これまで最低限の結果を出してきたものの、その手腕には根強い疑問の声があるハリルホジッチ監督

いよいよ終盤戦に突入したロシアW杯最終予選。日本代表は自動出場圏内の2位以上をキープしているが、これまでの戦いぶりはシロート目に見ても結果オーライの色が濃く、盤石(ばんじゃく)ではなかった。

なかでも専門家の間で不安視されているのが、指揮官の手腕。確かに、今の時点で解任を論じることには違和感を覚えるかもしれない。しかし、日本サッカーの将来を見据えれば、決して“勇み足”ではない!?

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イラン(テヘラン)で行なわれるW杯最終予選のイラク戦が目前に迫っている。日本にとって、勝てば予選突破に限りなく近づく大一番。いやが上にも期待は高まる。ところが、「日本危うし」の予測をする向きが少なくないのだ。サッカージャーナリストの後藤健生(たけお)氏が語る。

「昨年10月に埼玉スタジアムで行なわれたホーム戦では、個々の選手を比べればフィジカルでもテクニックでも上回るイラクを相手に、日本は最悪の戦い方で臨んだのです。組織戦術はまるでなく、局面局面で1対1の勝負を挑んではボールを奪われ、完全にイラクに主導権を握られました。(後半ロスタイムの決勝点で)奇跡的に勝ち点3を取れこそしましたが、内容は明らかな負け試合でした」

なのに、今回のアウェー戦に向けた招集メンバーの陣容や、会見でのハリルホジッチ監督の発言から推察すると、どうやら同じ轍(てつ)を踏みそうなのだ。サッカージャーナリストの西部謙司氏が語る。

「監督の口から再三出たのが、『ボールを奪う』『デュエル(ボール際の争い)』『フィジカル』といったフレーズ。実際、招集されたのは、こうした面に強みを持つ選手がほとんどです。だとすれば、前回同様の戦いを仕掛けようとしていることは明らか。テヘランの荒れたピッチで、再びイラクの得意な形にお付き合いするのは相当に危険です」

この心配が杞憂(きゆう)に終わればいいが、なぜ指揮官は大苦戦したホーム戦と同じ戦術を繰り返そうとしているのか。

「いや、そもそもハリルホジッチは戦術というものを持っていません。どの国を相手にしても、判で押したように1対1の勝負をやらせているだけ。タイあたりとの試合なら、個の力で圧倒できるからそれでも大丈夫ですが、もう少し実力のある国を向こうに回すと、本来なら日本がきっちり勝ち切れる相手でも、どちらに転ぶかわからない展開になってしまう」(後藤氏)

そこには、日本サッカーが築き上げてきた伝統のかけらもないという。

「日本選手がフィジカル勝負をやったら、中東や欧州、南米の国には勝てない。だから1936年のベルリン五輪の頃から日本はずっと、よく走り、パスをテンポよくつないで集団で戦うスタイルを、築き上げてきたのです。そのせっかくの持ち味を捨て、ロングボール主体のぶつかり合いのサッカーをやらせる意味がわかりません」(後藤氏)

「ハリルホジッチはチームの実力を引き上げ、相手を圧倒して勝とうとはハナから考えていません。だから彼が監督でいる限り、日本の強みだったパスサッカーは錆(さ)びついていくでしょうね」(西部氏)

大一番で突然代表入りさせても…

さらに後藤氏は「合理性や長期的展望のなさは、代表選手選考においても見受けられる」と指摘する。

「今回のイラク戦には初招集の選手が多いのですが、起用される可能性があるのは宇賀神(うがじん)友弥(浦和)ぐらい。フレッシュな選手を入れたいのなら、2次予選の段階で呼んで、徐々にチームになじませておくべきなんです。それをこの大一番で突然代表入りさせても、まともな戦力になるはずがない」(後藤氏)

とはいえ、試合ごとの采配においては、ハリルホジッチの手腕にも見るべきところはあるようだ。

「例えば、3月のUAE戦でベテランの今野泰幸(G大阪)を抜擢(ばってき)し、見事に機能させたように、相手のストロングポイントを消し、最終的に勝利を手繰り寄せる用兵に関しては、いい仕事をしていると思います。結局、W杯予選は内容うんぬんより、“勝ってなんぼ”ですから」(西部氏)

「監督には、手持ちの駒をうまく組み合わせながら、ぱっとひらめいた采配で結果を出していくタイプと、選手育成や戦術の構築など、論理的にチームづくりをするのに長けたタイプに分かれますが、ハリルホジッチは完全に前者のタイプですね」(後藤氏)

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(撮影/ヤナガワゴーッ!)