選抜大会で甲子園初マウンドながら大阪の強豪・履正社を相手に力投した櫻井。プロ注目の左腕が、清宮を擁する早実を退けて西東京代表をつかむか

普通に考えたら、無理だと思います――。私は、早稲田実業3年の清宮幸太郎が「今夏の甲子園に出場できるか」と聞かれるたびに、そう答えてきた。

ただ、その後にこうつけ加えるようにしている。「2年前もそう思っていたら甲子園に出られたので、もはや予測不能です」と。

清宮を擁していても、早実が西東京代表として甲子園に出場するのは厳しいとみる識者は多い。その理由は、誰もが認める「投手力の弱さ」と、もうひとつ。ライバル校にレベルの高い選手たちがひしめいていることにある。

その最右翼は、日大三3年の櫻井周斗だ。昨秋の東京都大会決勝戦で、清宮から5打席連続三振を奪った衝撃のシーンは記憶に新しい。対戦した打者が「消える」と証言するスライダーで清宮に打撃らしい打撃をさせなかった。

この日以来、清宮の口からは「体を開かないように」という言葉を聞くことが増えた。打者の手元で鋭く曲がる櫻井のスライダーが脳裏にあるのだろう。今の清宮はボールを長く見て強く叩けるようになり、センターからレフト方向にかけてのホームランが増えている。

6月19日時点で高校通算103本塁打を放つまでに進化した背景には、櫻井の存在があるのは間違いない。今春の都大会決勝戦では櫻井が温存されただけに、今夏にふたりの再戦が実現すれば大きな話題になるはずだ。

早実と日大三が対戦するには、お互いが決勝戦まで勝ち上がらなければならない。そして6月17日の組み合わせ抽選の結果、日大三にとっては、準々決勝で当たる可能性が高い東海大菅生戦が大きなヤマ場になりそうだ。両校は春の都大会4回戦でも対戦しており、このときは4-3で日大三が辛勝している。

東海大菅生の特徴は、5人のエース候補をそろえる投手陣。3年の小玉佳吾と松本健吾、2年の戸田懐生(なつき)は最速140キロを超える速球派。さらに、安定感のある3年の実戦派右腕・山内大輔に、将来性の高い2年生左腕・中尾剛がいる。

5人ともゲームメイク力があり、試合に応じて調子のいい投手を投入できるのは強みだ。また、東海大菅生は過去3年連続で西東京大会の決勝で敗れており、今夏にかける思いは強い。日大三を破って決勝に進出するだけの力は十分に持っている。

対する第1シードの早実は、準々決勝までは有力校と当たらないが、準決勝で対戦する可能性が高い八王子には因縁がある。過去2年連続で準々決勝で対戦し、昨夏は甲子園出場の道を断たれているのだ。しかも、昨夏の二枚看板だった早乙女大輝、米原大地は今年3年生として残っている。

特に本格派スリークオーターの米原は、最速147キロを計測するまでに成長。スライダーも打者の手元で曲がるようにグレードアップしている。チームとしても「ありんこ軍団」のキャッチフレーズを掲げ、機動力を生かして昨夏に甲子園初出場を遂げるなど、勢いも十分だ。

これらの難敵を退けるのは容易ではないが、冒頭で述べた通り、早実には予測不能の力がある。2年前も、ルーキーだった清宮の活躍と、「エース不在」といわれながら大会中に成長した投手陣の踏んばりで聖地への切符をつかんだ。今夏はどんな奇跡を起こすのか? 7月9日から始まる西東京大会から目が離せない。

(取材・文/菊地高弘 撮影/大友良行)