経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が『週刊プレイボーイ』で好評連載中のコラム『古賀政経塾!!』。
今週は、9月2日に「週プレ酒場」(新宿・歌舞伎町)で開催された、古賀茂明氏と望月衣塑子(いそこ)氏(東京新聞社会部記者)によるトークイベントの様子をお伝えする。
片や改革を訴え続ける元官僚として。片や鋭く政権の不正に切り込む記者として。安倍政権と闘い続ける、空気を"読まない"ふたりが、ぶっちゃけまくった!
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―9月1日に首相官邸が東京新聞に注意のFAXを送りつけたニュースが話題になっていますね。
望月 8月25日午前の会見で加計(かけ)学園問題について質問したんです。その際の私の発言が「不正確で国民に誤解を与えかねない」と官邸広報室から私が所属する東京新聞に抗議が入っちゃって。
古賀 安倍政権のイヤがる質問をしまくる望月さんならではのニュースだ(笑)。
望月「文科省の大学設置審が(加計学園による)新獣医学部設置の認可留保を決めた」(*1)って言っちゃった。認可留保の公表は8月25日午後だったんですが、設置審が開かれた8月9日にNHKなどのメディアが認可保留の方針を報道していたから、それを受けて「留保を決めた」と菅義偉(すが・よしひで)官房長官に質問を投げたんです。「認可留保」は公然の事実でしたが、私が質問した25日午前の時点では政府発表はまだなかった。その意味では不正確でしたね。
(*1)岡山市の学校法人「加計学園」が獣医学部を愛媛県今治市に新設することを国が認めた件で、この手続きをめぐり、加計学園理事長の友人である安倍首相もしくは首相側近による、不当な便宜があったのではと疑われている。大学や学部の設置を審査する文科省の大学設置・学校法人審議会(設置審)は8月25日に同獣医学部新設の判断を留保。教育体制が不十分であり見直しが必要とした
古賀 でもなあ、その程度で注意だなんて、官邸は東京新聞にキツイ注意をすることで、望月さんの質問封じをしようとしているんですよね?
望月 そうかも。ただ、先ほどの抗議文ですが、官邸が私を不快と感じたのは8月25日の質問ではなく、本当は8月31日、9月1日の両日にした質問のせいかなと思っています。
普段、首相は富ヶ谷(東京)の私邸に帰り、公邸には宿泊しない。でも、8月は25日と28日だけ公邸に泊まった。そして実は、どちらもその翌日に北朝鮮がミサイルを発射したんです。特に29日は早朝にJアラートが鳴り、国中が大騒ぎになった。それで「前夜に知っていたのか? もしそうなら、なぜ前もって国民に知らせなかったのか?」と、菅官房長官に聞きました。
―彼はどんな反応をしました?
望月 もともと、菅官房長官は私を指名するときは顔を背けたりするんですが、この日はいつにも増してイヤそうでした(苦笑)。私の質問には、いつものように「国民の安心、安全のために全力を尽くしている」と繰り返すだけ。
それでも食い下がると、菅官房長官はキレ気味に「あなたは北の肩を持つんですか!」みたいな言い方をした。あれには驚きましたね。私は「北朝鮮を支持する」なんてことは、ひと言も言っていない。彼は私を北朝鮮寄りの記者だと印象づけたいのか、と疑ったほどでした。
古賀 安倍政権はマズイことは、すぐ隠そうとしたり、ごまかそうとするよね。
望月 そう思います。しかも、表でだけじゃなく、裏でも本当に"いろいろなこと"をやる。私がある筋から聞いた話では、週刊誌が加計学園の教授と安倍政権の不適切な関係をすっぱ抜いたときも、官邸から教授に連絡があって、「1ヵ月ほど海外に隠れていて」と要請があったそうです。
古賀 ああ、それはわかる。僕も官邸から"出国"を勧められたことがあるから。
テレ朝の『報道ステーション』で「アイ・アム・ノット・アベ」(*2)と発言した15年初春のこと。官邸の長谷川英一広報官から「メシを食おう」というメールや電話が何度も入ってね。相手は経産省時代の先輩。最初は誘いをかわしていたんだけど、根負けして都内の和食店で会ったんです。
その席で彼が切り出したのが、なんとトルコ行き! 「君は海外で活躍すべき。とりあえずイスタンブールの大学に行って、将来はアメリカで活躍してみないか」としつこく勧められた。おそらく、政権批判する僕を海外に追っ払おうとしたんでしょう。でもトルコじゃ暗殺されかねない(笑)。
(*2)2015年1月23日、テレビ朝日系『報道ステーション』にコメンテーターとして主演した古賀氏は、「IS」(イスラム国)による2邦人殺害を受け、安倍政権の外交安保政策を批判。殺害された後藤健二氏にちなむ反テロ運動支援メッセージ「I am Kenji」をもじって、「今こそ、日本人は『アイ・アム・ノット・アベ』と世界に向けて発言すべき」とコメントした。この放送により、テレビ朝日は官邸から猛抗議を受けた
★『週刊プレイボーイ』39・40合併号(9月11日発売)では、 「森友&加計」えこひいきの現場、そして日本の防衛費が膨れ上がる本当の理由について、ふたりが忖度ナシで語り合う!
(撮影/高橋定敬)
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11年に退官。著書に『官僚の責任』(PHP新書)、『日本中枢の狂謀』(講談社)など。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中
●望月衣塑子(もちづき・いそこ) 1975年生まれ、東京都出身。東京新聞社会部記者。千葉、横浜、埼玉の各県警、東京地検特捜部などを担当。2児を出産後は日本の兵器ビジネスや軍学共同について取材。著書に『武器輸出と日本企業』(角川新書)。森友・加計問題をめぐる菅官房長官への追及で一躍有名に