米中ロシアの傲慢がシリアと北朝鮮を暴発させる!? 中東研究者・内藤正典氏が緊急解説!

中東で、そして朝鮮半島で、かつてないほどに緊張が高まっている。

化学兵器を市民に向けて使用した(とされる)シリアに巡航ミサイル59発を放ち、核弾頭を搭載したICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発を進める北朝鮮に対しては「あらゆる選択肢を排除しない」と強硬姿勢をアピールした、アメリカのトランプ政権。

北朝鮮側も「アメリカが攻撃するなら、核戦争も辞さない」と徹底抗戦の態度を示すなど、「挑発合戦」は日増しにエスカレートするばかりだ。

この先、シリアでアメリカがさらなる軍事行動に出る可能性はあるのか? そして北朝鮮とシリアが「暴発」する危険性は本当にないのか? 

■アサドの支配を限定した「シリア分割」

中東情勢に詳しい、同志社大学大学院の内藤正典教授は次のように語る。

混迷極まるシリア情勢も、北朝鮮をめぐる緊張も、その背景にあるのは、これらの国を陰で支援する大国同士の対立や緊張です。そこに目を向けずに危機感ばかりを騒ぎ立てると、問題の本質を見誤ることになります」

どういうことだろう?

「例えば、なぜロシアはシリアのアサド政権を支えるのか? その最大の理由はシリア国内にあるロシア軍基地の存在です。特にシリア西部のタルトゥースにある海軍補給拠点は、ロシアが地中海沿岸に持つ唯一の海軍施設。ロシアの軍事戦略上、重要な意味を持ち、絶対に譲れない施設のひとつなのです。

仮にアサド政権が、アメリカの支援を受ける反政府勢力の手で倒されるようなことになれば、ロシアはこの重要な『軍事権益』を失いかねない。だからこそロシアは一貫してアサドを支持し続けていて、それが結果としてシリア内戦を泥沼化させる大きな要因になってきたのです」

ロシアのシリア支援には、そうした思惑があるのだ。

「一方、ISとの戦いでロシアと協調したいと考えていたトランプ政権は、これまでシリア情勢への関与に否定的でした。ところが化学兵器使用問題で態度を一変。シリアの空軍基地に巡航ミサイルを撃ち込んだのです」

米露でシリア問題の処理について緊密な議論が…

その結果、アメリカとロシアとの関係は急激に悪化したと報じられている。しかし、内藤氏は「それは表面的なもの」と指摘する。

「4月12日に行なわれたアメリカのティラーソン国務長官とロシアのラブロフ外相の会談では、ティラーソン氏がロシアの責任を追及したのに対し、ロシア側がアメリカのミサイル攻撃を厳しく批判したと報じられました。

しかし会談が5時間にも及び、当初予定されていなかったプーチン大統領までが、その会談に加わったことを考えても、実際には今後のシリア問題の処理について緊密な議論があったとみるべきでしょう」

では、どんな議論が?

「もちろんロシアは、シリア政府軍による化学兵器の使用について否定していますが、内心ではアサドの軽率な行動について苦々しく感じているはず。また、前述したように、ロシアとしてはシリア国内の軍事権益が保障されるのであれば、逆にアサド政権を支持し続ける理由は薄れる。

つまり、今回の化学兵器使用を契機に米露、あるいはそこにトルコを加えた3ヵ国が主導する形で、『アサドの支配をロシア軍基地と主要都市のある西部に限定し、難民を帰還させるための安全地帯をつくるシリア分割』というシナリオを話し合ったとしてもなんら不思議はありません。ただし心配なのは、庇護者だと思っていたロシアから『見捨てられた』と感じ、アサドのような独裁者が暴走する可能性です」

★後編⇒アメリカによる北朝鮮“空爆”や先制攻撃が「現実的には起こりえない」理由

(取材・文/川喜田 研 撮影/祐實知明)

●内藤正典(ないとう・まさのり)同志社大学大学院教授。1956年生まれ。専門は多文化共生論、現代イスラム地域研究。近著に『となりのイスラム 世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代』(ミシマ社)などがある