ル・マンで初優勝を目指すドライバー、(左から)小林可夢偉、国本雄資、中嶋一貴

いよいよ今週末に迫った「ル・マン24時間レース」(日本時間17日22時~)。

悲願の初優勝を目指すトヨタの鍵を握る3人の日本人ドライバー。中嶋一貴(かずき)小林可夢偉(かむい)の元F1コンビと、ル・マン初挑戦となる昨年の全日本スーパーフォーミュラ王者、国本雄資(ゆうじ)が、渡仏直前に集結! 

ル・マン制覇に向けた熱い思いを語る!!

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■経験として必要なことだった

―「ル・マン24時間は最後まで何が起こるかわからない」といわれますが、まずは去年、それを一番つらい形で経験した中嶋選手に、あのときの悔しさと、どんな気持ちでこの一年を過ごしてきたか。そこから聞かせてください。

中嶋 そうですね。もちろん、ラスト3分でマシンが止まってしまったときや、レースが終わった直後は頭の中が空っぽで、悔しいっていうか、むなしいほうが大きかったです。

ただ、その一方で僕は当事者だから、周りで見ていた人たちよりも自分の身に起こったことを受け入れやすくもあったかなとは思います。

むしろ、ああいうことがあったからこそ、今年に向けて、より良い準備ができたと思っているし、今思えば自分にとってもチームにとってもあれはあれで経験として必要なことだったんじゃないかと。

小林 俺はあんな経験、絶対したくない。見てたほうも大ショックだったわ……。

―小林選手は、2013年のル・マンにGTクラスのフェラーリで出場しているとはいえ、総合優勝を狙えるLMP1クラスでの「ル・マン挑戦」って、ある意味、別世界ですよね。昨年、初挑戦で2位表彰台に上がっても、レース後は悔しさがあふれていたように見えました。

小林 結局、ル・マンって勝たなきゃ意味がないんだなっていうのはすごく感じたし、その意味では、2位でも3位でも4位でも5位でも、あまり変わらないんですよね。

だからこそ、あそこで勝つことの難しさっていうのも、去年、実感として経験できたんで。「じゃあ、勝つためにどうすればいいのか?」っていうことを、これまで以上に真剣に考えるようになった。去年の経験は、自分にとって大きかったなと思います。

どんな状況でもキッチリ対応できるようにすることが、24時間を制する鍵

「やっぱりル・マンって勝ちしか意味がないんだなというのは感じた」小林可夢偉

―そこで感じたル・マンの「大変さ」とは?

小林 去年は特にそうでしたけど、ともかく「ライバルがコケない」ってこと。24時間、ずっとハイレベルな接近戦を演じているから、レース中、ほぼほぼプレッシャーしかなかったし、そういう状況でレースをやることの難しさは、やっぱり実際に経験してみないとわからない。

だからこそ、今年にかける思いっていうのが大きいし、逆に言えば、去年経験したことや、その後のレースで学んだ分、理屈の上では今年は完璧にできるはずですよね。

ただし、それをル・マンの本番で「24時間、完璧にやれるか?」というのは別問題で、どんな状況でもキッチリ対応できるようにすることが、24時間を制する鍵じゃないかなと思いますね。

―国本選手は、去年の劇的な幕切れを、どこで、見ていたんですか?

国本 家で普通にテレビで見ていましたね。「ああ、トヨタが勝つなあ」と思っていたら、突然、一貴君のマシンが止まってて……。あのときは鳥肌が立つぐらい驚きました。

―自身もドライバーですから、そのつらさはすごくリアルに想像できますよね?

国本 というか、もう想像をはるかに超えていて。

小林 そもそも、あんなん、誰も想像もしたくないしな。

中嶋 実際に経験するのはもっといやだよ!(笑)

―その1年後、こうして国本選手自身がル・マン24時間の舞台に立つことになったわけですが。

国本 僕にとってはすべてが新しい挑戦なので、当然不安な部分もたくさんありますが、こうして「世界で戦える」のはすごく楽しみなことだし、そういうプレッシャーや不安も含めて、すべてを楽しんでいければいいなと思います。

―正式にル・マンへの出場が決まったときの気持ちは?

