本田には「昨季の俺とは違う。安心してくれ」というプレーを見せてほしいと語るセルジオ越後氏

予想外の選択だったね。ACミランを契約満了となった本田がメキシコのパチューカに移籍した。

本田の移籍先をめぐってはスペインやアメリカ、さらには中国などいろいろな噂が飛び交っていたけど、魅力的なオファーがたくさん届いていたわけじゃなかった、というのが実情じゃないだろうか。昨季の彼の成績を考えればそれも仕方ない。

でも、メキシコで再出発という選択は悪くない。南米のトップクラスの選手の多くはヨーロッパの主要リーグに行くけど、それに続くレベルの選手が集まっている。アメリカよりも激しさがあり、ファンも熱狂的。選手は常に結果を求められ、熾烈(しれつ)な競争にさらされている。環境的には南米に近い。そうした厳しいリーグでもまれ、なおかつ結果を残すことができれば、再びヨーロッパの有力クラブでプレーすることも不可能じゃない。

よく指摘される高地への順応について、これは適性もあるし、フタを開けてみなければわからない部分がある。僕はパチューカ(標高2400m)と同じくらいの標高のメキシコシティ(2240m)に行ったことがあるけど、普通の生活をしている分にはほとんど違いを感じなかった。南米のボリビアやペルーなどに比べればラクだと思う。

また、1986年のメキシコW杯は現地で何試合も見たけど、選手たちのプレーから高地によるマイナスの影響を感じることはなかったね。

ちなみに、そのメキシコW杯では、優勝したアルゼンチンのエース、マラドーナのプレーがやっぱり強く印象に残っている。当時のアルゼンチンには魅力的な選手がたくさんいたけど、その中でも彼は別格だった。

ひとつ例を挙げれば、ボールを持ったマラドーナが相手に囲まれたとき、逆サイドに味方の選手がフリーでいても、監督もチームメイトもファンも「逆サイドにパスを出せ」と要求しないんだ。マラドーナならひとりでなんとかするだろう、どんなプレーを見せてくれるのだろうという期待感を持って見守っている。そんな感じだったね。それくらいずば抜けていたし、本当に素晴らしい選手だった。

僕はあの人と試合をしたくない

話が少しそれたけど、当時のサッカーは今ほど運動量を求められず、スペースがあって、テンポもゆったりとしていた。それに比べてフィジカル勝負で、激しくプレスをかけ合う現代サッカーにおいては、空気が薄いことによる選手の負担はより大きい。そこがどう影響するか。本田も慣れるのに時間がかかるかもしれない。

とはいえ、パチューカもいつまでも本田を“お客さん”扱いしてくれないだろう。何より8月末には日本代表のW杯最終予選もある(8月31日にオーストラリア戦、9月5日にサウジアラビア戦)。いかに早く環境に適応して、公式戦で活躍できるか。そこに注目したい。90分フル出場して「試合に出られず、コンディションの悪かった昨季の俺とは違う。安心してくれ」というプレーを見せてほしいね。

最後に、ある国会議員によるSNS上でのサッカー関連発言が炎上した件について。編集部に聞かれたから仕方なく答えるけど、あの件について何かコメントをするということは、サッカーでたとえるなら、相手にプレーするスペースを与えるということ。僕はあの人と試合をしたくない。少しのスペースも与えたくない。以上だ。

(構成/渡辺達也)