グランドジャンプ誌上で新連載がスタートした『プレイボール2』第1回の扉絵。コージィ氏が「何も足さない、何も引かない」と語った通り、ファンも納得?

昭和を代表する漫画『キャプテン』の主人公・谷口タカオが高校の弱小野球部で甲子園を目指すその後を描いた『プレイボール』。その続編を『グラゼニ』原作でも知られる漫画家コージィ城倉(じょうくら)が描く!? 

その発表は大反響を呼び、ついに新連載が『グランドジャンプ』誌上にてスタートしたが、そこに至った経緯と気になる作品の展望を第1回第2回に続き、ちばあきお氏の長男である千葉一郎氏と語ってもらった!

■丸井キャプテンの時代まで見たい!

―そこで新しい気づきや、ちばあきおらしさってこういうところにも、みたいな?

コージィ やはり最高の省略の仕方ですね。先生は試合の1回の表裏をバシッて書くんですよ。それで長いなーって思ったら、次はもう最終回までシーンをダイジェストで描きながら「ハイ、終わりました」って。でも1回の表裏をしっかり描けば想像つくから、それでもいいんです。

あとは日常シーン。これは(ちば)てつや先生もやりますけど、野球の合間合間で勉強をやらせたり、食卓を囲んだり。なんでもないシーンを入れちゃう。あれも僕は大好きです。

―では、あきおイズムの魅力は究極的にはどこにあると?

コージィ 演出がないってことですかね。作為がないというか。普通の漫画ならもっと起承転結を意識したり、伏線を張ったりするんですけど、それがないんです。読んでいくうち、いつの間にかスーッと終わっていく。そういう説明のつかない魅力がある。

千葉 『グランドジャンプ』のインタビューで「薄い刺激でダラダラと読ませるような魔力」って、おっしゃってましたよね(笑)。

コージィ そうそう。例えば、タイムをかけるシーンなんかもすごく多いんです。連載を始めるにあたって、ご挨拶しに伺った時、七三先生(あきお氏の弟で原作者の七三[なみ]太朗)になぜかって聞いたんです。そしたら「適当だよ」って(笑)。

そのキャラのセリフが増えるとかそういうことかもしれないけど、余計なことを考えないで描いてるんです。それがウザいっちゃウザいんですけど(笑)、ひとつの魅力になっている。そういう間もあって、どこから読んでもいいし、ただ眺めているだけでも気軽に楽しめちゃう。

千葉 父の作品って、単行本を大事に持って読み返すより誰か友達に薦めて、そのまま貸したっきりとか。ラーメン屋や床屋で読んだというようなファンが多いんですよね。

コージィ ストーリーを追いかけたいというよりダラダラと見ていたい。そういう作品って、誰もができるわけじゃないし、実は一番印象に残るんですよね。

漫画家・コージィ城倉氏

ある意味、作家としては絶望ですよ(苦笑)

ちばあきおプロダクション社長・千葉一郎氏

千葉 そんなふうに言っていただけるのも嬉しいです。

コージィ でもね~、こうして作品に触れていると自分の中では嫉妬もあるんですよ。絶対にこんな作品は描けなかっただろうなとわかるから。ここまでみんなが話題にしてくれる作品を描くのは無理だし、こんな偉大な作家を好きだったのかって諦めの感情があるんで。ある意味、作家としては絶望ですよ(苦笑)。

とはいえ、そんな状況を楽しんでいる自分もいて。毎日、描くのが本当に大変だけどすごく楽しい。小さい頃に田舎の自分の部屋でちばあきおの漫画を模写してるような嬉しさでもあるというか。

千葉 今は試合がいつ始まるのか楽しみで仕方ないです。

コージィ でも描かなきゃいけないことがまだまだあるんで。当分、試合はないんじゃないかな…。人気が出なきゃ先はないと思ってますからどうなるかわかりませんけど。今は連載が終わらないように頑張りたいと(笑)。

千葉 すべてお任せしてますので。僕としては、近藤も新入生で入ってくる丸井キャプテンの時代まで見たいな、くらいの感じで(笑)。応援したいと思います。

コージィ いやいや、そこまでは…(苦笑)。でもまぁ丸井がキャプテンになったら、いろんなウザいことを押しつけたり言ったりね。彼のほうが話が動くというか、主人公として面白いし僕も大好きなんで。谷口君の影が薄いくらいがオリジナルに近いんじゃないかって。

そういう意味では、こうやってファンや新しい読者が最高に盛り上がって沸いてくれたらなと。他の作品では、なかなかなかったことでしょうし。本望ですね。

(取材・文/大野智己 撮影/五十嵐和博)

■グランドジャンプにて連載中! 『プレイボール2』のあらすじキャプテン・谷口の最終学年となる春、墨谷高校野球部に墨谷二中の後輩イガラシや江田川中の井口など有望な新人が入部。前年に編入してきた丸井も含め、態勢は整った! だが甲子園常連校の谷原高に練習試合で大敗、チームを立て直すために谷口は…。

●コージィ城倉(COZY JOHKURA)1963年生まれ、長野県出身。89年にデビュー、代表作に『愛米(ラブコメ)』『おれはキャプテン』『チェイサー』ほか。森高夕次名義で原作者としても『グラゼニ』『江川と西本』など多くの連載を抱える人気作家に

●千葉一郎(CHIBA ICHIRO)ちばあきおの長男として現在は作品の企画・管理をするプロダクションの社長を母親から引き継ぐ。兄はちばてつや、弟は七三太朗という漫画一家である父親の遺伝子を継ぐ