増長する中国海軍への対応、そして北朝鮮有事への対処など、米海軍太平洋艦隊はまさにフル稼働状態。そんななか相次いだイージス艦の事故は大きな痛手だ

「サイバー侵入やサイバー妨害の可能性を示す手がかりは今のところ存在しない。しかし、事故調査はすべての可能性について行なう」

8月21日、米海軍太平洋艦隊・第7艦隊のイージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」がシンガポール沖でリベリア船籍のタンカーと衝突し、イージス艦の乗組員15人が死傷する事故が発生した。冒頭のコメントは、事故の直後に米海軍作戦部長のリチャードソン大将が発したツイートの要約だ。

メディアなど外部の人間ならまだしも、海軍の幹部がいきなり「サイバー攻撃の可能性」に言及するとは穏やかではない。その理由を米国防系シンクタンクで海軍戦略アドバイザーを務める北村 淳(じゅん)氏が解説する。

「今年に入って太平洋艦隊では所属艦の事故が相次いでおり、基本的には艦隊内での人的・組織的な問題に起因するものだと見られています。しかし、それにしても事故が多すぎる、しかも海域や艦艇の種類が偏りすぎているとの指摘もあり、海軍内部も含めた専門家やメディアの中から、サイバー攻撃の可能性に関する議論が出てきたのです」

今回の事故以外に、今年に入ってから太平洋艦隊で起きた事故は以下のとおり。

●1月、第7艦隊のイージス巡洋艦「アンティータム」が母港・横須賀沖で浅瀬に乗り上げ、スクリューを損傷。

●5月、日本海の朝鮮半島東岸沖で、第3艦隊のイージス巡洋艦「レイク・シャンプレイン」が韓国漁船と衝突。

●6月、第7艦隊のイージス駆逐艦「フィッツジェラルド」が、伊豆半島石廊崎(いろうざき)沖の航路でフィリピン船籍のコンテナ船と衝突。イージス艦の乗組員7人が死亡。

このように、いずれも太平洋西部、それもすべてイージス艦の事故なのだ。

不可解な事故の連続。原因究明はまだ先になりそうだが、前述の「サイバー攻撃説」にもそれなりの根拠があるという。中国人民解放軍の動向に詳しい軍事ジャーナリストの古是三春(ふるぜ・みつはる)氏はこう語る。

「オバマ政権時代に決定された大幅な軍事費削減により、米海軍の太平洋艦隊には予算・人員の両面で相当なしわ寄せがきています。それと反比例するように拡大する中国軍は近年、この状況にかこつけてサイバー攻撃を活発に展開しているのです。

実は今年春、北朝鮮の核・ミサイル関連施設に対して米韓軍が限定的な“牙抜き攻撃作戦”を決行するとの噂が流れた際、『朝鮮半島周辺のGPS情報がズレている』との報告が盛んになされていました。これも、衛星情報に狂いを与える妨害電波照射の影響だったのかもしれません」

こうした攻撃は技術的に可能なものなのか? そして、この「サイバー宇宙大戦」は日本にとっても対岸の火事ではない。特に差し迫った問題は、北朝鮮のミサイルに対する迎撃態勢への深刻な影響だーー。

この続きは『週刊プレイボーイ』39・40合併号(9月11日発売)「米中『サイバー宇宙大戦』はもう始まっている!」にてお読みください

(取材・文/小峯隆生 協力/世良光弘 直井裕太 撮影/柿谷哲也)