個性的なコスプレや変顔でも有名な岸田メル先生

今年4月からNHK・Eテレで放映されている『コノマチ☆リサーチ』に、お兄さん(ハジメ)役で岸田メル先生が出演する。

岸田先生は人気TVゲームシリーズの「アトリエシリーズ」やアニメ作品「花咲くいろはの」のキャラクターデザインを務めた大人気イラストレーター。また今年の3月末に発売されたTVゲーム「ブルー リフレクション 幻に舞う少女の剣」では監修を務めており、破竹の勢いで仕事をこなしている。

さらに、個性的なコスプレや変顔をすることでも有名で、特に謎の仮面を着け、両手に剣を持った画像はTwitterに投稿されるやいなや急速に拡散され、一躍話題となり代名詞的な存在となった。

そんな先生が奇抜なイメージとは相反する教育番組に抜擢されたことで、またまたネット上では大きな注目を集めているわけだが、そこで本人を直撃! インタビュー前編では『コノマチ☆リサーチ』のエピソードからコスプレの真相まで伺ったが、今回はアーティスティックな一面に迫った。

イラストレーターになったきっかけや作品への想い、仕事に対する姿勢について熱弁していただいたぞ!

―ちなみに、岸田先生はイラストレーターになる前から絵を描いていたのでしょうか?

岸田 絵が好きで落書きもよく描いたりしていたけど、イラストレーターを仕事にすることは考えていなかったですね。子供の頃は漫画家やイラストレーターになりたいと思った時期もあったけど、当然、子供なので真剣に考えていません(笑)。高校入学後もお芝居やりながら、たまにお絵描きする程度でした。

―なるほど。では、いつ頃からイラストを描き始めたんでしょう?

岸田 デジタルの絵を描き始めたのは、名古屋芸術大学のデザイン科に入った頃です。ただ、家が裕福ではなかったから、アルバイトしつつ大学に通うか、大学を辞めて芝居を続けるかで悩んだ末に1年ぐらいで大学を辞めてしまって。

その当時は芝居のほうが楽しかったんですね。うまく環境になじめなかったり、登校が面倒だったりっていう逃避もありました。その後はお芝居と並行しながら、趣味で描いたイラストをネットに上げていました。

―そこから仕事を貰うようになったのは?

岸田 20~21歳ぐらいだったかな。初めて報酬をもらったのは、季刊エスの編集長に誘われて描いた作品です。しばらくしてからライトノベルの仕事がくるようになって。「パラケルススの娘」のイラストを描いてから、他のレーベルからも依頼が舞い込むようになりました。

「笑う大天使」は人生や絵に影響を与えた作品

―「パラケルススの娘」のイラストは凄く可愛らしいですよね。可愛い女のコを描くようになったきっかけはあるのでしょうか?

岸田 元々は可愛らしい絵を描くことにそんなに興味はなくて。邦画が好きなのもあって、どちらかというと写実的で沈んだ色調の絵を描いていたんですよ。女のコの絵を描いても、昔から大好きな小林智美さんの「ロマンシング サ・ガ」のイラストのような、耽美な感じにしたくて。

だから、今みたいな可愛らしい感じの絵にしたいとは全然思ってなかったんです。ただ、狙ってあざとくするとネットで受けがよかったのと(笑)、仕事をしていく中で需要を取り入れて、自然に変わっていった感じですね。

―「ロマンシング サ・ガ」以外に影響を受けた作品などは?

岸田 少女漫画家の川原泉先生が描く作品が大好きです。中学生の時に文庫版「笑う大天使」の表紙が可愛かったので、読んだらハマりました。ネーム量が多くて、哲学的な話もある少女漫画っぽくない作風です。話としては脱力感があって緩い感じで、人に対する視点が他の作家さんとは違うんですよ。何やっても上手くいかない能力が劣る人に対して、優しい目線で全体が包まれている世界観が素晴らしい。僕の人生や絵に大きな影響を与えた作品です。

―では、作品の女のコに自分の理想とする女性像を反映させたりは? もしくは、影響を受けたモデルなどがいましたら教えてください。

岸田 よく「これは、好みの女のコですか?」と聞かれるんですけど、当然自分の絵を異性の対象としては見てないんですよね。

ただ、モデルとしての理想はあって、例えばリハウスガールだったときの夏帆さんとか、昔の宮崎あおいさんとか、ストレートな透明感のある人が好きで。なので、モチーフで描く分には、透明感があるモデルをイラストで表現することが理想ですね。

―では、ご自身がデザインしたキャラクターの中にお気に入りは?

