政権と“刺し違える”覚悟で会見に臨んだとされる前川前次官だが、霞が関ではこれを援護する動きは皆無

官僚たちの“ヒラメ”ぶりがひどすぎる。

森友学園との交渉記録を「廃棄した」と開き直る財務省の局長はもとより、加計(かけ)学園スキャンダルでも、獣医学部の認可は「総理のご意向」と文科省に伝えたとされる内閣府の審議官が「そんな発言はしていない」とすっとぼける始末だ。

全国紙の政治部記者がこうため息をつく。

「明らかに政権の側に立ち、安倍首相をスキャンダルから守ろうとしている。でも憲法15条にあるように、公務員は『全体の奉仕者』なんです。なのに、常に上を見ているヒラメのように政権の顔色をうかがってばかりいる官僚が増えている。前川前文科事務次官がせっかく、『総理のご意向』と記した文書を本物と証言し、安倍政権下における行政のゆがみを正そうとしているのに、霞が関ではこれを援護する動きもさっぱりない。ゴマスリ官僚ばかりでは、公正な行政など期待できません」

どうしてこんなことになったのか? 某省の中堅キャリア官僚がこうつぶやく。

「稲田防衛相ですよ。彼女のヘタクソな筆字に完全にしてやられました」

朋チンがヒラメ官僚激増の原因? このキャリアによれば、官僚のヒラメ化が目立つようになったのは2014年からだという。

「この年の春に、国家公務員法が改正され、『内閣人事局』が設置されたんです。これにより、それまで官僚主導で決めていた各省庁の審議官級以上、約600名の人事を首相官邸が一元的に決定するようになった。こうなると、官僚はもう首相に逆らえません。嫌われると、出世できなくなってしまいますから。そのため、公平中立な行政をすることよりも、官邸の顔色をうかがう官僚が増殖したんです」

実はこのとき、法改正を主導したのが、当時、国家公務員制度担当大臣の朋チンだった。キャリア官僚が続ける。

「本来なら、『内閣人事局』ができたとき、霞が関はもっと警戒すべきでしたが、油断してしまったんです」

油断とは?

「ひとつは官邸主導とはいえ、多忙な首相が600以上の幹部ポストについて、適材適所を判別するなんてできっこない。こだわりのある一部のポストは首相が直接任命することになっても、人事の大枠は各省庁の提出した任用リストに沿って行なわれることになるはずと、霞が関側がタカをくくってしまったこと。

そしてもうひとつ、私たち官僚を油断させたのが、稲田さんのあのヘタな文字でした」

政府には新組織が発足する際、その看板を時の大臣が書くという習わしがある。そのため、内閣人事局の看板書きは当時、所管大臣だった朋チンが担当することになったのだ。

「人気マンガ『バガボンド』の題字も手がけた書家、吉川壽一(じゅいち)氏の指導を受けて書いた看板なのですが、稲田大臣は本人も認める悪筆。はっきり言って小学生よりヘタ。そのあまりのトホホぶりに、『こんな貧相な看板をぶら下げる組織に、大した仕事なんてできるはずがない』と、官僚たちがすっかり見くびってしまったんです」

あのヘタな文字は官界の抵抗を封じる朋チンの深謀だったのかもしれない。