懐かしきエロ本自販機は、今も田舎の片隅に残る

DVDやインターネットの普及により、衰退している成人向け雑誌。特に「今だにあったのか!?」と驚くのが『エロ本自販機』だ。

その名の通り、いわゆるエロ本を売っている自動販売機だが、20代以下の読者には知らない人もいるのではないだろうか。そんな中、上梓されたのが『全国版 あの日のエロ本自販機探訪記』だ。

本書では今なお全国各地に現存する350以上のエロ本自販機を紹介。さらに、その歴史や業者のインタビューまで掲載した320ページにも及ぶ大作だ。

著者の黒沢哲哉氏は、昭和の名残(なごり)であるそのレトロな自販機をこれだけ探し出せたのは「今だけだったはず」と振り返る。

「エロ本自販機自体は規制され、すでに存在していない地域もあります。もう増えることはなく、今、生き残っているものもどんどんなくなっていきます。ネットが発達したからこそ探し出せたんだと思います。ちょうどその交差点が今だったと思うんですよ。もう少し前でも後でも、これだけの数は見つからなかったはずです」

黒沢氏はこれらほぼ全てをネットの情報で、特にそのほとんどをグーグルマップで調べたという。その存在をネットで調べ、ストリートビューで道一本一本を少しずつ進んで確認。もしくは、この辺ならとあたりをつけ、同じ作業を繰り返す。ネットのサービスがこれだけ発展したからできたことだ。

「現地の人に聞くことがあるんですけど、それで見つかった自販機は1台もないんですよ。ガセなのか、昔の記憶なのか。そもそも車で素通りしただけではわからないものですからね。足で探していたら絶対見つからない」

「素通りしただけでは見つからない」とはどういうことなのか…? それはエロ本自販機が想像以上に特殊なものだからだ。

「まず自販機が『ビデオ・DVD』などの看板が貼ってあるトタン小屋のようなところにあるんですよ。それが道端にポツンとあるだけなので、普通に走らせているだけだと『何かあったな』くらいにしか気づかないんです」

広い駐車場でもあれば、まだわかりやすい。しかし例えば、農地のそばにあると、素人目には農機具を入れておく納屋にしか見えないこともある。ただ、それもまだ初級編だ。それ以上に困難なことは多々あるんだそう。

「小屋がまともに建ってるならいいほうで、屋根が落ちていたり、崩れかかっている廃墟みたいなものも普通にあります。看板自体ない場合もありますし。それから道端といっても、開けておらず草木が生い茂って一方の道からは見えないなんてこともありますから」

建物が崩壊し、廃墟のように見えるが、中には自販機が

それでもこれだけ探し出すと自販機小屋がどこにあるのか、ある程度パターンを発見したという。

「ひとつは街の終わりですね。幹線道路から枝状に延びて他の幹線道路に続く道にあるんですよ。業者がここのためだけに200キロ往復するのは効率悪いなど、配送ルートを予測すると分布図が見えてくるんです」

他には「車の通りは頻繁(ひんぱん)なのに、一般的な店は営業しにくい場所」だ。火葬場や清掃工場などがそれにあたる。また、崖下や傾斜地なども定番だとか。

「エロ本自販機は実は弱者なんですよ。設置してあるのは、山の中腹や川の側など災害に弱い場所ばかり。逆にいえば、今はもうそうしたところにしか置けないということなんです。街中に昔は堂々とあったのに…」

自販機はすごく饒舌、誰かが語りかけてきている

1975年頃に登場したエロ本自販機の最盛期は1980年代前半、2度目のブームの時だ。全国で2万5千台の自販機が稼働。普通の商店街の端などに設置され、生活圏の中にあった。それが今や規制やユーザーの環境変化などで絶滅寸前の域に達してしまったのだ。

そもそも黒沢氏がこれを探すようになったのは、つい3年半ほど前。当時を懐かしく思い、趣味のドライブがてら探していたそう。当初はあくまで趣味であり、関東近辺だけだったが、全国的にまとまった情報がなかったため、トータル400ヵ所ものエロ本自販機を探すこととなった。

当初の意識としては、ただ「懐かしい自販機」だったが、徐々にその意識は変わっていったという。

鋼鉄で作られた自販機小屋。サビつき風格を感じる

「ひとつひとつが、ここにだけしかないものなんですよね。普通はトタンやブリキの小屋なんですけど、なぜか厚さ2ミリくらいの鋼鉄でできているものがあったり、草木に埋もれた状態のものだったり。そういう今の有り様のすごさをまざまざと感じましたよね。

どれも、きっと新装開店した時はきれいだったはずなんですよ。そういう意味で、『懐かしい自販機』としてスタートしたけど、そうでなく『今ある自販機って小屋も含めて、こんなにすごいですよ、やばいですよ』っていうのを伝えたくなったんです」

こっそり営業するエロ本自販機は利用者と業者の交流の場だった

そして、そこに愛着も生まれた。

「手作り感とか人間の温(ぬく)もりがまだ残ってるんですよ。『プロのプライドを賭けて100%満足させます!』とか『秘密の商品ですので他言無用です』とかポスターが貼ってあったり、雑な人は自販機に直接書き込んだり。ユーザーが希望を書いた落書きに対して『わかりました』と業者が書いたり。自販機はすごく饒舌(じょうぜつ)。そういうので溢(あふ)れていて、誰かが語りかけてきている」

ユーザーも業者も姿を現すことはほとんどないが、その空間にはコミュニケーションのようなものがあり、「エロ本自販機」には確かに人が存在しているのだ。

●後編では「エロ本自販機」を巡る人々と存続危機について、さらに黒沢氏が明かす。「迫害された“昭和の遺産”…消えゆくエロ本自販機『なくなって初めて気付く価値がある』」

 

(取材・文/鯨井隆正)

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