実力派人気漫才コンビ・千鳥 (左/大悟 右/ノブ)

2014年1月10日のOA開始以来、当初は半年で終了予定が3年を越えて続く人気番組がある。テレビ埼玉で放送中の『いろはに千鳥』(毎週火曜23:00~23:30 ※地域によって異なる)だ。

実力派人気漫才コンビ・千鳥(大悟・ノブ)が関東エリアを巡り、地元の隠れた人気スポットやグルメを紹介する“街ブラ”系トークバラエティなのだが、実は視聴者にウケているのはお出かけスポットでもグルメ情報でもない。

なんと、臆面もなくグチを口にする千鳥の姿が楽しまれているのだ。「疲れた」「しんどい」の文句は日常茶飯事。飯を食っては不満を言い、一般人を手荒くイジるーー従来のTV番組のあるべき姿はなく、ただただゆるい空気感が流れている。実はその背景に、超低予算ゆえ、1日に8本もまとめ撮りしているという裏事情が!

そんな、とんでもない現場とは一体どんなものなのか? 12本目の番組DVD発売を機に、ご当人たちに伺ってみた!

-最初は1クールだけの予定が、なんとこの春からシーズン7に突入したそうで…。

ノブ もう7になったんですか。じゃあ一応『ウォーキング・デッド』(人々がゾンビとなっていく世界の終末を描いたアメリカの大人気ドラマ)と同じ歩みですね。僕らも8本目は顔がゾンビみたいになってますし(笑)。

-まさかの8本撮りって、1日のスケジュールはどうなってるんですか?

ノブ 大体、朝6時か7時に集合して、夜は12時か1時に終わる感じですね。

-決まった休憩時間はあるんですか?

大悟 移動がずっとロケバスなので、一応それが休憩みたいなものですかね。寝たりもするんですけど、もうすることなくなってきて、変な動画を見たりしてますね。暴走族の集会の動画とか。

-8本撮りを乗り切るコツは? 絶対に負けたくないライバルを思い浮かべるとか…?

大悟 そもそもまず乗り切れてないですしね、8本も(笑)。

-乗り切れてないんですかっ(笑)

ノブ 大体、3本ぐらいで完全燃焼してるんですよ。で、「えっ、こっから5本あるんや」って思ったらグッと心労がくるんで、4本目ぐらいの折り返しが一番キツイかもしれませんね。6、7、8本目とかはもう「OK、OK、時間さえ過ぎればギャラが入るから」と、目だけ開けとけば帰してくれるぐらいのモチベーションですね。

あとは本番中に文句を言うことでストレスを発散したりとかですか(笑)。でもそういう回のほうが面白いっていう話も聞くんですよ。下手したら一般人よりもタレントのほうがしんどいんじゃないかと思わせてるっていう、視聴者の心のオアシス的な存在ですかね(笑)。「こんなにツラい人たちがいるんだったら私はまだ大丈夫」って。

「なんかもう記憶がなくなるんですよ(笑)」

-どんなタレントですか(笑)! では、一番ツラかったロケは?

ノブ この番組は激辛を食べるとか危険なロケはないんですけど、何がキツイって、スタッフがなんの準備もしてない時があるんですよ(笑)。その町で撮らないといけないのにネタが一切ないっていう。ちょっとした滑り台があるだけの小さな公園で1本撮ってくれって言われても、ふたりでムチャ振りし合うしかないんですよね。

じゃあ、おまえ、面白い顔してとか、喧嘩し合うとか(笑)。5分ぐらいでもう何もやることなくなって、ただADと一緒に滑り台を滑るっていう。そういうほうがツラいですね。

大悟 なんかもう記憶がなくなるんですよ(笑)。ホンマに「今朝、何撮ったっけ?」ってわかんなくなるぐらいで。7、8本も撮るのにいつもなんの準備もしてないんで…。収録して編集で落とすところって、普通の番組なら絶対にあるんですけど、逆にこの番組はその本来は放送しない部分だけで成り立っている番組ですね。

だから、普通の番組で見られない顔というか…たぶん、ごはん屋さんに行ってちゃんと「おいしい」なんてひと言も言ってないんじゃないですか。「食えるか、こんなもん!」て言うとる部分を普通に流してるんで。

-これまでのTVでは観ることができない部分が放送され、そのゆるさが逆にとてもウケていると。そこで面白さの秘訣みたいなのってあります?

大悟 失礼な言い方ですが、あんまりいいものを作ろうとしないことですね(笑)。気負ってたら8本もできないと思うので、普段通り、楽屋で流して漫才1回合わせてるような感じで、本番だと思わないこと(笑)。そのほうが逆にコンビのいいところが出ると思います。

-なるほど(笑)。では反対に、楽しくてまた行きたいぐらいのスポットは?

ノブ 埼玉って「オートパーラー」がやけに多いんですよ。国道沿いでいろんな自動販売機とかが並んでて、ゲーセンもあって、昔のゲームが置いてあったり。そこに謎のピンボールみたいなゲームがあって、パチンコ玉が枠に入ったら景品もらえるんですよ。奥からおばちゃんが出てきて景品として財布くれたんですけど、その見た目が普通の革財布なのに、世界一軽かったんです。もう枯れ葉ぐらい軽くて。その絶妙さにめちゃくちゃ笑ったことはありましたね。

あと、2度と行きたくはないですけど「龍ケ谷ドリーム王国」っていう遊園地。謎のおじさんがひとりで手作りしてるんですけど、そこのアトラクションは全部面白かったですね。賞味期限が切れた醤油を渡されて、4m先の木に手描きしてある的(まと)にプシューって当てるだけとか。色ついた水とかでもいいし、醤油である必要が全くないんですけど(笑)。

-全く理解できませんが(苦笑)…個人で遊園地を手作りって、豪快なんですね!

