高安は出世を支えてくれた兄弟子に続き、優勝で大関昇進を決めることができるか? (写真はイメージです)

14日に幕を開けた大相撲夏場所で、関脇の高安(27歳・田子ノ浦部屋)が大関昇進に挑んでいる。

大関昇進の目安は三役3場所で33勝以上。高安は直近の2場所で23勝を挙げているため、今場所に10勝すれば昇進が見えてくる。しかし、番付が発表された5月1日の記者会見では、「15日間、しっかり取り切って全勝したいですね」と全勝優勝で昇進を決める決意を語った。

高安にとって刺激になっているのは、同部屋の横綱・稀勢の里(30歳)だ。入門以来、ずっと憧れて尊敬してきた兄弟子は、今年の初場所で初優勝を飾って新横綱に昇進。大阪で行なわれた先場所は、左腕に大きなケガを負いながら奇跡的な逆転優勝を決めた。

劇的な連覇を達成した稀勢の里の姿を、支度部屋のテレビで見ていた高安は、「ケガをしたときは祈るしかなかったんですが、いい結果になって感動しました。まさかの展開に込み上げるものがありました」と、人目をはばかることなく涙を流した。

その優勝パレードで旗手を務め、大阪のファンの歓声に応える横綱のまぶしい姿を最も近くで目にした高安は「次は自分が優勝してオープンカーに乗りたい」と場所前に誓った。

高安の入門までの経歴は、稀勢の里と重なる部分が多い。茨城県牛久市出身で中学まで野球に没頭した稀勢の里。対する高安も茨城県の土浦市に生まれ、中学では野球部で活躍した。2002年に入門した兄弟子から3年遅れて、これまた稀勢の里と同じく中学卒業と同時に元横綱・隆の里が師匠を務めていた鳴戸部屋(13年末に田子ノ浦部屋に変更)に入門した。

このとき、稀勢の里はすでに幕内力士。15歳の新弟子にとって、入門後にスピード出世を果たした兄弟子ははるかに遠い存在だった。一方の高安は、鳴戸部屋の猛稽古に耐えられず、何度も千葉県松戸市の部屋を脱走して自宅のある土浦まで帰った過去を持つ。

「次こそ自分が目立つんだという強い意識を持ってやりたい」

11年にこの世を去った先代師匠・隆の里は、幕内力士にも妥協を許さず厳しい指導を続けてきた。それに真摯(しんし)に向き合ってきた兄弟子の姿を見てきた高安は「厳しい稽古に耐えて精進してきた、稀勢の里関を本当に尊敬します」と何度も繰り返してきた。

その背中を追いかけ、10年の九州場所で新十両、11年の名古屋場所で新入幕、13年の秋場所には新三役昇進を果たすなど、平成生まれの力士たちを牽引(けんいん)する存在になった。

出世の裏側には、稀勢の里の支えがあった。稽古場では数え切れないほど胸を貸してくれ、土俵を離れれば兄弟弟子の壁を取り払い、分け隔てなく接してくれた。

高安が初めて大関取りに挑戦した昨年11月の九州場所では「気持ちが浮足立ってしまった」と、まさかの負け越しを喫したが、そんな苦い思いを打ち消してくれたのも稀勢の里だった。初優勝を成し遂げた直後、横綱昇進を決めた際に「次は高安を大関に上げるのも仕事」と会見で明かしている。

偉大な兄弟子への感謝の気持ちを表すには、大関昇進しかない。「次こそ自分が目立つんだという強い意識を持ってやりたい」と闘志をむき出しに、高安は土俵に上がり続ける。