話題作!? 問題作!? 三十路半ばの塾講師、ラーメン屋店員、アルバイトの高校生、主婦…片想いの連鎖が止まらない!
ドラマ『バイプレイヤーズ』、映画『アズミ・ハルコは行方不明』など立て続けにヒットを飛ばす映画監督・松居大悟(まつい・だいご)が原作を担当し、コアなファンを持つ『奴隷区』のオオイシヒロトとタッグを組んだ漫画『恋と罰』――。
WEB漫画として反響を呼んだ問題作が待望の単行本化! そこで、ふたりの異色クリエイターが作品に込めた想いに対談で迫る――。
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―まずは今回、おふたりがタッグを組んだ経緯を教えてください。
松居 出版社の方から2013年に、「小説を書いてみませんか?」と声をかけていただいたんです。「書いてみます!」と快諾したはいいものの、1ページくらいしか書けなくて。もう、何をどうしてもムリで「すみません。できないかもしれません」って正直に言ったら、「何ならできますか? なんだったらやりたいですか?」と。
それで以前、オオイシさんと『ゲームするしかない君へ』って読み切り作品をやったことがあるんですけど、あれは面白かったなと。
オオイシ 『ゲームを――』が2011年ですね。その頃、松居さんはまだ映画を撮っていなかったし、僕もまだ代表作と呼べる作品がない時期でした。
松居 お互い、もがいてた時期ですよね。『ゲームを――』は、例えるならダスティ・ホフマンの『卒業』の花嫁を奪われた側の男の物語で。引きこもって、いろんな人に励まされたり、叱咤(しった)されてもひたすらゲームをし続ける男の話(笑)。
オオイシ 最後のページも見開きでゲームをしている絵で終わるというね(笑)。
松居 燻(くすぶ)ってた自分を主人公に投影してましたよね。その作品の記憶が強く残っていたんで、「あ、もう1回組んでやってみたいな」って。体温とか体臭みたいなものがオオイシさんの漫画にはあるんですよね。
オオイシ ふたりとも初タッグの時とは置かれた状況がかなり変化してたんで、もう1回やれるのは面白いなって、僕も思いましたね。
片想いしたことある人全員に読んでもらいたい
―そんな経緯があったんですね。松居さんは映画監督でもあるので、映像化を見据えて、まずは漫画からという計算があったのではと勘ぐってました(笑)。
松居 そんな計算高くないですね。もちろん、映像化の声がかかれば嬉しいですけど(笑)。ただ真逆というか、お互い「漫画でしかできないものを表現したいですね」って話をよくしてたんです。「漫画にしかできない表現ってなんだろう?」って。『恋と罰』は片想いがドンドン連なっていく話なんですけど、オオイシさんが主要な登場人物目線で描く時、「好きな人、興味ある人以外はシルエットで描くのはどうですか?」ってアイデアを出してくれて。「それは漫画でしか表現できない。いいですね!」って。
オオイシ 自分は恋焦がれる相手なのに、相手からしたらなんでもない。その他大勢と同じ、モブでしかないってことが読者に一発で伝わったら面白いなと思って。あ、この感じいいんじゃないかなって。
―物語は確かに片想いが連鎖しますが、どれも、かなりいびつですよね?
松居 当初は30代女子が20代男子に片想いして、20代男子が10代女子に、10代女子が40代男子にって設定だったんです。ただ、なんかこう健全すぎるなと。他人からしたら違和感だったり、反対されるような形がいいなと。10代女子を男子に変えて、40代男子を女性に変えたら、バーッと視界が開けたというか。
登場するのは極端な人たちばっかりなので、読んだ人は勇気をもらえるんじゃないかなって思います。だから、片想いしたことある人全員に読んでもらいたいです。
―松居さんの原作を漫画にするにあたって意識したことはありますか?
オオイシ 確かに最初は切ない片想いの話なんですけど、中盤からぶっ壊れ始める感じが、さすが松居さんだなと。ただ、気持ち悪いだけのキャラにはならないように意識しました。出てくるどのキャラも読者がどこかで「わかってしまうなあ」っていう部分が大事だと思ったんで。
タイミングが悪くてこういう風になってしまっただけで、元から変な人ではなかった。みんながみんな、ちょっとしたことでこうなり得るんだよって思えるようなバランスは気をつけました。
―主要登場人物のひとりに女装キャラがいますよね。あれは松居さんの性癖の投影でしょうか?
松居 ……完全に否定はできないんです。人って、開けていない扉に何が入っているかわかんないじゃないですか!? そういう意味では、女装はしたことはないですよ。でも、したらしたでハマってしまいそうな自分もいるから登場人物に投影したっていうのは正直ありますね。わかります!? そこにいったら戻ってこれなくなりそうな感じってあるじゃないですか? そういう時、僕いつも登場人物にさせるんです。それで1回、落ち着かせるというか(笑)。
恥ずかしい部分を全部、見せているんです…
―ということは、ローションプレーならぬペンキプレー的なマニアックなシーンもありますが、それも…。
松居 興奮すると思いません!? 興味はあるけど、手を出したらまずいなあと思うプレーのひとつですね(笑)。
オオイシ あのペンキプレーは、原作としていただいた文字の段階ならいいんですけど、絵にするとなると「室内でどうやったんだ?」「目は開けられるのか?」とか、どう描いていいか、かなり悩みましたねえ(笑)。
松居 僕は欲望というか、恥ずかしい部分を全部、オオイシさんに見せているんですけど、さらに詰問されるという…。
オオイシ 僕も松居さんのディープな壁を見せられて「ウワーッ! なんだこれは!」となってるんですけど、絵に落とし込まなきゃいけないんで「その恥ずかしい部分、もう少し見せて!」「ディティールまで見せて!」って迫るというね(笑)。
◆後編⇒『バイプレイヤーズ』で注目の若手監督が原作! “片想い”をテーマにした問題作『恋と罰』コミック化で語る創作の裏側
(取材・文/水野光博 撮影/村上庄吾)
●松居大悟(まつい・だいご) 1985年生まれ、映画監督、劇団ゴジゲン主宰。福岡県出身。監督作に『アフロ田中』『私たちのハァハァ』など。『アズミ・ハルコは行方不明』は第29回東京国際映画祭コンペティション部門出品。ドラマ『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』ではメイン監督・脚本を担当
●オオイシヒロト 1979年生まれ、漫画家。大阪府出身。代表作に『包帯クラブ』(原作:天童荒太)、『スナーク狩り』(原作:宮部みゆき)、『奴隷区 僕と23人の奴隷』(原作:岡田伸一)、『0恋~ゼロコイ/交わりたい僕等~』(原作:Q)、『ごくべん』、等多数。「コミックゼノン」2012年1月号にて短編『ゲームするしかない君へ』を原作・松居大悟との初タッグで発表
■『恋と罰』上下巻発売中! 発行:太田出版