航海作家、船旅ジャーナリストのカナマルさん

シニア層に人気が高いという、豪華クルーズ船の旅。死ぬまでにゴージャスに世界一周してみたい気もするが、もちろん費用はプレミアムで、とても庶民には手の届かない夢だ。

では、船旅を楽しむことはできないかといえば、さにあらず。フェリーという手がある。しかし、昭和世代で子供の頃に乗った経験がある人などは、こんな思いがあるはずだ。

長時間、船の中にいるしかないので退屈!食事も簡単なものしかなくて、美味しくない!何よりも船酔いがイヤ!

確かにフェリーは元々、物流がメイン。乗客の快適性などはそれほど考えられていなかった。しかし、それも昔の話だと語るのは、フェリーで日本一周航路を数え切れないほど体験しているのはもちろん、世界の船旅を知る男、カナマルトモヨシさんだ。

そこで航海作家、船旅ジャーナリストという肩書きを持つカナマルさんが船旅の魅力や船内での楽しみ方を語った前編に引き続き、この後編ではオススメの航路までご指南いただいた。

●船旅マイスターのオススメ航路はコレ!

-いろいろな楽しみ方ができるのはわかってきたんですが、最初の一歩を踏み出すのは勇気がいります。オススメの航路を教えていただけますか。

カナマル 船酔いが不安なビギナーにオススメなのは、大阪や神戸を出て、北九州や大分に到着する航路ですね。なぜかというと、瀬戸内海は揺れが少ないんですよ。よっぽどの荒天じゃない限り、大きく揺れることはありません。また漁船も多く、安全面への配慮からゆっくり走るので、余計に揺れません。

-たくさんの島々の中を進むフェリー…見どころも多そうですね。

カナマル それもオススメする理由です。船旅ならではの楽しみ方として、"橋を下から見る"というのがあるんです。飛行機ははるか上空からだし、電車やクルマは走っているから橋は見れない。船だけが間近に、それも真下から瀬戸大橋なんかを見れちゃう。夜景もきれいですね。神戸周辺もそうだし、下関や北九州あたりはかなり陸に近いところを通過するのでよく見えます。

-これからの季節を楽しむということでは、北海道便も魅力的ですね。

カナマル この夏、最もアツいのが北海道なんです。というのも今年、4隻も新造船が登場するんですよ。まずは日本海航路になりますが、新日本海フェリーという船会社の"らべんだあ"と"あざれあ"。これは新潟と苫小牧、新潟と小樽を結んでいます。東京からだと、新潟観光してから出かけるという手もありますね。

-あとの2隻は商船三井の"さんふらわあ"ですか。

カナマル そうです。大洗と苫小牧を結ぶ航路に2隻の新しい"さんふらわあ"が登場します。

-もう乗られたのですか?

カナマル はい。今回の新造船は個室が増えたんですね。リーズナブルな"コンフォート"というランクは、言ってみればカプセルホテルのようなイメージ。コンパートメントに分かれていて、TVもあれば洋服掛けもある。プライバシーも守られた快適な空間でした。とはいえ、僕はそこにじっとしているわけじゃないですけどね(笑)

-フェリーというより、ほぼクルーズ船のようですね!

カナマル ドレスコードがあって、スケジュールが決まっているのがクルーズ船。Tシャツとサンダルで過ごせて、自分で予定を組み立てられるのがフェリーだと、いつも僕はそう説明しています。例えば、北海道航路でいえば、行きは大洗から苫小牧に向かい、帰りは小樽から新潟に帰ったっていい。フェリーはほぼ毎日出航していますから自由に予定を立てられる。そういうところも大きな魅力だと思うんですよね。

新日本海フェリー/ハイクラスの客室

贅沢すぎるロシアへの旅も…

-他にオススメはありますか。

カナマル 時間がある人なら、ということになりますが…来年、ロシアでW杯サッカーがありますよね? 日本から船で観に行くというのはどうでしょう? 鳥取の境港を出て韓国を経由し、ロシアのウラジオストクにいく航路があります。そのウラジオストクの港に隣接しているのがシベリア特急の駅なんです。つまり、それに乗ればモスクワまで行けちゃう。陸路でヨーロッパに行く、一番手頃なルートかもしれません。

-でも、時間はかかりそうですね。

カナマル 鳥取からウラジオストクまでが2泊3日。そこからモスクワまでが電車で1週間というところでしょうか。行くだけで10日ですね。かなり贅沢な旅だと思います。

-その贅沢さが、飛行機や新幹線にはないものなんでしょうね。

カナマル 閉ざされた空間ではありますけど、飛行機や列車に比べれば、船内を自由に歩けますしね。映画館やゲームコーナーもあれば、焼きたてパンが食べられるカフェのあるフェリーもあります。そして何より、船内での過ごし方を自分で決められる自由がある。

以前はフェリーというと、物流メインのイメージがあったと思います。でも、最近は船会社も敷居を下げて、単なる移動手段ではなく一種、エンターテイメント空間としてのフェリーを提案しています。是非、船旅を楽しんでほしいものですね。

▼ おすすめルート

<1>新日本海フェリー新潟から北海道ルート。今年、2隻の新造船「らべんだあ」と「あぜりあ」が就航。https://www.snf.jp/

<2>商船三井大洗から北海道ルート。今年、2隻の新造船「さんふらわあ」が就航。http://www.sunflower.co.jp/ferry/index.shtml

<3> 商船三井「さんふらわあ」で、大阪から別府、神戸から大分を結ぶ。http://www.ferry-sunflower.co.jp/

<4>名門大洋フェリー展望レストランでバイキングを楽しみながら、大阪と新門司を結ぶ。http://www.cityline.co.jp/

<5>DBSクルーズフェリー鳥取県境港とロシア・ウラジオストクを結ぶ。http://www.pref.tottori.lg.jp/116802.htm

(取材・文/長嶋浩巳)

カナマルトモヨシ航海作家、船旅ジャーナリスト。学生時代に神戸から上海への船旅を経験して、その魅力にはまる。91年、船でサハリンを訪れた際のレポート「北緯47度の忘れ物」で徳間文庫10周年ノンフィクション大賞受賞。クルーズ記者会会員。