グアムへのミサイル発射をいったん延期した金正恩。しかし準備はできている

8月14日、北朝鮮の指導者・金正恩委員長は米領グアム周辺に向けて弾道ミサイル4発を発射する計画について「もう少しアメリカの行動を見守る」と、事実上の延期を表明。

これで米朝激突の危機は去った、ようやく“対話モード”に入る、といった報道も多いが…。

■交渉成立の可能性はわずか数%程度

そもそも、グアム攻撃がいったん延期されたところで、両者の根本的な対立構図はまったく変わっていない。米側が提案しているような米朝間の「対話」は可能なのか?

元時事通信社ワシントン支局長の小関哲哉(おぜき・てつや)氏はこう語る。

「大前提として、アメリカは北朝鮮に核放棄を、北朝鮮はアメリカに自らを核保有国として認めることを求めており、両者が妥協できる落としどころはありません。特に金正恩は、もし要求どおりに核や弾道ミサイルを放棄すれば、イラクのフセインやリビアのカダフィと同じ運命をたどると考えている。そのため米側の要求をのむことはありえず、核保有を認めることに加え、日米に多額の経済援助を要求してくるはずです」

北朝鮮の核開発が発覚した1994年には、開戦直前でカーター元米大統領が当時のクリントン大統領の特使として電撃訪朝し、金日成(キム・イルソン)主席と核開発凍結の合意を取りつけた(その後、北朝鮮は合意を破棄したが)。しかし今回は、その再現はかなり難しそうだ。小関氏が続ける。

「今の米共和党には、トランプ大統領の意向を伝え、金正恩と対等に渡り合えるような交渉役(ネゴシエーター)が見当たりません。強いて言えば娘婿(むこ)のクシュナー大統領上級顧問でしょうが、いずれにせよ94年とは状況が違う。なんらかの合意に至る可能性は、せいぜい数%というところでしょう。

やっかいなのは、金正恩が最近の“瀬戸際外交”に味をしめているフシがあることです。グアムへのミサイル発射を予告して緊張を極限まで高め、それをフッと緩めることで対話モードをいったん引き出したわけですから、確かにゲームは北朝鮮側のペースで進んでいる。もし望む譲歩が引き出せなければ、再び“グアムカード”を持ち出してくるはずです」

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(取材・文/世良光弘 小峯隆生 写真/時事通信社)