欧州のW杯予選でも活躍しているロナウドについて語った宮澤ミシェル氏

サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第12回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど、日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、W杯最終予選でも活躍しているポルトガル代表のエース、クリスティアーノ・ロナウドについて。

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9月になって、ヨーロッパでもW杯最終予選が行なわれている。クリスティアーノ・ロナウドが中心のポルトガル代表はグループBで現在2位。本大会出場へ前進している。

それにしても、やっぱりロナウドはスーパースター。「星を背負っている」。

6月のコンフェデレーションズカップの取材で現地に行き、ロナウドのプレーと練習を見たが、ピッチでの振る舞い、何気ない仕草、ユニフォームの着こなし、そういった端々から、彼は「世界中の多くの人々から見られている」ということを常に自覚していると感じた。

DFとして相手にしたら非常にイヤな選手だ。ロナウドがボールを持っただけでスタジアムの観客が湧く。彼自身、それを意識していて、コンフェデでは8割は勝利のためのプレー、2割は観客のためのパフォーマンスという感じだった。

例えば、全盛期のラモス瑠偉はほとんど全力で走らないくせに、ここぞという時は必死の形相で相手を全力で追って、タックルで相手を削り倒す。そのあと、彼が全力疾走しなくても、誰の記憶にもラモスがピンチを防ぎに全速力で走ったことが記憶に残る。これもパフォーマンスだけど、実にうまい(笑)。

ただ、こうしたパフォーマンスも実力のうち。ロナウドは「観客はオレを観に来ている」ということをちゃんとわかってプレーしているし、実際、ピッチに彼が現れると、スタジアムにいる全員が自然と惹きつけられてしまう。

だからこそ、彼のことは「星を背負っている」と表現したい。自らの存在価値を強く意識していなければ、あれだけの肉体を作り上げることは不可能だろうからね。

コンフェデのポルトガル対チリ戦の前日練習ではピッチレベルで見たが、8人くらいで円を作った中にボールを奪う役がふたりいる「ロンド」というパス回しでのボール感覚や、蹴った時のインパクトの強烈さは本当にすごかった。

ボールの真芯を蹴った時の音がスタジアムに響き渡るんだ。ヴィッセル神戸に加わったポドルスキのキックも強烈で、私が現役時代にジェフで一緒にプレーしたリトバルスキーもそうだったけれど、うまい選手というのは回転をかけずに蹴る時のインパクトが強い。

マンチェスター・ユナイテッド時代はもっと華奢(きゃしゃ)だった

ロナウドにはいろいろ驚かされるけれど、中でも肉体は凄まじい。練習着だと肩甲骨あたりの隆起や、太ももの周りの筋肉の張りがよくわかるんだけど、もう彼はサイボーグのよう。メッシにはまだ人間らしさが感じられるけれど、彼の肉体はまるで筋肉の商品サンプル。だから、サイボーグと言っても間違いじゃないと思うよ(笑)。しかも、その鍛え上げた筋肉をきちんとサッカーに活かしている。

ランニングフォームは膝を前へ、前へと振り上げていき、着地した足は後ろに流れていかないで推進力が増している。元々、足の速い選手だったけれど、今のフォームに変えたのは、よりスタートダッシュを効かすためだろうね。それによって生み出される一瞬のスピードや、空中での長い滞空時間、強靭な体幹を駆使したヘディングでゴールを量産している。

ただ、普通は筋トレをしてパワーを増やすと、身体のバランスを崩してしまって一部に負荷が高まっていき、故障しやすくなるもの。だけど、ロナウドの場合は筋力を高めるとともに、それをバランスよくしなやかに使うためのトレーニングもしているのだろう。だから、大きな故障もなくここまでプレーできているのだと思う。

もちろん、昔からサイボーグだったわけじゃない。マンチェスター・ユナイテッド時代はもっと華奢(きゃしゃ)だったし、当時のポジションはサイドアタッカーで、ドリブルで相手DFをかわして中央に切れ込んでいくスタイルだった。それがレアル・マドリードに移籍してから変貌し、ゴール数を増やすことを強く意識したプレースタイルになり、それに伴ってポジションは中央寄りに変わっていった。

プレー自体もドリブル突破の回数は減って、ゴールを決めるためにシンプルになった。得点の取り方もワンタッチでのゴールが増えている。ヘディングシュートだって、ワンタッチプレーのひとつだ。鍛錬して結果を残して自信をつけて、もう一段上がるために研究して、また努力をする。天才の一語で済ませることができないほどの努力を重ねているよね。

ゴールに関しては、昨シーズンのスペインリーグ開幕当初はシュートを打てども打てども決まらなくて表情も冴えなかったし、地元メディアからは「彼はもう終わった」と言われていた。

でも、終盤戦になったらガンガン決め続けて、チャンピオンズリーグでもリーグ戦でも勝ち続けた。右肩上がりで成長していた若い頃とは違って、現在はピークを維持する時期ではあるけれど、あと3年くらいはバリバリのプレーを見せてくれるんじゃないかな。

チャンピオンズリーグはマンチェスター・ユナイテッドで1度、レアル・マドリードで3度制覇し、ポルトガル代表では2016年のEURO(欧州選手権)で優勝した。残すタイトルはワールドカップのみだ。

ポルトガル代表は若い選手もどんどん出てきているだけに、W杯優勝も見えてくるだろう。来年のロシア大会でトロフィーを掲げるのは、ロナウドか、それともメッシか。はたまた勝負強いドイツなのか。来年6月の開幕が今から楽しみでならない。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル 1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。