70年代の週プレとグラビアについて語ってくれたコラムニストの亀和田武氏

発売中の『週刊プレイボーイ』19&20合併号で“創刊50周年イヤー”真っ最中のスペシャル企画として「週プレグラビア遺産 秘宝ポジフィルム一挙出し!」と題した袋とじが掲載されている。

これは週プレ編集部の資料室に長年、保管されていたフィルムを使い、1970年代のお宝グラビアを再掲載したメモリアルな企画で、アグネス・ラムはじめ、由美かおる、安西マリヤ、関根恵子、秋吉久美子、水沢アキから研ナオコに泉ピン子までーーグラビア黎明期の当時、誌面を彩った女神たちの姿をデジタル画像では引き出せない生々しさで甦らせているものだ。

その最終ページではコラムニストの亀和田武氏に70年代の週プレとグラビアについて語ってもらっているが、ここではその特別版として、亀和田氏が語る本誌50年のエピソードや思い出に残る記事でその時代を振り返り、当時の空気感とともに楽しんでいただきたい。

* * *

―早速ですが、『週刊プレイボーイ』っていつから読まれてます?

亀和田 高校3年の時、創刊号を買いましたよ。僕、中学生の頃から新しい雑誌が出るたびに創刊号は必ず買う習慣があったんで。でもそれ以降はたまにしか買わなかったかな。どちらかというと『平凡パンチ』を読んでいました。

―週プレのライバル誌ですね(笑)。

亀和田 どちらもグラビアやクルマなど当時の流行・風俗に関する記事はあったけど『パンチ』は特に海外記事が充実していたんですよ。それも「ストックホルムではフリーセックスが大流行」とか「ロスで黒人による暴動が発生」とか、新聞の国際欄を隅から隅まで読んでも見たことのない刺激的な記事が載ってた。

例えば、イラストレーターの小林泰彦さんが西海岸サンフランシスコのヘイト・アシュベリーへ行って、ヒッピーたちをイラストでルポするとか取材の仕方も秀逸で。そこへいくと週プレはどこが売りなのかちょっとわかりづらかった。よく読むようになったのは70年代初頭からですね。

―その頃から篠山紀信さんや立木義浩さん、沢渡朔さんらのグラビアが話題になって、少しづつ波に乗ってきました。

亀和田 週プレが出る少し前(1965年)に『話の特集』って雑誌が創刊されるんです。活字の雑誌なんだけど、小説のイラストに丸々1ページを使ったり、篠山さんや立木さんがそれまでの週刊誌のヌード写真より断然カッコいいグラビアを撮ったり、ビジュアルやデザインがともかく洗練されてて話題で。週プレはそういうところからスタッフを起用しだしたんですよね。いいと思ったらどんどん動く。エネルギッシュでしたよ。

―特に印象に残っている企画はあります?

亀和田 73年から連載が始まった「うろつき夜太」はすごいと思いました。時代小説の大御所・柴錬(柴田錬三郎)さんと横尾忠則さんによる豪華な組み合わせの全編カラーで。横尾さんの絵をゴージャスに見せてやるって意気込みが誌面から伝わってきましたね。

柴田錬三郎と横尾忠則による時代小説。約1年にわたり連載され、毎号先の読めない奇想天外な物語とイラストが話題を呼んだ。 『うろつき夜太』(1973年1月2・9日号)

このスタイルの人生相談は他のどの媒体にもない

―連載中、ふたりはホテルで缶詰になって生まれたという渾身の作品です。

亀和田 あとは「人生相談」。これも柴錬さんが最初ですけど、青春の真っ只中で悶え苦しんでいる若者たちに「バカヤロウ!」って喝を入れて。初めて読んだ時は「すげーな」って驚きました。

その後も、今東光大僧正に「そんなのわかるかい」って啖呵(たんか)を切らせたり、石原裕次郎に「あんたはくだらねえ奴だよ」って言わせたり。人生相談って、普通は偽善的なくらいに投稿者に寄り添うものなのに、そういう姿勢が一切なく本音で向き合う。このスタイルの人生相談はまさに他のどの媒体にもない、週プレならではです。

今なお続く名物コーナーの記念すべき第一回。「マスターベーションをやめられません。かまわないでしょうか?」という問いに「やりたまえ」と一言。ほかにもそのものズバリの名解答が並ぶ。 『柴錬のプレイボーイ人生相談 キミはやれ、俺がやらせる』(1966年11月15日号)

―人生相談はその後、開高健さんやアントニオ猪木さんに赤塚不二夫さん…現在のリリー・フランキーさんまでが担当し、いまだ続く人気コーナーです。一方のグラビアで好きなアイドルはいました?

