「ウォーターゲート事件の時代から今に至るまで、民主主義は時にストーンのような“陰の存在”を生み出す」と語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンがウォーターゲート事件とトランプ政権の疑惑をつなぐ“米政界の黒幕”について語る。

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米トランプ政権とロシアとの関係をめぐる疑惑は、1970年代にニクソン大統領が任期途中で辞任した政治スキャンダルの経緯との類似性から“第2のウォーターゲート事件”といわれつつあります。

その結末は事態の推移を見守るしかありませんが、40年以上の時を超えて、第1、第2の双方の“事件”に関わっているロジャー・ストーンという人物をご存じでしょうか。

自信満々なフィクサー然とした態度。ボディビルで鍛えた筋肉が隆起する背中には、ニクソンの似顔絵のタトゥー…。最近では保守系メディアに登場する“陰謀論オヤジ”という扱いをされていますが、52年生まれのストーンは10代の頃から米政界で暗躍し続ける“選挙屋”です。ウォーターゲート事件では口止め料の“配布役”を務め、起訴された当時はまだ20歳の若者でした。

その後は政治家向けのコンサルティング組織を設立し、80年の大統領選でレーガンの勝利に大きく貢献。政権発足後は「金を払えばレーガンに話を通す」と吹聴するなど、ロビイストとして君臨します(ストーンが若き日のトランプと出会ったのもこの頃で、両者を引き合わせたのは保守政界の大物フィクサー、“赤狩り弁護士”ロイ・コーンでした)。

ストーンの特徴は、「どれだけ汚いことをしても、選挙は当選した側の勝ち」という徹底した方針です。テレビCMなどで対立候補に対する虚実ない交ぜのネガティブキャンペーンを大々的に展開したのも、彼が初めてのようです。その意味では、ストーンは昨今のフェイクニュースの生みの親ともいえるでしょう。

90年代に下半身スキャンダルで表舞台から姿を消したストーンですが、2000年の大統領選では共和党のブッシュ・ジュニアの当選を“ウルトラC”で後押しします。

トランプは当て馬として立候補した

民主党の人気者アル・ゴアと戦う共和党にとって、最大の懸念は右派少数政党である米改革党の支持票を最終的にブッシュが得られるかどうかでした。そこでストーンは、まず共和党員だったパット・ブキャナンを焚(た)きつけて改革党から立候補させます。そして、ブキャナンが支持を広げたタイミングで、今度は同じ改革党から“ライバル候補”としてトランプを出馬させたのです(これがトランプの初の立候補でした)。

トランプはマスコミの前で徹底的にブキャナンをこき下ろし、さんざん場を荒らすと、あっさりと出馬を撤回します。つまり、最初から当選する気などなく、ただ改革党そのものを“茶番化”するための当て馬だったのです。結果、改革党に幻滅した人々の票はブッシュへと流れ、共和党は政権奪還に成功しました。

昨年の大統領選でもストーンは一時、トランプ陣営入りしていました。途中でクビを言い渡され、表向きは“下野”しましたが、その後も実際にはトランプの政治活動をバックアップしているとみられ、ロシアとの関係についても彼が「一枚かんでいる」と強く疑われています。

ウォーターゲート事件の時代から今に至るまで、民主主義は時にストーンのような“陰の存在”を生み出す。そして民主主義であるからこそ、人々はストーンのような“汚い政治”に対する免疫を持てない。これはいくら社会が進歩しても残る、人類の永遠の課題なのかもしれません。

●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム~あなたの時間~』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など