国本 2月か3月のテストが終わった後だったと思いますが、トヨタのドライバーとして、WEC(FIA世界耐久選手権)の最高峰カテゴリーであるLMP1クラスに、それも「ル・マンに出る」っていうのは、自分にとっての目標でした。ようやく、そのチャンスをつかむことができて、決まった瞬間はものすごくうれしかったですね。

これ以上ない準備はできている

■完璧な準備ができている

―トヨタのWEC活動は今季2連勝と好調です。新しいマシンの仕上がりも含めて、現時点での手応えは?

小林 準備としては、たぶんこれ以上ない準備はできていると思うので。本当に自信を持って戦えると思います。ル・マンってどんなに準備しても始まったらいろんなことが起きる。だから、そこで冷静に対応するための「余裕」がすごく大事なんですね。

だから、ドライバーもマシンも、ある程度の余裕を持って、勝てるような準備をしなくちゃいけない。今年のル・マンはそういう意味でほぼ完璧な準備ができているんじゃないかと思います。

中嶋 イタリアのモンツァ・サーキットでライバルのポルシェと走る機会がありましたけど。そこでのパフォーマンスを見る限り、少なくとも同じレベルでは戦えるところにいると感じました。

今年のマシンはドライバーが肌で進化を感じられるようなところがたくさんある。そういう意味では、可夢偉が言ったみたいに、理想としてはドライバーが余裕を持って走れる展開になればいいなと思っています。

―ライバルであるポルシェの進化も感じますか?

中嶋 正直、今季WECの2戦だけでは評価しづらいですけどね。ただ、実際にル・マンが始まってみないとわからない怖さはありますよね、ポルシェっていうのは。

―それがル・マンを通算18回も制しているポルシェの底知れぬ強さなんでしょうか。

小林 まぁ、ポルシェって言っただけで、女のコ、コロンっていきますからね。

―トヨタじゃだめですか……?

小林 いや、トヨタはレクサスでコロンっといきます。それをトヨタでもコロンっといかせるためのル・マンが、今年っていうことで。

―一方、国本選手は先日、WEC第2戦のスパで初めて実戦を経験したわけですが、手応えはどうでしたか?

国本 正直、初戦はすごく大変でしたね。それでも、最後まできちんと走り切るっていうことは、ル・マンに向けたいい準備になったし、自信もついたので、その点ではよかったと思います。

ただ、やっぱりもう少しパフォーマンスを上げたいのは、正直なところです。ル・マンは直前のテストもあるし、走行時間が多いので、そこでしっかりとサーキットに慣れて、最高のパフォーマンスを出したいと思います。

「全部用意して勝てる準備ができた上で運試しみたいなところがある」中嶋一貴

雄資がどうしてるかなっていうのは気にかけてます

「すべてが僕にとって新しい挑戦。不安も含めて楽しんでいきたい」国本雄資

―ところで、トヨタTS050ハイブリッドって、エンジン500馬力+モーター500馬力=1000馬力というモンスターマシンです。慣れるまでは大変なんじゃ?

国本 スーパーフォーミュラとか、スーパーGTの倍近いパワーがあるので、最初は驚きましたね。でも、乗ってて気持ちよかった。簡単に300キロオーバーいくんで。

―ここにいる先輩ふたりは、ルーキーの国本選手にいろいろと優しくアドバイスしてくれるんですか?

小林 そんなんしないですよ。教えるわけないじゃない。

中嶋 えっ、可夢偉がそう言い始めたら、オレ、なんて言えばいいの? じゃあ僕は普通に答えましょうか。

基本的に情報はシェアするようにしていますし、やっぱり雄資(国本選手)がどうしてるかなっていうのは気にかけてます。気づいたことや聞かれたことは、包み隠さず話すようにとは思ってますね。

―ここで、「本当は可夢偉さんも教えてくれてます」っていう、国本選手のフォローが入るんですよね。

中嶋 実際、可夢偉のほうが面倒見いいですよ。

国本 はい、ふたりとも聞いたらなんでも教えてくれるし、聞かなくてもいろいろと気にかけてくれるんで本当にありがたいです。あと、ヨーロッパへ行ったら一貴君がレンタカーを運転してくれるし、可夢偉君はお酒をおごってくれるし!(笑)

◆続編⇒悲願の初優勝ヘ! 3人の日本最強ドライバーが語るル・マンの難しさ

(構成/川喜田 研 撮影/村上宗一郎[ドライバー])

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