「勘違いしないでほしいのは『一生自分ひとりで生きてゆく力』という意味じゃないんです。ソロで生きる力って、実は『人とつながる力』なんです」と語る荒川和久氏

2035年には日本の人口の半分が独身になる? 急激な高齢化と並行して進む未婚化、非婚化、さらに離婚率の上昇によって、日本には「ソロ社会化」の波が着実に押し寄せているという。

その現実を大手広告会社・博報堂の「ソロ活動系男子研究プロジェクト」リーダーを務める荒川和久氏が、著書『超ソロ社会「独身大国・日本」の衝撃』で明らかにする。

独身者たちの生活意識や価値観、そして「ソロで生きる力」とは何かを問う一冊だ。

* * *

―本書で紹介されている具体的なデータとマーケティング調査の分析を併せて見ることで、独身者に対する先入観や思い込みがひっくり返ります。なぜ、「ソロ社会化」をテーマに本を書こうと思われたのですか?

荒川 以前、『結婚しない男たち 増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』という本を書いたのですが、そのきっかけは、社内で独身男性のマーケティング活動を研究するプロジェクトチームを立ち上げたことでした。

広告会社はこれまで独身男性をマーケティングのターゲットとして、ほとんど見てこなかったんです。一般的に「消費は女性がつくる」とされていて、主婦や女子高生などの消費動向はとても熱心に分析するのに、男性といえば対象にするのは「缶コーヒー」ぐらいなのです。

そこには「独身の男はお金がないからターゲットにならない。お金がないから結婚しない」みたいな先入観や決めつけがある。その一方、既婚男性の支出に関しても、奥さんや子供も含めた「世帯支出」の形でしか見ていませんでした。

ところが実際に調べてみると、独身男性は意外にお金を使っていることがわかった。そこで本格的にマーケティング調査を進め、自由で自立したソロ男へのインタビューを重ねていったら、それだけで「本一冊」になるほど面白かった。

独身男は潜在的な「不幸感(欠落感)」を抱いている

―調査の結果、浮かび上がってきた「ソロ男像」って、どんな人たちなのでしょう?

荒川 独身男って、大抵めんどくさいですよね(笑)。頑固でヘソ曲がりであまのじゃく。「自由に生きたい」とか「人の評価なんて気にしない」とか言うクセに、実は自分が他人からどう見られているか、すごく気にしている。

つまり彼らが「幸せ」を感じるポイントって、「承認欲求」や「達成感」なんです。

もちろん既婚者だって、それは気にするでしょう。でも独身者との大きな違いは、既婚者が夫婦や親子関係でもそうした幸せを感じられるのに対して、独身者は基本的に「消費行動」を介した形で感じることが多いという点です。

「俺はこの店で飯を食った」とか「こだわりの逸品を手に入れた」とか、自分の金や時間を消費して手に入れた達成感や満足感に幸せを求めている。

それは逆の言い方をすれば、彼らは潜在的な「不幸感(欠落感)」を抱いているという一面もあります。これはソロ男女共通の傾向ですが、彼らは「自分が有能である」という意識が高いのに「自己肯定感」は驚くほど低い。一方、既婚者は「自分は大した人間じゃない」と思っているのに「自分のことは好き」と感じている人が多いんです。

また、世の中には「結婚するのが当然」とか「家族を持って一人前」みたいな結婚規範や、社会的なプレッシャーみたいなものがいまだに強く残っています。

独身者の多くは、そうした規範に反している「罪悪感」や「後ろめたさ」を表面上は気にしていないように見せていますが、「無意識」の部分で縛られているということが、実際の調査で見えてきました。

―少子高齢化や人口減少など一般にはネガティブなものとしてとらえられがちな問題を、ポジティブな可能性に転じていこうという視点も新鮮でした。

荒川 少子高齢化も人口減少も避けられません。それを誰かのせいだと責任を押しつけても不毛だと思うんです。社会が変わるなら、それに合せて考え方をシフトさせたり、新たな幸せの形を模索しないかぎり、ポジティブな未来も、それに向けた「生き方」も見えてこないと思います。

既存の結婚、家族、仕事といった、これまで「当たり前」で「確かなもの」だと思っていたコミュニティだって、この先もそうあり続けるとはかぎりません。結婚しても離婚のリスクはあるし、就職しても会社がなくなる可能性もある。今までの常識が常識でなくなることを考えなければなりません。

そんな未来を生きるために必要な力を、この本では「ソロで生きる力」と呼んでいます。

ソロで生きる力って、実は「人とつながる力」

―具体的にはどういうことでしょう?

荒川 勘違いしないでほしいのは「一生、自分ひとりで生きてゆく力」という意味じゃないんです。当たり前の話ですが、人はひとりでは生きてはいけません。逆説的な言い方になりますが、ソロで生きる力って、実は「人とつながる力」なんです。

自立心とは、誰の力も一切頼らないことではなく、頼れる依存先を複数用意できることで生まれるもので、依存先がひとつしかないという状況のほうこそ憂うべきです。いろいろな形で社会と接点を持って、多様な人たちとつながれば、自分の内面にも「多様性」が生まれます。

テクノロジーの進歩で、今はオンラインサロンなどで世代も仕事もバックグラウンドもまったく違う人たちと知り合いになったり、クラウドファンディングに参加したりといったことが可能になりました。

そうした多様な人たちとのつながりを通じて、自分の内面に化学反応を起こしていくことがソロで生きる自立力につながるのだと思います。

その力をひとりひとりが持つことで、未来の新しいコミュニティがつくられていくのではないでしょうか。

―テクノロジーといえば、ソロ社会化の一要因として、VRの進化で「結婚」と「セックス」が切り離される時代が来るという指摘も気になりました。

荒川 CGとVR技術の進歩はすさまじいですからね。モテない男がVRゴーグルと触感を再現するグローブと…を装着して、仮想現実の中でモテまくるなんて時代が、この数年でやって来るかもしれない。それで幸せが満たされるようになると、「抜け出す」のは難しいかもしれませんが(笑)。

(インタビュー・文/川喜田 研 撮影/有高唯之)

●荒川和久(あらかわ・かずひさ)「博報堂ソロ活動系男子研究プロジェクト」リーダー。早稲田大学法学部卒業。博報堂入社後、自動車・飲料・ビール・食品・化粧品・映画・流通・通販・住宅など、幅広い業種の企業プロモーション業務を担当。キャラクター開発やアンテナショップ、レストラン運営も手がける。独身生活研究の第一人者として、さまざまなメディアに多数出演。著書に『結婚しない男たち 増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)

■『超ソロ社会「独身大国・日本」の衝撃』 (PHP新書 840円+税)日本が直面する少子高齢化よりも深刻な「ソロ社会化」。2035年には、人口の半分が独身者になるという。独身男性の消費行動を研究してきた著者が、統計と独身者への聞き取り調査から導き出したソロ社会化の要因とは何か? 避けられない社会の変化に、われわれはどう向き合うべきなのか? 新たなコミュニティのあり方を提案し、ソロ社会を前向きに生き抜く術を知る