8月13日のパドレス戦の勝利で、勝ち星を11勝(4敗)に伸ばした前田。さらに安定感を増すことで、競争の激しい先発ローテに残る道が見えてくる

8月13日のサンディエゴ・パドレス戦で勝ち投手になり、ロサンゼルス・ドジャースの前田健太は今季11勝目を挙げた。21日に登板したタイガース戦では負けたものの、今季の勝ち星はメジャーの日本人投手の中で最多。防御率3.76も同チームに加入したばかりのダルビッシュ有、田中将大(ヤンキース)などを上回っている(8月22日時点)。

しかし、これだけの成績を残しながら、前田の周囲では“先発ローテーション落ちの危機”がささやかれている。ドジャースは7月31日のトレード期限にダルビッシュを獲得。先発陣の層が厚くなったことで、ほかの故障者が戻ってくる8月、9月中には前田が先発ローテからはじき出されてしまう可能性が高いと予想されているのだ。

「競争はすべての人間を向上させる。優れた選手たちの争いのおかげで、私たちはさらにいいチームになれるんだ」

ドジャースのデーブ・ロバーツ監督がそう述べるとおり、間もなく腰痛から復帰するメジャー最高の左腕、クレイトン・カーショウを筆頭に、チームには一線級の投手が顔をそろえている。成績、実績の劣る選手が席を失うのは仕方ないことだが、前田は勝ち星、防御率などでダルビッシュ以上の数字を残してきた。それでもシーズン終盤やプレーオフで中継ぎに回ることが濃厚な現状に釈然としないファンも多いだろう。

ここで留意すべきは、現代のベースボールにおける勝ち負けは投手の力量を測る指標として必ずしも重宝されていないことだ。勝ち星は前田のほうが多くても、総イニング数、奪三振数と9イニング当たりの奪三振率、被打率といった数値はダルビッシュが上回っている。

何よりわかりやすいのは、両投手の“クオリティ・スタート(QS)”の差だ。QSとは先発投手が6回以上を投げて自責点3以内に抑えること。「長いイニングを投げる耐久力」「失点を少なくする力」という、先発投手にとって重要なふたつの能力を示すため、現代野球では重視される数字となっている。

ダルビッシュはここまでの24度の先発中、16度がQSなのに対し、前田は19先発中4度のみ。8月13日の試合までの5連勝でも球数がかさみ、QSは1度だけで、残りはすべて6回を持たずにマウンドを降りている。

この経緯をふり返ると、今季の前田の好成績が額面どおりにとらえられていないのも理解できる。リーグを最高勝率で突っ走るチームの強力打線や、本拠地スタジアムの広さなどに、少なからず助けられてきた結果と見られている面もあるだろう。

しかし、これだけの勝ち星、防御率がすべて幸運の産物だとは考えられず、メジャーの強打者相手に5回、6回まで試合をつくる安定感は評価されてしかるべきだ。また、やや高齢な選手が多い投手陣から再び故障者が出た場合、前田が好調を維持していれば、プレーオフまで先発を守る可能性も十分にある。

中継ぎ、ロングリリーフに回ったとしても、そこで勝利に貢献するのは誇るべきこと。どちらにせよ、スターがそろうドジャース投手陣の中で、前田がどう存在感を放っていくのかに要注目だ。

(取材・文/杉浦大介)