2015年から広州富力を率いるストイコビッチ。Jリーグも知る彼の目に中国リーグはどう映る!?

欧州のトップクラブでも通用する大物選手や指導者を次々と獲得! サッカー界ではいまだ中国の“爆買い”が猛威を振るっている。だが、気になるプレーのレベルや環境は!? 

前編記事「中国リーグ・大物選手&指導者爆買いのとんでもない実態」に続き、3月上旬に開幕した中国のサッカーリーグ「スーパーリーグ」、その知られざる内実に迫る!

■ストイコビッチが語るJリーグとの違い

最後は、上海から飛行機で南へ約2時間半の広州へ。広州といえば、中国リーグ6連覇中で、13年、15年にアジア王者に輝いた広州恒大が有名だが、向かったのはストイコビッチ率いる広州富力のホームゲーム。広東省人民体育場での長春亜泰戦は、上海で観戦した2試合と比較するとかなり牧歌的な雰囲気のなかで行なわれ、広州富力が1-0で勝利した。

広州富力には他クラブのような大物外国人選手はいない。だが、リーグの中でも組織力に優れていると評判だ。そんなチームでプレーしているのが、12年から15年半ばまでJリーグの川崎で活躍したブラジル人FWレナト。彼に中国でのプレーや生活について尋ねると、冗談っぽく「日本が恋しい」と口にした。

「サッカーのレベルはどっちが上とか言えないけど、こっちはピッチが悪い。それに食べ物は日本のほうがおいしいし、中国では友達がいなくて寂しいよ。日本ではみんな親切にしてくれたけど、中国はそうじゃないから(苦笑)」

ストイコビッチは15年夏から広州富力を率いている。後日あらためて練習場を訪れ、Jリーグとの違いを聞いた。

「どの国にもそれぞれ異なる文化やメンタリティがあるので一概に比較するのは難しい。もちろん、リーグ運営や安定性に関してはJリーグにアドバンテージがある。ただ、将来性があるのは中国。今、中国サッカーが急成長しているのは間違いない」

大物選手が大金目当てで中国へやって来ることには、批判的な意見も多い。それについてはどう考えるのか。

「貯金を増やすには有益だと思うね(笑)。でも、プロ選手はそれでいいと思う。移籍は自由競争だし、どんな選手でも巨額のオファーを断るのは難しい。それに今、中国リーグは選手を補強するだけでなく、監督にも投資している。今季、(1部リーグに)中国人監督は3人しかいないはずだ。このことは将来、中国サッカーに大きな利益をもたらすと信じている」

先頃クラブとの契約を20年まで延長したストイコビッチは「どんなことも、どのアングルから見るかによって、いいか悪いかの判断は変わってくる」と強調した。

スタジアムをビッチリと埋めた上海申花サポーター。応援にもかなり気合いが入っていて、雰囲気は抜群

飛行機はビジネスクラス、宿泊するホテルはすべて5つ星

ピクシーの名古屋時代からの右腕である広州富力の喜熨斗勝史さん。中国リーグ唯一の日本人コーチだ

そんなストイコビッチの右腕である中国リーグ唯一の日本人コーチ、喜熨斗勝史(きのし・かつひと)さんにも話を聞けた。中国リーグには欧州や南米から多くの外国人選手が来ている一方で、アジアの韓国人選手の存在も目立つ。しかし、日本人選手はゼロ。なぜなのか?

「ひとつ言えるのは、今季から3枠に減った外国人枠に適した人材とは考えられていないということ。それは外国人選手を見てもらえれば、わかってもらえると思います」

実際に中国リーグの外国人選手のプレーぶりを目の当たりにすると、そこに食い込めそうな日本人選手は限られそう。では、リーグ全体のレベルはどうか。

「(ほかのリーグと)単純に比べるのは難しい。ただ、外国人選手のレベルは本当に高いし、みんなコンディションもいい。中国リーグを知らない人にはいくらでもバカにする要素があると思うのですが、今、中国はあらゆる面でスゴいスピードで進化しています。市場が活発になり、中国人選手の移籍金や年俸も高騰したことで、全体の競争が激化し、レベルも上がっています」

かつて中国リーグでは給与の未払い問題が表面化したこともあった。何か不満はないのだろうか。

「未払いはないはずです。ただ、(支払いの)遅延はたまにある(笑)。でも、それが中国の文化。環境面はいいですよ。中国は広いのでアウェーの移動は毎回大変ですが、飛行機はビジネスクラス、宿泊するホテルはすべて5つ星ですから」

まさか中国でこれほどまでにサッカー熱が高まっているとは想像していなかった。代表チームはロシアW杯最終予選で苦戦していて、クラブレベルでも「外国人選手に頼りすぎ」との声があるものの、3チームが出場している今季のACLでは、グループリーグ第3節を終えてすべてのチームが首位に立つなど、その強さは際立っている。

この流れがどこまで続くは未知数。だが、中国のサッカーファンの多くは、習近平の夢がいつか叶(かな)うと信じているようだ。

(取材・文・撮影/栗原正夫)