大電力と大型冷却装置を備えた米海軍「ズムウォルト級駆逐艦(DDG1000)」には、高性能の次世代レーザー兵器・SSLが搭載される

安倍政権が「敵基地反撃能力」として巡航ミサイル「トマホーク」や陸上配備型イージス「イージス・アショア」の導入を検討している。北朝鮮の脅威に乗じる形で、ミサイル防衛体制の強化を進めようとしているのだ。

しかし、これらの兵器の“売り主”であるアメリカは、反撃どころか、敵基地を無力化させる工作や兵器を開発していた。『武器輸出と日本企業』(角川新書)で日本の武器ビジネスの現場をレポートした東京新聞記者の望月衣塑子(いそこ)氏が、その内実に迫る!

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防衛省によると、北朝鮮は今年の3月以降、新型を含む11発のミサイル発射実験を行なったが、そのうち中距離弾道ミサイル「スカッドER」の4発は失敗に終わっている。その原因として軍事関係者の間で囁(ささや)かれているのが、米軍によるサイバー攻撃だ。

米『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、オバマ大統領は2014年初頭に、北朝鮮のミサイル計画を妨害するためのサイバー部隊の強化を国防総省に命じ、それは現トランプ政権にも引き継がれているという。

その一方で、米軍は大量破壊兵器をストップさせるマルウェア(システムを機能不全にさせる不正プログラム)を敵国の基地にばらまく作戦を、すでに展開している。

ロシアのセキュリティ大手「カスペルスキー研究所」の報告(15年2月)によればアメリカは、同盟国を含め、世界の兵器を無力化させる精鋭ハッカー集団を養成しているというのだ。

「イクエーション(方程式)グループ」とも呼ばれるこの集団は、アメリカの国家安全保障局(NSA)を後ろ盾とし、その高度な技術をもって世界30ヵ国にわたって通信、航空宇宙、軍事、メディア、銀行、イスラム過激派など、あらゆる組織にサイバー攻撃を仕掛けている。

“手渡し”で送り込まれたマルウェア

実際にこの集団が行なったとされる攻撃で、最も有名なのが、09~10年にかけて、イランのウラン濃縮用遠心分離機、およそ8400台を破壊した作戦だ。「スタックスネット」と呼ばれるマルウェアに感染したこの施設は制御不能となり、イランの核開発は数年遅れたとされている。

「実はこのマルウェアは“手渡し”というアナログな方法で送り込まれたものなんです」

そう話すのは、戦闘機開発を手がける欧米の大手軍事企業幹部のA氏だ。

「イランで開催された武器の展示会に、CIAが企業の職員を装い潜入し、アメリカで当時、流行していたゲームソフトをUSBメモリーに入れ、来場者に大量に無料配布したんです。でも、実はそのUSBにはスタックスネットが仕込まれていた。

そして展示会に参加していたイラン軍の関係者がUSBを核施設に持ち帰り、軍関連のパソコンに接続した結果、遠心分離機はマルウェアに感染、破壊されました。不特定多数に配る特典に見せかけ、最初からこの核施設を狙い撃ちにしていたわけです。

これは、敵国の兵器開発を阻止するためなら、アメリカは国境を越え、あらゆる手段を講じることを示す一例です」

後編⇒核兵器の無力化が可能に? アメリカ「敵基地無力化」作戦の全貌

(取材・文/望月衣塑子 写真/アフロ)