トランプ大統領の存在が白人至上主義を勢いづかせていると語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンがアメリカにおける白人至上主義について語る!

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8月12日に米南部バージニア州で起きた白人至上主義者らによるデモ、そして犠牲者も出た反対派市民との衝突では、アメリカにおける白人至上主義の広まりがクローズアップされました。この差別思想に「入信」する者、逆に「脱会」する者―米メディアでは、それぞれのストーリーが報じられています。

事の詳しい経緯は省きますが、今回シャーロッツビルに集まったのは白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)やネオナチ系の極右団体と、その支持者たちでした。このデモの主導者のひとりが、イラク戦争に従軍したネイサン・ダミーゴという31歳の元米兵です。

彼はイラクで仲間の戦死と、多人種・多宗派国家の崩壊を間近で経験。帰国後はPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、強盗事件を起こしますが、服役中に元KKK最高幹部のデービッド・デュークの著書を読み、白人至上主義に転向します。そして出所後は、主に大学生をリクルートする活動を展開し、"動員力"を広げていったようです。

近年、彼のように「入信」した人々を焚(た)きつける役割を担うのが、ネットに乱立する極右系メディアや掲示板です。しかし逆に、昨年秋にはその草分けである『Stormfront(ストームフロント)』という白人至上主義系サイトの"申し子"たる若者が「脱会」を表明し、一部で話題となりました。

彼の名はデレク・ブラック。父は、かつてカリブに白人国家をつくる計画を企てて逮捕され、服役後の1995年に『Stormfront』を開設した元KKKのドン・ブラック。そして母は、KKKの元最高幹部デービッド・デュークの元妻。―89年にKKKのコミュニティ内で生まれたデレクは、周囲から徹底的に思想教育を施されて育ったのです。

トランプ大統領の存在が白人至上主義を勢いづかせている

彼は10歳で『Stormfront』の"子供版"を運営し、ヘイトスピーチを擁護する"少年活動家"としてTV番組に出演するなど、白人至上主義の未来を担う存在として順調に成長。そして「白人優位の根拠を確かめたい」と、中世欧州の歴史を学ぶべくニューカレッジ・オブ・フロリダという大学に入学します。

ただリベラルアーツ系の同大学は多様性に富み、校風はゲイフレンドリー、大麻フレンドリー。そんな環境に身を置くことへの反対意見を押し切り、父親のドンは「息子は揺るぎない」と入学を許可しますが、これがデレクの運命を大きく変えました。

彼は様々な人種、宗教の友人と付き合い、また中世欧州の歴史を学び、白人至上主義の"欺瞞(ぎまん)"に気づき始めます。白人の優位を証明する事実などどこにもなく、歴史上白人たちは宗教に縛られて殺し合うばかりで、数学や天文学などもアラブ世界で発明された学問の"借り物"にすぎない...

ずっと信じてきたものが粉々に崩れていくことを感じたデレクは、トランプ旋風真っただ中の昨年9月、白人至上主義からの離脱を正式に表明しました。

トランプ大統領の存在が白人至上主義を勢いづかせていることは間違いありませんが、一方でそうした勢力が最も期待を寄せていたスティーブ・バノン大統領首席戦略官は、事件の影響もありホワイトハウスを追われました。「入信者」と「脱会者」、今後アメリカはどちらにとって生きやすい国となるのでしょうか?

Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中。ほかにレギュラーは『ニュースザップ』(BSスカパー!)、『Morley Robertson Show』(block.fm)など