸々の交渉事は「NOと言える日本人」のタキ・イノウエがお手伝いいたしますので、ご連絡をお待ちしております!

コリンズ ワォ……!(ASE)

●タキ・イノウエ現役時代、トラブルで止まった自らのマシンを消火しようとするも、自らを助けに来たメディカルカーにはねられるというアクシデントに見舞われた。これは「F1珍事件」として今も語り継がれる。現在はモナコ在住、SNSで舌鋒鋭くモータースポーツのウラ側を語る

●サム・コリンズイギリスのモータースポーツ専門誌『レースカー・エンジニアリング』の副編集長・デジタル版編集長。F1、WECのほかに日本のSUPERGTやスーパーフォーミュラもカバー。ちなみに誕生日はタキ・イノウエと同じ9月5日

(構成/川喜田 研 写真/桜井淳雄 川喜田 研[ジョン・サーティース] 池之平昌信[会見])