亀和田 それはあまり…(笑)。その頃の僕は、グラビアを見て性的な妄想に耽(ふけ)るなんて安易すぎるなんて思ってたしね。それより街をうろついてたら年上の美女と出会って、どこかへ連れてってもらえたらなんて夢みたいなこと考えてましたね。あははは。

―ちなみに70年代の週プレの表紙登場ランキングは山口百恵さんとアグネス・ラムさんが1位で以下、岡田奈々さん、ハニー・レーヌ、桜田淳子さん、多岐川裕美さんなどが続きます。

亀和田 百恵ちゃんとアグネスは70年代の象徴ですよね。太陽の下、青い海のビーチで笑顔を見せるハワイ娘と鋭い眼差しで薄幸な雰囲気を漂わせる謎めいた美少女…。当時、高度成長期が終わりに差し掛かって、明るさの中にも停滞ムードが漂ってた。陽と陰のキャラクターが同居していたというか。時代の空気が表れてますね。

―亀和田さんはどちらがお好きでした?

亀和田 僕は断然、百恵ちゃん。彼女の登場は大きかった。当時、ほとんどのアイドルがしていた作り笑いを彼女はしてなかった。むしろ仄暗い表情を浮かべて。だからこそ、アイドル=ファンタジーの対局にあるリアリティがありましたよね。

―考えてみれば、おふたり共に引退してますけど。

亀和田 それもまた時代を象徴してると思う。80年代デビューのアイドルは今も現役感が漂ってるけど、70年代は表舞台から潔く姿を消した人が多いから。ハニー・レイヌ、桜田淳子、あと木之内みどりや栗田ひろみなんかもそう。それだからか、この時代のグラビアを見ると、寂しさにつきまとうエロティシズムを感じますね。

時代の象徴、アグネス・ラムのグラビア

ハワイ生まれの中国系アメリカ人。1975年より日本でタレント活動を開始し、社会現象となるほどの熱狂的な人気を呼んだ。(撮影/崎山健一郎) アグネス・ラム

―亀和田さんご自身は77年から『劇画アリス』という劇画誌の編集長を務められてましたけど、週プレを意識したことは?

亀和田 それはなかったです。まず規模が全く違うし。ただ週プレができないことをやろうとは思ってましたよ。『劇画アリス』は、僕と同じ28歳だった社長と高校を卒業して間もない事務の女のコと3人で立ち上げたんですけど、よく話していたのはリアルなエロを狙おうぜと。

―リアルなエロというと?

亀和田 グラビアでいえば、週プレはハワイロケ行ったり、有名ホテルやスタジオで撮るでしょ。でも僕たちはスタッフの自宅や御殿場インターの奥にある廃校に潜入して教室の中で撮ったり、あとは街中とかね。日常的でどこにでもある場所で撮りました。衣装もこだわりましたよ。

―私服ってことですか?

亀和田 それもあるけど、ブラジャーとパンツが肌に食い込んだ跡とかパンスト姿を撮ったり。カッコいいものじゃないからイヤがる女性もいましたけど。一流誌のモデルさんは下着の跡なんか見せない、きれいな裸を撮らせているでしょ。僕たちはリアルで生々しい裸を撮ろうと。まぁ、ある意味、小学生の図画工作というか、あり合わせのもので面白いモノを作ってやろうって感覚でもあるんですけどね。

あ! そういえば、週プレですごい好きだったのを思い出した。僕、『マキバオー』の大ファンだったんですよ。

―つの丸先生のマンガですか?

亀和田 そう。『週刊少年ジャンプ』に連載してた「みどりのマキバオー」が大好きで、その続編「たいようのマキバオー」が週プレで連載が始まってビックリというか大感激してね(2007~2011年。その後の続編は週プレNEWSで配信)。当時は毎号欠かさず買ってました。コミック本も買うけど、雑誌も切り抜いてファイルに入れてコンプリート保存もしてたし。今でも宝物です。

―そんなに!? どのあたりがよかったんですか?

亀和田 競馬自体、好きなんだけど、やはり小さな馬が挫折を繰り返しながら健気に走る姿に感動したというか。あと「たいよう~」は高知競馬の経営が危ない時期にやってたでしょ。暇と金があれば全国の地方競馬に通ってましたから。人ごとでなかったというか。あれは競馬ファンであれば、涙ものの名作ですよ!

―そこまで気に入っていただいてたとは(笑)。最後に“週プレイズム”ってどこにあると思われます?

亀和田 やっぱり毎日起こる刺激的な楽しいことに敏感に反応していることですよね。最近だと森友問題や尖閣問題もしっかり扱ってたし、以前はツチノコやUFO、UMAなんかもよく特集してた。女のコの水着やヌードからスポーツ、社会・政治状況までどんなことにでも同じように食らいつく姿勢はまさに週プレらしさだと思います。

実際の読者は10~20代よりずっと上で、50代まで幅広いと思うけど、年齢に関係ない“若者”たちをネットだけじゃなく、ザラ紙やグラビアの誌面を通し、いつの時代も満足させる。これからもなんでも詰まってて、刺激的な週プレであってほしいですよね。

スペシャル企画「週プレグラビア遺産 秘宝ポジフィルム一挙出し!」は発売中の『週刊プレイボーイ』19&20合併号に掲載中!!

(取材・構成/大野智己)

■亀和田武1949年生まれ。コラムニスト。1977年創刊の雑誌『劇画アリス』を仲間と立ち上げ、三流エロ劇画ブームを起こす。著書に『夢でまた逢えたら』『60年代ポップ少年』など。『週刊朝日』に雑誌評「マガジンのとら」を連載。