岸田 自分の趣味が色濃く反映されているという意味では、トトリがお気に入りかな。彼女は「トトリのアトリエ」というゲームの主人公で、結構自分の好きな要素を丸々詰め込んだ割に、ダメ出しを受けずに通ったんです。

直近の「ブルーリフレクション」(今年の3月末に発売)のキャラクターは全部愛していますが、全力で関わっていたばかりなので、少し間を置かないと冷静に見られません(苦笑)。

―先生が愛してやまないTVゲーム「ブルー リフレクション 幻に舞う少女の剣」の製作エピソードも教えてください。

岸田 今回はキャラクターデザインだけでなく、全体のデザインや原案なども僕が監修しています。ゲームのテーマに則って作られるように、全体を見てディレクションをしていました。だから、この1年は本当に忙しかったし、どのような反響があるのか、楽しみな反面不安もあり…。

ふたを開けてみたら好意的な反応が多かったので、ホッとしました(苦笑)。自分がかけた1年以上の時間が悲しい結末にならなくてよかったです。

独りよがりの表現は受け手に届かない

―苦労が報われて本当によかったですね。では、製作に対する考えについてもお聞きできればと。現在、ソフトやデバイスの進化・普及のおかげで、綺麗なデジタルの絵が比較的簡単に描きやすくなった反面、似たような絵がネット上に溢れているイメージもあります。そこで、ご自身が考えるオリジナリティとは?

岸田 仕事をする上でオリジナリティが絶対必要かと言えば、実はそうでもないと思うんですが…わかりやすい考え方としては、パッと見て、その人の絵だとわかることですよね。売れ線に近づきすぎても似かよっちゃうし、離れ過ぎたらファンがついてこない。ファンに受け入れてもらえる距離感が重要だと思います。

具体的な話をすると、人気の絵柄や表現に寄り添いながら、ちょっと違ったアクセントを入れていく。好みやセンスがいかに絵の中に入っているかが大事です。

―絵にオリジナリティを入れるにはどうすれば?

岸田 自分が好きなものにどれだけ向き合えるかです。表現したいものを自覚しながらたくさん描いて、どうやってお客さんに届けるかを考える。独りよがりの表現は受け手に届かないし、需要に則った文脈じゃないと「可愛い」や「好き」といった評価は返ってこない。求められているものを理解しながら流行やルールの中で描く必要があるんです。

―最後に、イラストを描く上で一番大事にしていることを教えてください。

岸田 他人から評価を得て商売をしたいなら「その人の絵でなければいけない」といった付加価値を作る必要があります。イラストレーターを目指すコたちによく言ってるんですが、絵が売れることの意味にきちんと向き合わないといけません。お金を払ってでも、この絵を持ち帰りたいと思う気持ちが価値なので。

だから、「欲しいと思ってもらえる絵って何?」を考えないといけない。先ほども言いましたが、実はオリジナリティがその足かせになることだってあるんですね。絵の流行り廃りもあるし、とても難しいことだと思います。

それでも最終的には自分のセンス、自分の好きなものを信じるしかないので、僕は自分が受け手なら「こういったものが欲しい」と考えてから描いています。もちろん、うまくいく時もあれば、そうでない時もあるんですが。

―ご多忙の中ありがとうございました。今後やりたいことはありますか?

岸田 ゲームのディレクションは凄く楽しかったので今後もやりたいです。あとはそうですね…不労所得を得たい!(笑)

(取材・文/高橋アオ)

■岸田メル(きしだ・める)1983年9月3日生まれ。雑誌・ライトノベルなどのイラストはもちろん、アニメやゲームのキャラクターデザインも数々手がける人気イラストレーター。現在、NHK・Eテレ『コノマチ☆リサーチ』(毎週水曜 9:10~)にお兄さん(ハジメ)役で出演中! ○キャラクターデザイン・監修を務めるゲーム「ブルー リフレクション 幻に舞う少女の剣」絶賛発売中! その他、詳しい情報はオフィシャルホームページ、Twitterまで【@mellco】