『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが全世界で拡大するストリーミングサービスの背景について語る。
* * *
全世界でライブストリーミング市場が急拡大しています。英BBCの報道によると、アメリカでは18歳から34歳の若年層の6割以上がライブストリーミングを視聴し、かつ4割以上がなんらかの配信をしているそうです。また、中国のエンターテインメントライブストリーミング市場もすでに約7300億円にまで拡大。2021年までに、世界全体の市場規模が700億ドル(約8兆円)になるとの予測もあります。
その背景には、スマホのコモディティ化、通信インフラの整備、その他もろもろの技術革新により、C to Cの動画配信がかつてないほど“お手軽化”したという事情があります。僕は約20年前、脆弱(ぜいじゃく)なインフラとCPUをフル稼働させ、まるでヒマラヤ山脈の山頂同士を糸電話でつなぐような“綱渡りの動画配信”をして興奮していた記憶がありますが、まさに隔世の感があります。
当時は、ITリテラシーが異常に高いギーク層だけが動画配信を嗜(たしな)んでいました。しかし、今や猫も杓子も動画を手軽に生配信でき、世界中の人がそれをストレスなく視聴できる。これほどの「革命」は、しばしば混沌をつくり出します。プチ炎上くらいなら自己責任でいいと思いますが、10代のポルノ、ストーカー被害、自傷行為や自殺の実況など、あらゆる“負のプライバシー行為”が個人の承認欲求のタネになったり、時には収入源にもなる状況を「それも時代の進歩だ」と能天気に見過ごすことはできないでしょう。
そして、僕が特に恐れているのは、この“人類総配信時代”が世論や人々の意識を歪めていくことです。ユーザーに「場」を提供している新興のネット系メディア企業は、往々にして社会的・道義的責任について極めて無頓着だからです。
「自分たちはメディアではなく、あくまでもプラットフォームだ」
かつてフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOはそう説明しましたが、その後、“巨大メディア装置”に成長したフェイスブックで拡散された「フェイクニュース」が米大統領選などに大きな影響を及ぼし、現実の世界をねじ曲げてしまったのは周知のとおりです。しかも、おそらく今後力を持つ多くのライブストリーミング配信事業者は、フェイスブックよりもさらに無責任な振る舞いをするでしょう。