実話怪談を語り継ぐ3人。(左から)はやせやすひろ、山口敏太郎、志月かなで

歌舞伎に由来し、夏の風物詩として定着した“怪談”。それを専門に語るのが“怪談師”だ。日本各地に存在し、近年増えているという。彼らは一体、なぜ怪談を語るのか。

怪談を読んだり聞いたりすることはあっても、怪談師に出会うことは滅多にない。そこで、オカルト研究家でベテラン怪談師の山口敏太郎、インターネットラジオで怪談を語る放送作家ユニット「都市ボーイズ」のはやせやすひろ、女流怪談師の志月(しづき)かなでというお三方に怪談師の現状や語り継ぐ意味を聞いた。

―はやせさん、志月さんは山口さんのお弟子さんということですが、なぜ怪談というジャンルに?

はやせ 元々、心霊や妖怪話が好きなのと、僕は出身が岡山なんですけど、うちは“呪われた家系”で地元の人に石投げられたりするような家なんですよ。だから、そうした実体験を話しています。

―“呪われた家系”って、いきなりすごい話なんですけど。

はやせ 元々、村で村長しか住むことのできない山を切り崩してうちが家を建てちゃって「神の山を冒涜(ぼうとく)してる」ってことで(苦笑)。それが3~4才の時だから、20数年ずっと続いていますね。

山口 山奥だとそういうのは普通なんですよ。未だに天狗が出るって信じられてる山とか、入っちゃいけない神社とかあります。

はやせ 昔はイヤで誰にも話してなかったんですけど、職業柄おいしいなと(笑)。先日放送された「怪談グランプリ2017」ではそれで優勝できましたし。それでまたいろいろ言われても、話せるからありがたいですよ。

―ネタが増えるわけですね(笑)。志月さんは?

志月 私は子どもの頃から苦手でした。「世にも奇妙な物語」のオープニングで泣くし、『リング』も未だに観たことないです。ただ、3年前に声優を目指していたんですけど、ある最終オーディションで面接官に「キミはいろいろできる場所に行ったほうがいい」って言われて。ちょうど怪談師を探してるってなったからタイミングですね。朗読コンテストで賞を取ったことがあるので、怪談朗読ならできると思って。

―特に目指したわけではないんですね。怪談師って意外と入口は広いんですか?

山口 たぶん100人以上はいます。ただ、なめたヤツも多いんですよ。結構、僕が原因だったりするんだけど、面白い話を持ってるってステージに上げたら、そこから怪談師って名乗ってるとかね。

志月 2回しか喋ってないのにツイッターのプロフィールに書いてる人とかも見かけましたね。

山口 この前までマックで働いてた兄ちゃんが飲み屋でちょっと怪談語ったら怪談師っていうでしょ。何が怪談師だ!って、それはおかしいと思う。

怪談師だけで食べていけるの?

―そんなのまで入れたら100人どころか、そこら中が怪談師だらけになってしまいますね(苦笑)。

はやせ 怪談はすぐ入れるんですよ。友達の話とか含めたら誰でも1コは持ってるので。どんどん怪談師が増えてるのはそれが理由じゃないですかね。

山口 そう。妖怪は難しいけど心霊体験ならね。あと、多いのが創作したものを実話だと謳(うた)ってるパターン。例えば、ドキュメンタリーでまたぎに密着してたりするじゃないですか。そのリアリティのある描写に怪談的要素を入れるとか。そういう巧妙な作りをやってるやつはいますよ。創作は創作でいいんですけど。でも怖がらせるために実話怪談だと言ってるバカなヤツがいる。

―山口さんの元でやっているということは、おふたりも実話怪談が根本ということですよね。

はやせ そうです。妄想や嘘の可能性は否定はできないけど、実話というくらいですから実体験が前提でないと信用を失いますよね。

山口 そう。そこで演出や構成を自分で組み替えて、うまく商品に仕上げる。それが怪談師の腕。ただ残虐なだけだったりグロイだけの話を作るのも、僕は怪談文化の捻じ曲げだと思うんですよね。人怖(ひとこわ)と言われるサイコパス怪談もあるんですよ、僕も狂人の話ばかり集めて書いてますけど、それと妖怪や霊的なものが出てくる怪談とはまた別分野ですよね。

―ちなみに怪談師としての活動はやはり夏がメインなんですか? それだけで食べていけるのかなと…。

山口 イベントも今は1年中やっていますが、やはり夏が主になりますね。でもこういう表現活動だけで食べていけるのはひと握りです。うちの事務所も30人以上いるけど数人だけで、あとは他の仕事と兼業です。時代は違うけど僕自身、オカルトで作家デビューして10年は食えずサラリーマンをやりながらでしたから。

はやせ 僕は元々が放送作家なので金銭的な部分で苦労したことはないですね。ただ、それが柱になっているので、オカルトや怪談だけだと厳しいと思います。

志月 私も女優や声優、ナレーター、朗読などやりながらです。それから怪談師としては古典怪談と実話怪談を融合させているんですけど、そうすると記念館などから呼ばれるのでなんとかやってますね。怪談師としてはニッチな分野なんですけど、それで先日もさいたま文学館で芥川龍之介の朗読から入って埼玉の河童を紹介する講座をやってきました。あとはホラー漫画の原作とか。

山口 今は怪談師として名を上げて、本を出してTVなどあちこち回るのが王道パターン。イベントに呼ばれても、ベテランクラスでも数万円なので、それだけでは無理ですよ。お笑い芸人と同じだから。

人の心の中から発掘する謎解き

―やはり芸事の世界は厳しいんですね。それでもおふたりが続けているのはなぜなんでしょうか? 特に志月さんは怖いのが嫌いだということでしたけど。

志月 今も好きとは言わないけど、興味深いなと思います。昭和51年くらいの新聞にお面を持ってた人が祟られたって話を見つけたんですよ。それでその話のお寺に行ったら前住職さんがお面はここにあったって話を聞かせてくれて。それって私たち怪談師が調べないとわからないことで、前住職さんもお歳なので亡くなられたらそこで終わりじゃないですか。そういうふうに話を残せるのはめっちゃ面白いと思ってます。

山口 いろんな話を発掘してきて話す。人の心の中から、資料から発掘する。謎解きな部分があるので興奮しますね。

はやせ 僕は自分の体験を話すことが多いんです。特にちゃんとした場では、“呪われた家系”というこんな自分だから自分のことだけ話そうって決めているんですよ。あとは本当にオカルトや怪談が好きだからですね。元々、山口さんのファンだったので。

志月 私、因果応報で悪くなる話がいいなって思ってるんですよ。そういうのって何かしら理由があって怪談が生まれてる…そういうのを伝えていければいいなとも思います。

山口 秀逸な創作怪談もあります。ただ、実話怪談はそこに人の悲しみや苦しさ、あるいは滅びゆくものの美しさもなければいけないと思うし、人の生き死にですから、非常に責任が重い。例え100年前の話でもそこに苦渋の想いがあったはず。その人の気持ちを背負って喋ることが供養だと思うんですよ。だから僕は実話怪談にこだわるんです。

★後編⇒本物の怪談師は“怪談以上に怪談的な存在”──ネタ探しが謎解きでありミステリー

(取材・文/鯨井隆正 撮影/五十嵐和博)