「土地というのは食料や資源はもちろん、『国家主権』を守るためのすべての基本です。この本を通じて、その土地を『守る』ためのルールづくりの必要性に気づいてほしい」と語る宮本雅史氏

北海道の山林や農地、ゴルフ場などが中国資本に「爆買い」されている。

その面積はすでに東京ドーム1千個分(!)で、その中には具体的な利用目的すらわからないまま長年放置されている土地や、村の大部分が中国と関係する日本企業に買い占められている場所もあるという。

しかし、日本には外国人の土地取得に関する法規制がなく、事実上の野放し状態。こうした状況を放置すれば国土が「合法的に」支配され、日本の「主権」をも脅かしかねない。そう警鐘を鳴らすのが産経新聞社編集委員、宮本雅史(まさふみ)氏の著書『爆買いされる日本の領土』だ。

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―北海道で進む「中国資本の土地取得」に危機感を持った、きっかけはなんだったのですか?

宮本 実を言うと、最初は中国じゃなかったんです。今から10年ほど前、長崎県の対馬が韓国資本に買われているという話を聞き、取材を始めたのがきっかけでした。実際に、対馬の土地はいくつも韓国資本によって「合法的」に買収されていました。しかし、日本にはそれを規制する法制度がないのです。

その4、5年後にもう一度対馬を訪れてみたら、当初は韓国資本の進出に対して違和感を持っていた地元の方々は、そうした反発の気持ちもなくされていました。それは単に不動産が韓国に買われただけでなく、地元企業に韓国資本が入り、住民が雇われるようになったから。経済的にも韓国資本の恩恵を受けるようになったことで、生活環境に大きな変化があった。

では、ほかの国境離島はどうなっているんだと思い、佐渡(新潟)、五島列島(長崎)、利尻・礼文島(北海道)を取材して回り、新聞で連載するうちに北海道の話が飛び込んできたんです。

―対馬は竹島(島根県)にも近く、韓国との「領土問題」の一部としてとらえる人も多いと思いますが、「北海道の土地を中国が爆買い」というのは、いまいちピンときません。

宮本 そうなんです。何しろ北海道は広いですから、北海道の人たちもその異変に気づいていないことが多い。しかし実際に現地で取材してみると、驚くほどたくさんの土地や山林が中国資本に買われていることがわかりました。

「目に見える領土問題」として意識している尖閣(せんかく)諸島(沖縄県)や竹島と違って、われわれ日本人の多くは北海道で今起きていることに危機感を感じていないし、政治家の反応も極めて鈍い。安倍首相は国会で「これはなんとかしなければいけない…」と一応答弁してはいるのですが、具体的な規制に向けた動きは一向に進んでいないというのが現実です。

―とはいえ、日本は経済成長を維持するため、積極的に「国外からの投資」を呼びかけています。また、1980年代後半のバブル期には日本企業は世界中の不動産を買いあさっていました。当時、海外で「反感」を買ったものの、合法的な商業活動だったと思います。

宮本 確かにバブルの頃、日本はアメリカで土地を買いまくりました。あの時、アメリカはどういう対応をしたのかというと、海外の資本がやみくもに不動産を取得できないように法整備をしたんですね。

私はグローバル化を否定するわけではありませんし、外国人観光客が来ることを否定するわけでもありません。もちろん、外国人が日本の土地を買っちゃいけないとも言っていません。私が必要だと訴えたいのは「ルールづくり」なのです。グローバル化というのは最低限のルールがあって、初めて成り立つものだと思います。しかし日本には、外国人の土地取得を制限する制度が何もありません。当然、その状態を放置すればいろいろなトラブルが起こるでしょう。そしてそれを解消する手段がなくては、無法地帯になってしまいます。

例えば、対馬で海上自衛隊の施設の隣接地が4千万、5千万円で韓国資本に買われて問題になりました。さすがにそれは安全保障上、マズいということで買い戻そうとしたら、先方が提示した金額はなんと4億だったそうです。土地に関しては、売っていいものと、売っちゃいけないものがあるはずです。国家として、日本はそのルールづくりができていないことが問題なのです。

“売ってはいけない土地”とは?

―売ってはいけない土地とは、具体的にどんな場所でしょう?

宮本 第一に水源地の森や農地、鉱物資源の存在する場所など、われわれが生きてゆく上で欠かせない「資源」に関するものではないでしょうか。自衛隊の基地周辺や国防上、重要な意味を持つ土地も規制の対象とすべきです。また北海道で取材を進めると、「使途が明らかでない」土地が中国資本によって大量に買いあさられていて、表向きは「美術館を建てる」とか、「リゾート開発をする」と言いながら、実際には放置されている土地が多い。私はこうしたケースについてもなんらかの規制を設けるなど、警戒すべきだと思います。

日本は土地取引に関する「登記義務」がないため、転売を繰り返せば本来の持ち主がわからなくなる可能性がある。中国と関係の深い「日本企業」が、土地取得の「隠れみの」になっている場合もあるのです。こうした点についても早急に法整備が必要ではないでしょうか。

―北海道で続く不動産の爆買いの背景には、中国のどんな野望があるのでしょう?

宮本 本当の意図はわかりませんが、北海道の問題は北海道だけを見ていてもわからなくて、日本列島全体で見ないと見えてこないのかもしれない。少なくとも中国は北海道を重要視していることは間違いないと思います。中国は釧路を「一帯一路構想」の東の端、南のシンガポールに対する北の玄関口にしたいと公然と口にしています。

日本人は数年先のことしか見ませんが、中国人は10年、20年、30年というロングスパンで物事を見ています。日本の安全保障と主権に関しても、そうした長いスパンで考える必要があるのです。もちろん、取り越し苦労に終わるかもしれません。しかし、安全保障は取り越し苦労から始まるものです。

土地というのは食料や資源はもちろん、「国家主権」を守るためのすべての基本です。この本を通じて、その土地を「守る」ためのルールづくりの必要性に、より多くの日本人が気づいてほしいと願っています。

(インタビュー・文/川喜田研 撮影/有高唯之)

●宮本雅史(みやもと・まさふみ)1953年生まれ。産経新聞編集委員。慶應義塾大学法学部卒業後、産経新聞社入社。90年、ハーバード大学国際問題研究所に訪問研究員として留学。93年、ゼネコン汚職事件のスクープで新聞協会賞を受賞。司法記者クラブキャップ、警視庁記者クラブキャップ、社会部編集委員、那覇支局長などを経て、現職。主な著書に『少年兵はなぜ故郷に火を放ったのか』『報道されない沖縄』『真実無罪』(すべてKADOKAWA)などがある

■『爆買いされる日本の領土』(角川新書 800円+税)日本国内の不動産の取得などを通じて、中国による“経済的な侵攻”が進んでいる――。10年ほど前、長崎県・対馬の一部の土地が韓国資本に買収されていることを知り、外国資本による“領土侵犯”に関心を抱いた著者。国境離島や北海道で、合法的に日本の領土が侵食されていく実態を明らかにし、外国人の土地取得に関する一刻も早いルールづくりの必要性を説く