泉田前知事について、「できるならば、原発再稼働を進める自民からの出馬は避けてほしいというのが私の願い」と語る古賀茂明氏

10月22日投開票の衆院新潟5区補選に、自民党が泉田前新潟県知事を擁立しようとしているという。

彼と旧知の間柄であり、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が、田前新潟県知事が自民候補に急浮上した裏側を明かす。

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泉田裕彦前新潟県知事が政界の先行きを占うキーパーソンとして浮上している。10月22日投開票の衆院新潟5区補選に、自民党が彼を擁立しようとしているためだ。

この補選、当初は青森4区、愛媛3区のダブル補選となるはずだった。いずれも自民議員の死去を受けたもので、当然、安倍政権にすれば、合格ラインは2勝。1勝1敗では野党に議席を奪われたことになり、政権へのダメージとなる。

ところが、8月18日に新潟5区選出の長島忠美(ただよし)衆院議員(自民)が急死してトリプル補選になったことにより、その合格ラインが微妙に変化した。

もし新潟5区で勝利すれば、たとえ青森、愛媛の結果が1勝1敗のイーブンでも2勝1敗。3区とも自民議員が占めていた議席なので、合格ラインは3勝0敗であるべきだが、そこは数字のマジックというヤツで、「2勝1敗は勝ち越し。有権者が安倍政治にノーを突きつけたとは言えない」と強弁できる。

そして、このロジックを支える強力な候補として自民党が白羽の矢を立てたのが、退任後も県民に根強い人気のある泉田前知事だったというわけだ。

注目すべきは民進党もまた、泉田前知事の擁立を狙っている点だ。泉田前知事は東電の柏崎刈羽(かりわ)原発の再稼働に慎重で、脱原発派と目されてきた。民進党は2030年代の原発ゼロを打ち出している。ならば、原発再稼働に熱心な安倍自民でなく、民進党から出馬してほしいと、前知事を口説いているのだ。

民進党は新代表を決めたばかり。その直後の選挙で勝利すれば、党の気勢は上がる。泉田前知事はノドから手が出るほど欲しい候補だろう。

泉田前知事は新潟4区から自民党候補として出馬

ただ、私が取材したところでは、泉田前知事は次の衆院選で、新潟5区ではなく、4区から自民党候補として出馬することが、ほぼ決まっていたようだ。

これを主導したのが二階俊博自民党幹事長である。新潟4区には二階派の金子恵美議員がいる。しかし、夫の宮崎謙介前衆院議員の不倫スキャンダルに加え、公用車による保育園送迎問題などで次の衆院選では苦戦が予想される。そこで金子議員を比例単独候補に回し、泉田前知事が4区候補として出馬する運びになったというのだ。

泉田前知事と二階幹事長の関係は、泉田氏初当選のときから続いており、その後も良好な関係を継続しているという。確かに、昨年の新潟県知事選では、選挙戦終盤で突然二階氏に連れられて安倍総理を訪問し、米山隆一現知事の陣営を驚かせたのは記憶に新しい。永田町では「泉田さんは隠れ二階派」との声もある。それだけに泉田前知事が二階派候補として4区から出馬というのはとっぴな話ではない。

泉田前知事とは経済産業省時代、机を並べて仕事した間柄だ。そこでお盆過ぎに本人に電話で聞いてみたところ、「4区、5区どちらからの出馬も白紙」との返事だった。4区ではすでに自民支持者が泉田氏の総選挙出馬を前提に後援会活動を進めており、それを振り切って5区補選に出馬するには、「長島議員の遺族の意向」といったなんらかの大義名分が必要になるだろう。

果たして泉田前知事はどう動くのか? できるならば、原発再稼働を進める自民からの出馬は避けてほしいというのが私の願いなのだが。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。新著は『日本中枢の狂謀』(講談社)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中