「どこでも釣る、どこでも書く」の作家・夢枕獏(右)と開高健に挑戦状を叩きつける男・小塚拓矢が語り合う、現代の釣りロマン!

未踏の地やまだ見ぬ幻の魚といったものがなくなりつつある現代。冒険家は釣りにおける夢やロマンをどこに見いだすのか?

時間さえあれば世界を回り釣りを楽しむ作家・夢枕獏(ゆめまくら・ばく)と、開高健に抗い世界中の怪魚を釣り上げてきた男・小塚拓矢(こずか・たくや)が、前編に続き、縦横無尽に語り尽くす!

* * *

―ところで、小塚さんはなぜか、「TENGA」の公式サイトに登場していますよね。

小塚 元々は「魚なんて何を使っても釣れるよ」ということを伝えようとしたことから始まっています。一応理系の僕からすると「高額なルアーほど釣れる」みたいな商売っ気を含む論調は事実ではないんです。そこで、美少女フィギュアでミズダコを釣ったり、TENGAでナマズを釣ったりしていたら、お声がかかりまして(笑)。

夢枕 確かに、魚というのはけっこう悪食なので、何か特定のエサじゃなければ釣れないということはあまりないですよね。僕も何も持っていないときは、ティッシュペーパーを丸めたものや、タンポポの茎をちょん切って針につけたりしていますから。

小塚 僕の友人には、2リットルのペットボトルでナマズを釣る奴もいます。つまり、ナマズの性質を知っていれば、道具はなんでもいいんですよ。だから別に、ボールペンでも携帯電話でもなんでもよかったのですが、TENGAを使うのが最も社会的に反響が大きかったということです。

夢枕 釣りは、「複雑なもの」にしたほうが面白いんですよね。逆に、なんでも釣れるようでは困ってしまう。

小塚 まさしく、そこだと思います。

夢枕 僕が今、仲間と30年くらいやっているのはワカサギ釣りなんだけど、仕掛けは竿(さお)からみんな手作りですね。自分たちなりに工夫して、「今度はこういう道具を使ってみよう」「こういう仕掛けを作ってみよう」とやって釣るのが楽しいわけです。その意味では、何も用意せずに行って、現場で工夫して始める釣りは面白いですよ。

小塚 魚はものを言わないので、本当は人が勝手にわかったようなふりをしているだけなんですよ。魚の側からすれば、TENGAでもなんでも一緒だったりするのに。

美少女フィギュアでミズダコ(左)、TENGAでナマズ(右)を釣る小塚氏。釣り業界の「このルアーでしか釣れない」といった宣伝文句が事実ではないことを証明するためなのだとか。

シーラカンスを釣りに行こうと思っている

―おふたりが今、最も釣りたい獲物は何でしょう?

夢枕 今一番やりたいのは、普通の道具だけを持って、中国や東南アジアへ行って、とにかくそこにいる魚を釣るという旅。来年あたりから、年に1度くらいはそういう時間を取れるように調整しているので、今から楽しみですよ。

小塚 さっき先生がおっしゃった、ワカサギ釣りはいいですよね。僕が普段やっている釣りとは真逆ですけど、難しさもあるし大好きなんです。

夢枕 あとタナゴもいいね。

小塚 タナゴ釣りは僕の中で、意外と怪魚釣りに近いところがあるんです。というのも、あまり生息していないので、まず釣り場所を探すという楽しみが先にある。タナゴは日本に13種類ほどいるはずなのに、ブラックバスにやられてしまったり、観賞用に獲(と)られてしまったりして、生息場所を見つけるのがどんどん難しくなっていますから。

夢枕 ここのところ毎年のように、ある川でタナゴを釣っているんですけど、一時期、釣れるのがメスばかりだったときがあって。あとで聞いてみたら、業者みたいなのが網でごっそりすくって、メスだけ置いていったことが判明したんです。オスのほうが高値なんですね。

小塚 それから、僕は今書いている本が終わったら、シーラカンスを釣りに行こうと思っているんです。これ、みんな冗談だと思っているようですけど、大まじめですから。むしろ、絶対に釣れると本気で思っているんです。

夢枕 うん、そこに生息してさえいれば、決して難しい釣りではないと思う。

小塚 みんなが思っているほど、釣りは技術の勝負じゃないんですよね。シーラカンスよりも、アユ釣りのほうがよほど難しいでしょう。

―どこでシーラカンスを狙うか決めているんですか?

小塚 言えないですけど、決めています。治安的な意味でなかなか人が行けないあるエリアに生息している理由があるんです。海なんてすべてつながっているわけですから、小笠原諸島にだってシーラカンスは確実にいると僕は思っています。ただ、小笠原よりも効率的なスポットが海外にある、ということです。

夢枕 シーラカンスでもなんでも、魚である以上は必ず捕食行動はしているわけですからね。理屈としては、どんな魚でも釣れないことはないと思います。ぜひ、誰かに先を越されないうちに頑張ってほしいですね。

(構成/友清 哲 撮影/村上宗一郎[対談] 写真提供/遠藤昇 小塚拓矢)

●夢枕 獏(ゆめまくら・ばく)1951年生まれ、神奈川県出身。『神々の山嶺』で柴田錬三郎賞受賞。『大江戸釣客伝』で吉川英治文学賞などトリプル受賞。ロシア、カナダ、アマゾン、日本各地での釣り体験をまとめたエッセイ『平成釣客伝 夢枕獏の釣り紀行』(1600円+税/講談社)

●小塚拓矢(こずか・たくや)1985年生まれ、富山県出身。東北大学理学部生物学科卒、同大学院生命科学研究科修了。在学時からアマゾンやアフリカを旅し、怪魚を釣り上げる。釣り用具の開発・販売も手がける。近著に『怪魚を釣る』(740円+税/集英社インターナショナル)

●『オーパ!』かつては本誌の人生相談を担当していた作家・開高健先生。アマゾン、アラスカ、モンゴルなどを舞台に、『月刊PLAYBOY』で連載していた『オーパ!』シリーズは今も語り継がれる伝説の釣り紀行だ