ノブ 目玉のアトラクションは「ハーレーライド」っていうんですけど、1回500円なんですよ。おじさんの庭にハーレーが停まってて、それにまたがって、おじさんと一緒にドライブできるのかと思ったら、ブォーンって1回エンジンかけられるだけなんです(笑)。しかも音楽が流れるんですけど、それがZARDで、しかも『負けないで』とかアップな曲じゃなくて『揺れる想い』とか全然バイクのイメージもない曲で選曲の意味もわからんし。

大悟 そういうお笑い的な見方で行けば、その遊園地は面白いと思うんですよ。でも普通にだったら「ドイツ村」やったかな? ちゃんとした遊園地が他であって…。

ノブ 「東京ドイツ村」でしょ、千葉にあるのに(笑)。

-ドイツでも東京でもない!(笑)

大悟 なんのためにそんな名前にしたんかはわからんけど、そこはすっごくお客さんの数がいい。何も並ばないで乗れるし。あれやったら日曜とか行っても混んでもなく、楽しい感じなんじゃないかな(笑)。家族で行ったりするには普通にベスト。

「ロケ中に死ぬんじゃないか…?」

-いろんな人と出会ったと思うんですけど、忘れられない人との出会いはありますか?

大悟 元警察官かSWATみたいなのに入ってて特殊訓練を受けた人がいて、防犯グッズを売ったり護身術も教えている店があって。もう顔を見た瞬間に結構“ヤバイ”んですよね。完全に強いのわかるみたいな(笑)。その人とトーク中に僕が冗談で飛びかかったんですよ、勝てるかどうか。ほんなら、ぐっと耳を持たれて下に押さえつけられたんですけど、それが本気すぎて僕の耳、ちょっとちぎれたんですよ(笑)。

ノブ バリバリーって音がして(笑)。

-ゆるいロケなのに、急に緊張感高まりますね(笑)。

大悟 あの人はたぶん日本一強いんじゃないですか(笑)。

-でも、その後もきっとロケは続いたんですよね?

大悟 そうですね。それは6本目ぐらいだったけど、特に「やめましょう」とかもなく、耳から血ぃ流してティッシュで拭きながら(笑)、普通にトークしてましたね。

-ははっ、もう笑うしかないですね!

大悟 そんなことあっても、実はロケ自体は楽しいんですよ。俺が危機感を感じるのは、朝が早いのと夜が遅いことですよ。前日深酒すると「もしかしたら、ロケ中に死ぬんじゃないか…?」って(笑)。

-深酒しないでください(笑)! では、この番組を続ける理由はなんですか?

ノブ この番組のファンですっていうディレクターさんもいたりして。そういう人が別番組で持ってきてくれるロケは「どんどんあんな感じでやってください」ってフリーになっていることが多くって。俺らからしたら、一番それが困るんやけど(笑)。でも、そういうありがたい側面もあるんですよね。

-業界内視聴率も高そうですしね。制作陣にここだけは変えてほしいという要求は?

ノブ まあ、せめて4本ぐらいにしてほしいですね(笑)。

大悟 僕らはね、不満があったら番組上で文句も言えるけど、スタッフさんはストレスのやり場がないじゃないですか! 例えば、ホンマに腹ペコになってて、その怒りで僕らを睨(にら)みつけてくるんですよ(笑)。だからせめてね、お昼は弁当じゃなくて、スタッフもみんなで埼玉のうまい飯を食べてっていうのがあってもいいんじゃないですかね。

-確かに、スタッフにとっても8本撮りはきついし、技術さんのギャラも本数じゃなくて、1日分でしょうから…本当に大変ですね。

ノブ でも変態ディレクターがいるから変わらないでしょうね。演出家の岩津という男がいるんですけど、この男がお笑いにしか興味ないんです。メシ食ってるとこも見たことないんですよ。そういう人間的な活動に全く興味がなくて、もうお笑いだけ。8本目ともなるとこの人だけがゲラゲラ笑ってるんですよ、誰も笑ってないのに。もうサイコですね。

-サイコーじゃなくてサイコ?(笑) この番組はそういう危ないディレクターにも支えられていたと(笑)。では最後に、今後の抱負は?

ノブ 放送地域が増えたら一番嬉しいですね。この番組だったら埼玉の人じゃなくても楽しく観られると思うんですよ。特に「あそこに行きたいな」っていう情報もないので(笑)。

大悟 そうですね、それが一番ですよね。あと、シーズン7とか言ってるけど、それはなんかダサイでしょう。全然終わってもないのにテレビ埼玉が言いたいだけなんですよ(笑)。

(取材・文/明知真理子 撮影/松井秀樹)

千鳥(ちどり)2000年7月結成、大悟とノブによる漫才コンビ。岡山弁と関西弁の入り交じる独特の漫才スタイルは同業者からの評価も高く、M-1グランプリには9年連続決勝進出記録を保持。関東での初の冠番組『いろはに千鳥』のDVD第10、11、12弾を5月31日に3巻同時発売(各3600円+税)。