「不断の努力によって夢は叶えられるということを、人生をもって証明するつもりです」と語る前田裕二氏

インターネットの世界を主戦場にする、SHOWROOM株式会社

カメラのついたスマホやPCさえあれば、誰でも生配信ができるというインターネット上の“仮想ライブ空間”を提供する。視聴者は、配信者と直接コメントのやりとりができるほか、ヴァーチャルギフトと呼ばれる有料のアイテムで支援することができる。

いまだ30歳にして、この会社を率いる前田裕二氏。この事業を立ち上げから数年で日本一のライブ配信サービスにまで育て上げた若き起業家が、前編記事に続き、途方もない世界規模の“夢”を語った。

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―子供の頃の弾き語り体験がSHOWROOMにつながっているように、前田さんのビジネス手法は、前田さんの人柄や世界観に貫かれていますね。そこで聞きたいのですが、前田さんは自分のことをどんな人間だと思っていますか?

前田 うーん、これは人に説明するのがすごく難しいんですけど……。ごく直感的な人間ですね。そもそもSHOWROOMのようなヴァーチャルギフティングの市場が日本にあると思ったのも、直感による導きが大きいです。ただ難しいのが、直感だけでは人は巻き込めない、ということ。人を動かすためには、情熱をベースにしつつも、誰もが理解できる理屈も合わせて考えて、論理的に説明することが求められる。でも自分は、昔から直感で「これだ」と思ったことが正解だったということが非常に多いんですよね。

例えば、学生時代は日々のドル円レートを予想する授業でぶっちぎりの1位だったんですが、その頃よくやっていたのが“目をつぶって思い浮かんだ数字を信じる”というやり方(笑)。こんなこと言うと、「こいつ急にスピリチュアルなことを言いだしたな」と思われるかもしれないんですけど…(笑)。

―その直感力には理由があるんでしょうか?

前田 あると思っています。まず、株というものは必ず結果が出るので、自分の仮説が正しかったかどうか毎日検証できる。僕は証券会社に勤めていた頃、何千社という会社のビジネスモデルと収益、株価の動きを見ていたので、「このビジネスには将来性がありそうだ」という予測が超高速で立てられる。

それ以前に、子供の頃から自分のすべての行動に関して「こう動いたらどういう結果になるか」ということを徹底的に仮説検証してきたので、嗅覚が発達してるんだと思います。つまり、直感力といっても、後天的に身につけたものなんですね。

―この本(『人生の勝算』)の中でも「鉱脈を見極めることが重要」と書かれていますが、日々、その見極める力を磨いているわけですね。

前田 そうです。そして、見極めたら後は徹底的にやることが大切。SHOWROOMで話題になっている大西桃香さんは、まさにそのふたつを実践している好例だと思います。

―毎朝5時半から配信し、“朝5時半の女”としてSHOWROOM内で断トツの人気を得ている、AKB48チーム8の大西桃香さんですね。

前田 はい。普通、早朝なんて誰も見に来ない時間帯だし、そんな早くから配信するメンバーなんていなかったんですけど、彼女は「ほかのコがやってないからこそ話題になる」と気づいたんでしょうね。それが鉱脈の見極め。そして、一度やると決めたらやり切る。彼女の存在はうちの社内でも早々に話題になったんですけど、たまに遅刻して泣いたりするところもまたカワイイんですよね(笑)。

―大西さんは、「これは努力じゃない。毎朝やれば、ファンの方が必ず来てくれるから楽しいんだ」と言っていました。

前田 そこがすごいですよね。僕は以前、秋元康さんにこう言われたことがあるんです。「前田くんはすごくまじめだけど、エンターテインメントは送り手が楽しまなきゃダメだ」と。そういう意味では、大西さんは僕より先を行ってますね。

世界一への道遠し。されど、勝算あり

■世界一への道遠し。されど、勝算あり

―前田さんが仕事をする上での楽しみってなんですか?

前田 今は、大西さんのようにSHOWROOMを通じて誰かの人生が変わるのを見ることです。僕は、幼い頃に両親を亡くしたことから、「運命を変えるんだ」という思いを原動力にして生きてきました。人は、生まれた境遇や自分では選べない環境によって人生が決まってしまってはいけないと考えています。いつか、誰もが平等に機会を得て、努力によって夢をつかむことができる公正・公平な社会をつくることが、僕の夢です。

―誰でも平等に配信できるSHOWROOMのシステムが、まさにその思想を体現していると思いますが、今、夢のどれくらいが実現できていますか?

前田 いいところ4、5%でしょうね。日本のライブ配信サービスとしてはトップに立ちましたが、市場規模5000億円といわれる中国の配信業界で1位の「YY直播(ジーボー)」などと比べると、足元にも及ばない。また、アジアの親日国ならまだしも、欧米でこのJ-POPっぽい雰囲気は受け入れられないでしょう。

そもそも、日本でも嫌儲思想が根強くヴァーチャルギフティングには批判もある。道は途方もなく遠いです。ただし、僕は不断の努力によって夢は叶(かな)えられるということを、人生をもって証明するつもりです。そのための勝算もありますから。

(取材・文/西中賢治 撮影/武田敏将)

●前田裕二(まえだ・ゆうじ)1987年生まれ、東京都出身。早稲田大学政治経済学部を卒業後、世界最大級の金融グループ・UBSの日本法人に入社。2年目にニューヨークに転勤し、営業トップを獲るなど活躍。しかし、幼い頃にギターを譲ってくれた親戚の早逝を機に、起業を決意。2013年、日本に戻ってDeNAに転職。同年、SHOWROOMローンチ。「人の3倍の密度で生きる」がモットーの仕事人間

■『人生の勝算』(幻冬舎)前田裕二 定価1400円+税DeNAの南場智子会長が5年かけて口説き、秋元康や堀江貴文がほれ込んだ、若き起業家の初の著書。自らのビジネスのエッセンスや、成功をつかむためのマインドを惜しげもなく開陳した、アツい本になっている