熱戦が続く甲子園だが、その裏で高校や球界に起きている変化とは…?

早実・清宮クンがいなくて盛り上がらない?なんて声も聞かれた今夏の高校野球甲子園大会だが、初日から見応えのある熱戦が続いている。連日、TVに釘付けになっている人も多いだろうが、一歩引いた目線で眺めてみれば、高校球児たちの熱闘がもっと面白くなる! 

というわけで、プロ野球や独立リーグ、高校・中学野球まで、ファンを唸らせる味わい深いネタを発信しつづける野球専門誌『野球太郎』の持木秀仁編集長と、同誌で執筆しているライターの田澤健一郎氏にTVや新聞からは伝わらない高校野球の最新事情を教えてもらった。

― 高野連が発表した統計データを見ると、今年の硬式野球部の部員数は約16万2千人で、ここ数年は減少傾向にあるものの、平成10年比で約2万人増、PL学園の“KKコンビ”が活躍した昭和60年比で約3万人増。「少子化」とか「サッカー人気に押されてる」とか言われるわりに、野球部員の数は増えているんですね!?

持木「そうですね。その要因のひとつには、入部後に辞める野球部員が少なくなっていることが挙げられるかと。高野連が発表している統計データのひとつに1年生が進級して3年生になった時の残留の割合を表す継続率というものがあります。これを見ると、平成元年74.5%→平成10年77.9%→平成20年82.2%と年々高まっていて、今年は調査開始以来最高の90.9%まで達しています。100人入部しても3年後に10人しか辞めてない…。これはひと昔前からは考えられなかったことですね」

田澤「野球部員の“やめない化”が進んだのは、“部員に優しい”指導方法が広まっているからでしょう。特に強豪校では、以前は根性論や精神論を前面に押し出す“鉄拳制裁”や、選手をふるいにかけるような超スパルタな指導方法で、100人入っても1年の夏が終わる頃には半減みたいなことが普通にありました。

でも最近、取材に訪れた強豪校で感じるのは、監督やコーチがあまり理不尽に怒らなくなっていること。怒ってもその理由をきちんと説明したり、後で何かしらのフォローが入ったり。あるいは明確な意図や目的を背景に、わざと“理不尽な風に”怒っていたり。

また、いわゆる1軍だけでなくBチーム、Cチームといわれる2軍、3軍、あるいは下級生もそれぞれに練習試合やBチーム同士のリーグ戦をしていたりする。昔の補欠、ベンチ外メンバーといえばボールにすら触らせてもらえなかったイメージですが、今は練習や試合の機会が増えています。

選手全員に何かしらの役割や仕事を振り分けてレギュラーでなくてもチームの一員という意識を与え、目標や勝利の喜びを共有させる、といったことに取り組んでいる高校もありますね。むしろ、昔ながらにただ罵声を浴びせたり、経験則だけで指導しているような指導者は、強豪校よりも普通のチームのほうにたくさんいるんじゃないかという気さえします。多くの強豪校は強豪なだけあって、時代に合った選手の指導や練習法を常に模索している印象ですね」

少子化が猛スピードで進む中学・高校野球

― 1年時から試合にたくさん出場できて、“しごき”もない。これなら確かに、辞める部員が少なくなるのがわかりますね。

田澤「でも、部員100人超ともなれば管理が大変になる。できることなら智弁和歌山みたいに1学年10人程度の少数精鋭でやりたいと本音では考えている監督さんもいるでしょう。でも今は学校経営がそれを許してくれない。少子化の影響で生徒数の確保が難しくなってきている私立校にとって、野球部目当てで入学してくる子は貴重なんですよ。だから入部に制限をかけることを学校側からストップされたりもする。厳しい練習やしごきで部員をやめさせれば、ネットで悪評が立つ恐れもありますしね」

持木「とはいえ、あと数年もすれば高校野球の少子化問題が顕在化するでしょう。これは軟式野球部に限った話ですが、日本中体連によると、01年に約32万人いた中学の野球部員は2015年に約20万人まで激減しています」

田澤「中学の軟式野球部は9人そろわず部として成り立たない学校がすでにたくさん出ていて、地域単位で部員を増やす取り組みに乗り出す例も増えていますね。その代表例が川口市(埼玉)。市内公立中学の軟式野球部の新チームの平均部員数は12人で、“10人以下”のチームが1/4という状況になり、関係者が対策を検討。少しでも入部のハードルを低くしたり親の負担を減らそうと、川口市中体連野球専門部として市内全域の中学校の軟式野球部に対し、“丸刈り強制の禁止”や“保護者のお茶当番廃止”といった変革案を打ちだしました。人口60万の川口市でさえこの状況ですから地方はもっと深刻かと」

― 一方で、昨今の高校野球は一部の強豪校とその他の無名校の戦力格差の問題も指摘されています。その点はどう見ていますか?

