『週刊プレイボーイ』本誌で「アウトロー野球論」を連載中の江夏 豊氏

8月6日、中日・岩瀬仁紀がプロ野球新記録の通算950試合登板を達成。またひとつ、日本のプロ野球界に新たな金字塔が打ち立てられた。

『週刊プレイボーイ』本誌で「アウトロー野球論」を長期連載する野球解説者でやはりレジェンドのひとりである江夏 豊もコラムで絶賛する。

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日本にプロ野球が誕生して80年余り。様々な選手たちが好成績を積み重ねて数々の記録が生まれたが、今後まず破られない数字がある。代表格は王貞治さん(元巨人)の通算868本塁打、金田正一さんの400勝、福本豊(元阪急)の1065盗塁であり、日米通算ではイチロー(マーリンズ)の4000安打もそうである。

あるいは、衣笠祥雄(元広島)の2215試合連続出場という数字もあれば、最近では山口鉄也(巨人)の9年連続60試合登板が光り輝く。また、私事で恐縮ながら、自分が1968年に作らせてもらった年間401奪三振という記録もそうかもわからない。

もちろん、選手たちは記録のためにプレーするわけではないが、これらは日本のプロ野球が誇るべき数字である。当然、岩瀬の登板数も、彼が記録している前人未到の404セーブとともに絶賛に値するものだ。

岩瀬といえば、至って地味な投手である。剛速球で三振を取るような豪快さはなく、ゆえに目立たない。インタビューを見聞きしても、言葉や態度に派手さがない。これは彼の球歴が物語っていると思うのだが、高校時代は甲子園を騒がせた球児ではなし、愛知大学から社会人に進み、ドラフト2位で99年に入団。“鳴り物入り”でもなんでもなかったのに、投手として長持ちしてチームに貢献してきた。

「素晴らしい」のひと言である。日本のプロ野球発展のため、岩瀬が果たした貢献は計り知れない。その意味で岩瀬の記録は歴史的な価値があるのだし、中日ファン、岩瀬ファン関係なしに野球ファンであれば、みんな心から拍手を送ってもらいたい。

極めて個人的な話だが、自分は1千試合登板が現役時代の最終目標だった。結果的にその夢は叶わなかったのだが、岩瀬には十分その可能性がある。そこで今年1月、名球会のイベントで岩瀬と会ったときにこんなやりとりをした。

「オレが現役のときに果たせなかった夢を、あなたが果たしてくれないか。1千試合登板は日本の投手の夢なのだから、あなたがしっかり頑張って第1号になってくれよ」

「やります」

彼は、自分の目を見て、力強く手を握り、そう誓ってくれた。その瞬間は自分にとってひとつの財産になったし、前人未到の「1千試合登板」を達成した暁(あかつき)には、心から「おめでとう」と言わせてもらいたい。

■連載コラム「アウトロー野球論」の全文は『週刊プレイボーイ』34・35合併号に掲載。そちらもお読みください!

江夏 豊(ENATSU YUTAKA)1948年生まれ。阪神、南海、広島、日本ハム、西武で活躍し、年間401奪三振、オールスター9連続奪三振などの記録を持つ、伝説の名投手。通算成績は829登板206勝158敗193セーブ