持木「今大会の出場校を見ても、聖光学院(今大会、福島代表)が11年連続、作新学院(栃木代表)が7年連続、明徳義塾(高知代表)が8年連続…と甲子園出場校の常連化が進み、地方大会で波乱が起きにくくなっているのは事実です」

田澤「強豪校がどんどん強くなっている象徴のひとつとして、代打本塁打に注目しています。甲子園の歴史の中で代打本塁打数はわずか14本なのですが、その半分は2000年以降、しかも、打っているのは明徳義塾、作新学院、聖光学院など甲子園常連校の選手がほとんどなんですね。甲子園という大舞台で、ベンチを温めていた選手がいきなり代打を命じられてホームランを打つ。要は、強豪校はサブの選手も含めて個のレベルが相当上がっているし、監督も勝利とチーム内競争のために、彼らの力を積極的に活用する戦い方をしているような印象を受けます」

強豪校の今どきのスカウト事情

― それはやはり、中学生の有望な選手を引き抜くスカウトがさらに活発になっているということ?

持木「そこはある意味ではひと昔前のほうがあからさまだったと思います。一部の強豪校では地元出身者がほとんどいなくて、世間の批判をかわすために中学3年時に近隣の中学校に編入させて“地元出身者”と見せかけるような工作もありましたから。

でも最近ではそこまでやるケースがあまり見受けられなくなりました。それは恐らく、甲子園に出場すると受験者数が増えるという図式が崩れてきているからでしょう。今の中学生やその保護者は知名度よりも教育理念や教育内容、進路先などで高校を選ぶ傾向が強まっています」

田澤「中学の硬式野球団体であるボーイズリーグやシニアリーグの強豪チームの主力選手をごっそり地方の私立高校へ進学させるケースもあって、最近、3季連続甲子園ベスト4に進出している秀岳館(熊本代表)も形としてはそのパターン。

野球留学には反発の声も少なくありませんが、私は15歳の時点で親元を離れて高校3年間を野球にかけるという選択をした彼らの意志を尊重したいと思うタイプ。特に最近は都市部の選手でも、学校側のスカウト以前に 『あの監督の元で野球がしたい』『家を出て寮がある高校で野球をしたい』『慕っていた先輩とまた野球がしたい』といった理由で、選手側が自ら地方の高校を選ぶ傾向も強まっていますから。

ちなみに、一方では花巻東(岩手大会敗退)や弘前学院聖愛(青森大会敗退)など“地元出身者で戦う!”と明確に打ち出している高校もあります。まあ、いろいろな方針の高校があるのは、いいことではないでしょうか」

― 今の高校野球って、ひと昔前と比べて試合の戦術や作戦も変わっていたりするものでしょうか?

持木「これはピッチングマシンが高性能になっていることが影響しているのでしょうが、最近の高校野球は“打高”といわれますね。監督の指導も大阪桐蔭(大阪代表)に象徴されるように“好球必打”、“フルスイング”が重視されます。バントが嫌われつつあるのも最近の傾向で、特に1回から3回にノーアウト1塁、あるいはワンナウト1塁という局面で送りバントを選択しない高校が増えています。それは試合序盤に送りバントをしても得点率が低いという統計学に基づいたものなんだとか」

田澤「最近の高校野球、特に強豪校は2枚、3枚と複数のピッチャーを用意しての継投策や、相手ピッチャーの特徴に合わせてスタメンの選手を一部入れ替えるといった起用法がそれほど珍しくなくなってきています。しかも、選手が変わったところで戦力がそれほど落ちない。年々、プロ野球みたいな戦い方になっている印象を受けます」

★この記事の続き、後編は明日配信予定!

(構成/興山英雄)